ポルシェ718ボクスター GTS 4.0の納車から1年経ちましたので、詳細レビューをお伝えします。1回目は「エンジン」について、718を6年間乗り継いだ現オーナーが、ベースグレードとの違いを織り交ぜながら紹介したいと思います。

718ボクスター GTS 4.0についての全般的な魅力紹介はこちらをご覧ください。

まずは水平対向エンジンについて

ポルシェ718ボクスターは、ベースグレードもGTS 4.0も水平対向エンジンを搭載しています。水平対向エンジンは、今では四輪自動車では世界中でスバルとポルシェしか作っていません。

ポルシェ911カレラ(992)用の水平対向6気筒ターボエンジン。ポルシェのプレスキットより。
ポルシェのプレスキットより。これは911カレラ(992)向けの水平対向6気筒ターボエンジン

水平対向エンジンは、メリットもあればデメリットもあります。

デメリットとして挙げられるのは下記です。

・高速で動くピストンが水平方向に取り付けられているため、オイルマネジメントや片減り対策が難しい(ピストンが上下に動いた方がラク)

・縦置きの場合、燃費を稼ぐためにロングストロークにしようとすると横幅が広くなる(フロントにエンジンを搭載すると、タイヤの切れ角とも干渉してしまう)

特に燃費性能が重視される今日では2点目が大きな問題になり、合理性やコストの面からどんどん減ってきてしまいました。(ポルシェもフロントエンジン車には水平対向エンジンを搭載していません)

ただ、もちろんメリットもあります。よく言われるのは下記です。

・水平に向き合う形でピストンが動くことで振動を打ち消し合うため、振動が少なく滑らかなフィールが得られる

・重心高を下げられる(もちろん補器や排気管の取り回しでそうとも言えないという指摘はあるのですが)

ポルシェ911カレラ(992)用の水平対向6気筒ターボエンジン。ポルシェのプレスキットより。
同エンジン。水平対向エンジンはかなり薄いことがわかる

こうした独特のフィーリングを大切にして、スバルとポルシェというメーカーはこの方式のエンジンを残しているのだと思います。プラットフォームが水平対向エンジンに最適化され、今さら変えられないのも事実だと思います。

(ちなみに、スバルは2023年度(4月~翌3月)の世界生産台数約97万台すべてが水平対向エンジン車、ポルシェは2023年の世界販売台数のうち約7万台が水平対向エンジン車です。生産規模からすると圧倒的にスバルの方が大きいことがわかります)

追記:トヨタにおけるスポーツカー(86、スープラ)の企画者としても有名な多田哲哉氏による、下記の記事も面白いです。

スバルの水平対向エンジンの燃費性能について

ポルシェの水平対向エンジンの歴史(のさわり)

ポルシェと水平対向エンジンの歴史は、ポルシェの創業期から続きます。

最初に世の中に出たポルシェ356(1948年)。すでにそのモデルから水平対向エンジン(当時は水平対向4気筒)が搭載されています。ちなみに、現在では911と718という、エンジンを後ろに積んだスポーツモデルのみ、この方式を残しています。もとはと言えばフォルクスワーゲン・ビートルもポルシェ博士による設計なので、ポルシェは水平対向エンジンを作ってきた歴史が長いのですよね。

と、ここで脱線すると永遠に6気筒と4気筒の違いにいけないので、このへんで。

現在のポルシェの水平対向エンジン

ボア×ストロークの謎

GTS 4.0は水平対向6気筒、4.0Lの自然吸気エンジン (NA)を搭載しています。エンジンのボア×ストロークは102.0㎜×81.5㎜

対するベースグレードは水平対向4気筒、2.0Lのターボエンジン。ボア×ストロークは91.0㎜×76.4㎜。(ちなみにSは102.0㎜×76.4㎜)

ところで、911のエンジンのボア×ストロークは91.0㎜×76.4㎜。

911ターボ系は102.0㎜×76.4㎜。

911GT3系と718RS系に搭載された「別物」と言われるエンジンのボア×ストロークは102.0㎜×81.5㎜。

あれ、ボアもストロークもそれぞれ2種類しかない?

