だいぶ前に、我が家のポルシェ 718ボクスター GTS 4.0にバルブコントローラーをつけたという話をしました。
バルブが常時開放になることで、純正のポルシェ・スポーツ・エグゾースト(PSE)では閉じてしまう1,500-4,000rpmでも排気音は野太くなりました。
ですが、これとは別にスポーツモードとスポーツ+(プラス)モードでは、ノーマルモードでは聞こえない、「ウォーン」という、エンジンがむせぶような音がするような。
じつはこれは排気音ではなく吸気音。これがスポーツモード以上だと何やら裏で仕組みが動いて、いい音がするというわけですね。
ということで、今日は吸気音のお話です。

GTS 4.0では、「ウォーン」という音がする
ノーマルモードではあまり感じられないのに、スポーツモードやスポーツ+モードにすると存在感を増してくる音。
2,000rpm以上で発生し、3,000rpmくらいまで持続する音。
排気のフラップが閉じていてもする音。
そう、「あの音」です!
GTS 4.0 / GT4 / スパイダーに搭載されるSound Symposer
この音を発生させる「裏で何やら」の正体は、「Sound Symposer」。
718ボクスター GTS 4.0 / 718ケイマン GT4 / 718スパイダーには標準でついてきます。
簡単に言うとこんな感じ。
・インテークマニホールドから盲腸線のようなパイプを取り付け、取り込んだ空気の一部がパイプに流れるようにしておく。
・パイプにはSymposerの筐体(管楽器のように、特定の周波数の音が共鳴するように作られている)が取り付けられている。
・スポーツモード / スポーツ+モードにすると、Symposerバルブ(吸気共鳴バルブ)が開く。バルブが開くとパイプ内に空気が流れて、Symposerにおいて吸気共鳴が起こる。
・その音をパイプの先にある専用のダクトを通して室内に取り込む。
まぁ、説明図を見てもらった方が早いと思います。

レクサス LCなどでもこの機構は採用されてますね。初代スバル BRZ / GR86も、もう少し簡易ですが同様の機構がついていました。
なんで、いい音がするの?
いい音の正体は空気が吸気管を流れるときに発生する振動音の共鳴現象(ヘルムホルツ共鳴)によるもの。フラスコに息を吹き込むと、「ボーッ」となるのと同じです。