エンジンのモジュール化

そうなんです、ポルシェの水平対向エンジンは718ボクスターに積まれる2.0Lの4気筒エンジンから911ターボに積まれる3.8Lの6気筒エンジン(650PSを発生)まで、基本設計が共通化されていて、部品がモジュール化されているんですね。

共通化されているのは軸間距離で、118㎜だそう。昔から不変なんですよね。かなり広めですので隔壁は厚い。全てのエンジンがクローズドデッキです。(ポルシェは経営不振だった時代にエンジンをオープンデッキ化しましたが、997型911の後期からクローズドデッキに戻っています。)

そこから4気筒にしたり6気筒にしたり、ターボをつけたりつけなかったりと、乱暴に言うとそんな感じ。(もちろん「別物」エンジンは基本設計以外ほとんど別物のようです)。

ちなみに、このエンジンファミリーの型式は9A2か9A2evoだそうです。

ポルシェの9A2型エンジンの模式図。ポルシェホームページより
9A2型エンジンの模式図。ポルシェホームページより

参考文献:Christophorus 2020/1

718 GTS 4.0モデルの水平対向6気筒エンジン概要

このようにモジュール化を進めてきたポルシェのエンジンですが、GTS 4.0に搭載されるエンジンの直接のベースは911に搭載されている3.0Lターボエンジン。

乱暴に言うと、ボア・ストロークともに大きい方を採用し、ターボチャージャーを外し、クランクケース、シリンダーヘッド、ピストン、クランクシャフト、コンロッド等を新設計したもの。出来上がりとして4.0Lの水平対向6気筒自然吸気(NA)エンジンになっています。

ポルシェ 718 GTS 4.0に搭載される水平対向6気筒NAエンジン。ポルシェのプレスキットより
718 GTS 4.0に搭載される水平対向6気筒NAエンジン。ポルシェのプレスキットより

ボア・ストロークともに大きい方、ということは、このエンジンはポルシェの水平対向エンジンの中で最大の排気量ということですね。

いずれにしても、ボアとストロークを見ればわかる通り、今時珍しい超ショートストロークのエンジンです。ちなみにスバルが誇った水平対向4気筒エンジンであるEJ20のボア×ストロークは92.0㎜×75.5㎜、それよりもショートです。(スバルの水平対向6気筒エンジンであるEZ30は89.2㎜×80.0㎜、同じくEZ36は92.0㎜×91.0㎜)。

ヨーロッパの排ガス規制である「Euro 6d-Temp」に対応するために、高価なピエゾ式燃料噴射(ディーゼルエンジンに搭載されている燃料噴射方式)を採用するなどの工夫をしています。また、のちに述べるように低負荷時に片側のバンク(3気筒)が休止する機構も搭載しています。

水平対向6気筒と4気筒の比較:全体的な感想

GTS 4.0の水平対向6気筒エンジン、ベースグレードの水平対向4気筒エンジンとどのような違いがあるのかを見ていきたいと思います。

まずは、GTS 4.0に乗り換えてのざっくりとした感想から。

GTS 4.0のエンジンは6気筒NAになって、「気持ちよい」と感じる速度域が少し上になった感じです。日本の道路では実力を発揮できるところはほとんどないのが残念。逆に、ごく限られたシーンのためにこの過剰なスペックがあるのも贅沢なことなのかも。本当はくねくねの山道でも制限速度が100km/hのドイツやイギリスだったらもっと楽しいだろうな、と思うことも。もちろん、流すだけでも味は濃いです。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0。水平対向6気筒NAエンジンを積む
GTS 4.0。ポルシェらしい水平対向6気筒NAエンジンの上質さが魅力。
ポルシェ 718ボクスター。水平対向4気筒ターボエンジンを積む
ベースグレード。水平対向4気筒ターボの独特のビートとトルク感、軽快感が魅力

それでは、GTS 4.0、ベースグレードのエンジンをそれぞれ見ていきましょう。

718ボクスター GTS 4.0の水平対向6気筒NAエンジン

エンジンスペック

ざっとエンジンスペックを振り返りましょう。

エンジン形式9A2 evo
エンジン種類水平対向6気筒
ボア×ストローク(㎜)102.0×81.5
総排気量(cc)3995
最高出力400ps(294kW)/7000rpm
最大トルク430Nm(43.8kgm)/5500rpm(PDK)
420Nm(42.8kgm)/5000-6500rpm(MT)

フィーリング

全体に振動の少ない、上まできれいに回るエンジンです。ピークトルクの430Nm (PDKの場合。マニュアルは420Nm) の発生回転数は5500回転と、NAならではの高回転型。体感でも6000回転を超えたあたりからのひと伸びは、なかなか近年味わえない気持ちよさだと思います。

レブリミットは7800回転。718ケイマンGT4 / スパイダー系のエンジンのECUチューン違いです。(こちらのエンジンは8000回転回る)。

GPF(ガソリンパーティキュレートフィルター。排ガス対策のフィルターです)がついたとはいえ、音もよい。

NAならではのレスポンスの鋭さも魅力です。踏んだ瞬間にスロットルが反応して加速を始めます。全体に、これぞポルシェというような上品なエンジンフィールです。

ちなみに、この車には気筒休止モードがついていて、一定の条件下でトルク要求が最大許容量の10%以下になると作動します。 作動させないことも可能です 。作動すると3気筒になります。GRヤリスと同じです!笑

作動するとボワーンというちょっとした振動と音の変化ですぐにわかります。また、20秒ごとにバンクが切り替わるのですが、その時の音も聞こえます。今時エコな感じがあり、私はわりと好きで使っています。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0のエンジンパワー・トルクカーブ
GTS 4.0のエンジン性能曲線(トルクカーブ)。これはMT仕様のもの。PDKは5500回転で430Nmを発生。

718ボクスターの水平対向4気筒ターボエンジン

エンジンスペック

下記は、私が持っていたモデルのスペック。その後少しエンジンに変更があり、最大トルクの発生回転が変わっています。

エンジン形式 
エンジン種類水平対向4気筒ターボ
ボア×ストローク(㎜)91.0×76.4
総排気量(cc)1988
最高出力300ps(220W)/6500rpm
最大トルク380Nm(38.7kgm)/1950-4500rpm

登場時に、スバルのEJ20エンジンに音が似ている、といわれていましたが、ボア×ストロークも驚くほど似ています(EJ20は92.0㎜×75.5㎜)。

フィーリング

全体に、良い意味で少し荒々しいエンジン。往年の空冷4気筒のようなビートを感じます。排気管の取り回しの関係で排気干渉があるため、昔のスバルのようなドロドロとした独特の音があります。これはこれで私は好きです。1600回転くらいのところでステアリングホイールとの共振があるのか、少し振動がステアリングホイールに伝わってくる回転域があります。

一方、トルクカーブを見てもわかるように、低回転からブーストがかかり、背中を押し付けられるような感覚があるのはターボならでは。高回転になると振動が少なくなり、シューンと回るとバイクのような雰囲気になってきます。NAほどの高回転の伸びはもちろんありませんが、それでも実用ターボと違い、それなりに伸びもあります。なかなか雰囲気のあるエンジンだと思います。

ポルシェ 718ボクスターのエンジンパワー・トルクカーブ
ベースグレードのトルクカーブ。4000回転まではこちらの方がGTS 4.0よりもトルクがあることがわかる

水平対向6気筒と4気筒の音と加速フィールの比較

エンジン音を比べると?

水平対向6気筒NAエンジンは、まさにポルシェという感じで「上品」。2000回転からのウォーンという音も魅力ですが、高回転まで回した時の音もきれい。ただし、981型の水平対向6気筒NAエンジンと比べると、金属的な音が減って、全体に少しくぐもった、ドスの効いた音になっています。音を比べると、前のモデルのGTSが良かった、という人はけっこう多いと思います。

それに対する水平対向4気筒ターボエンジンは「ワイルド」。(私のはGPFはまだ付いていませんでした)。結構加速時にパンチの効いた凶暴な (?) 音がするので、私はなかなか好きでした。

ポルシェ乗りは圧倒的に6気筒好きが多く、ポルシェにこだわらない車好きは4気筒も好きな人が多い感じです。私はもともとポルシェ好きというわけではなかったので、4気筒はすぐ受け入れられました。

加速力

スペックシート上の加速力は下記の通り。

718ボクスター MT / PDK
最高速度(㎞/h)275 / 275
0-100㎞/h加速5.1秒 / 4.9秒
0-100㎞/h加速ー / 4.7秒
0-160㎞/h加速11.3秒 / 11.1秒
0-160㎞/h加速(同)ー / 10.8秒
0-200km/h加速18.3秒 / 18.1秒
0-200㎞/h加速(同)ー / 17.8秒
80-120km/h加速(5速選択時)5.6秒 / ー
80-120km/h加速(PDK)ー / 3.2秒
1/4マイル加速13.4秒 / 13.2秒
1/4マイル加速(同)ー / 13.0秒
(※)スポーツクロノパッケージ装着・ローンチコントロール作動時
 718ボクスター MT / PDK718ボクスター GTS 4.0 MT / PDK
最高速度(㎞/h)275 / 275293 / 288
0-100㎞/h加速5.1秒 / 4.9秒4.5秒 / ー
0-100㎞/h加速(※)ー / 4.7秒ー / 4.0秒
0-160㎞/h加速11.3秒 / 11.1秒9.2秒 / ー
0-160㎞/h加速(同)ー / 10.8秒ー / 8.7秒
0-200km/h加速18.3秒 / 18.1秒14.1秒 / ー
0-200㎞/h加速(同)ー / 17.8秒ー / 13.7秒
80-120km/h加速(5速選択時)5.6秒 / ーー / ー
80-120km/h加速(PDK)ー / 3.2秒ー / 2.6秒
1/4マイル加速13.4秒 / 13.2秒12.5秒 / ー
1/4マイル加速(同)ー / 13.0秒ー / 12.1秒
(※)スポーツクロノパッケージ装着・ローンチコントロール作動時

数字だけ見ると、さすがに6気筒の方が全面的に速そうです。

よく比較される0-100㎞/h加速も、718ボクスターのMTで5.1秒、PDKで4.9秒(スポーツクロノパッケージ装着、ローンチコントロール作動時4.7秒)。

718ボクスター GTS 4.0のMTで4.5秒、PDKで4.0秒とそれぞれ0.6-0.7秒ほど速くなっています。

加速フィールは?

加速力と実際の加速フィールは意外に一致しないのが面白いところ。

水平対向6気筒NAエンジンは低回転からの加速感は「普通」で、すごさが出てくるのは2速でも100km/h前後からです。なかなかその実力を発揮できるシーンは多くありません。

一方、水平対向4気筒ターボエンジンは低回転からグイっとトルクが立ち上がり、日常使いの低速域でも刺激を味わえます。実際スペック上も重量の違いを考慮に入れると4500回転くらいまではベースグレードの方が速いです

非日常的な快感は6気筒、日常での刺激は4気筒でしょうか?

なお、このエンジンに組み合わされるトランスミッション、マニュアルトランスミッション(MT)とデュアルクラッチトランスミッション(PDK)のギア比やフィーリングについては下記に詳細を書いています。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0: MTとPDKの比較を読む


今回は、718ボクスター GTS 4.0の納車から1年経って、エンジンについてベースグレードとの比較を中心に書いてきました。

次回は、エンジン以外の走り(走行性能)について書きたいと思います。

「走り」編に続く

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