エアインテーク→エアボックス→スロットル→インテークマニホールドと空気が流れていく中で、これらが特定の周波数の時にとても共鳴が起こりやすくなる。718 GTS 4.0の場合は2.2-3.0KHz(中高音域。女性の高い声に相当)くらいの帯域で共鳴が起こりやすいようです(ヘルムホルツ共鳴帯)。エンジン回転数でいえば2,000-3,000rpmあたりの回転数で最も強く共鳴するようです。
Symposerバルブの開閉を通して、この共鳴管への吸気の流量をコントロールしているみたい。
制御パラメータは「エンジン回転数」と「アクセル開度(トルク要求度かも)」。(私の観察による推測です)。
だいたい2,000-3,000rpm付近でアクセル開度をMaxにすると、Symposerバルブが全開になり、ヘルムホルツ共鳴がMaxになり、その音が室内に導入される、というわけです。
これがむせぶような「ウォーン」という音の正体でした。
きれいな音を出すには、パイプとSymposerの形状の最適化が欠かせません。
さらに、音をただ流しただけでは単に耳障りになるので、細かなバルブの制御により流量をコントロールして、吸気の際の原音とうまくブレンドすることが大切です。
ちなみに、バルブの開閉にエンジン回転数だけでなくアクセル開度(か要求トルク)をパラメータとして使っているのは、人の感覚とずれないようにするため。例えば減速時にシフトダウンした時にこの音がしてきたら、「なんか違う」ってなりますよね。なので、「加速するぞー」という時だけにバルブ開閉をするのでした(たぶん)。バルブの開閉も0%~100%まで、エンジンの回転上昇とアクセル開度に応じて連続可変するようです。
こういった細かい制御がないとどうなるか?(あまり大声でいうのは失礼ですが)それは・・・初代BRZ / 86(・・・だったっけ、かな)と比べてみてください・・・。
・・・しょうがない、お見せします。トヨタ 86(ZN6)です。
この、ずっと鳴り響いている高周波の音がそれです(たぶん)。妨害電波のような、宇宙人の来襲のような音。実際はセンターのダッシュボードあたりから音が出ているので、それなりに強烈です。圧縮された音で聴くとあまり感じられないかもしれませんが。。。
718 ケイマン GT4 / 718スパイダーとは違うの?
私は実際に確かめたことがないのですが、ポルシェのコミュニティに転がっている情報を見ると、この両車の方がダクト(室内への導管)の形状をまっすぐに、長めにしているようです。エアボックスの吸音材の材質も違うとか(GTS 4.0より硬い)。
その結果、より高回転で高い音(クォーンというちょっと金属的な音)が追加されるような感じになるみたいです。逆に、中回転域のウォーンというむせぶような音はあまりしないのでは、と思います。このあたりのサウンドチューニングにも、車の性格分けが反映されている、というわけですね。
これはぜひ、私も友人の車の助手席に座って確かめてみたいものです。
ちなみに、718 ケイマン GT4 RS / 718スパイダー RSは吸気の考え方からレイアウトまで全然違うので、音も全然違います。
おまけ:718の4気筒モデルに搭載されるSound Aktor
今まで6気筒モデルの吸気チューンを見てきましたが、4気筒にも音響チューンはあります(これは吸気チューンではないですが)。
どんなもの?
ポルシェ 718シリーズの4気筒モデルには、Sound Aktorという音の増幅モジュールがついています。ポルシェの公式の説明でも、「The electric sound actuator」と書かれているので、いろいろなところで「スピーカーから合成音(=Fake Sound)を流している」と書かれている代物。
もともとは2011年からVW ゴルフ GTI / Rに搭載されたのが始まりのようです。
何をやっているかというと、こんな感じ:
・エンジンルーム付近の共鳴しやすいパネル上に設置(718の場合はシートとエンジンを隔てるバルクヘッドの室内側(たぶん))
・電気の力でアクチュエーターが動作し、振動を生み出すことでパネルを振動させ、共鳴を起こす(太鼓と同じ原理)
ただこれだけです。アクチュエーターが内蔵され、その作動によってSound Aktor自体が振動体になってパネルを揺らし、その振動波で音の共鳴を起こさせるわけですね。

インプットパラメータはおそらくエンジン回転数と要求トルク、速度、ドライブモードあたり。
そこから、おそらくECUが理想の音像になるように最適なパラメータを逆算し、Sound Aktorに振幅(Velocity)と周波数(Frequency)の指示をだし、Sound Aktorが躍り出す、みたいな感じだと思います。
機構は簡単ですが、ポルシェらしいのはECUがけっこう複雑な演算をしていそうなこと。
例えば、変な振動を出すと共鳴がひどくなってしまったりするのでそれを避けるように細かく振幅と周波数を調整する、などです。きれいに倍音(元の音の整数倍の周波数成分を持った音)が出るようにどのくらいの振幅と周波数で振動させるか、など、かなり細かい制御をしているものと思います。
どんな効果?
エンジンと人の間にこの振動体を置くことで、エンジンの透過音に振動体によるパネルの振動(共鳴)音が無理なくミックスされて耳に届くようになります。先ほど見たように、ECUが演算をして振動を起こさせているので、基本的にピンポイント(3,000-5,000rpmくらい)の周波数の音がちょっと強化されたような感じになるようです。
これってまぁ弦楽器の音を箱(筐体)で増幅しているのとそんなに変わらない原理を使っているので、普通に自然。この振動体自体はスピーカーのような発音器を持っていませんし、その音を増幅する装置(アンプ)もついていないので、たぶんついていてもわからないと思います(一応音には敏感なつもりの私ですが、5年間この装置の存在に気づきませんでした。ついてなかったかもしれないけど。笑)。
「The electric sound actuator」という言葉が独り歩きし、さらに悪いことにはVWグループがこの後にデジタル生成音をスピーカーで再生するシステムを採用したため、それらがごちゃ混ぜになって「Fake(偽物)」と言われることもあるものですが、これは単にアクチュエータが電動なだけだった、という代物。いわば、打楽器の演奏においてバチにあたるものを電動で動かしてます、というようなものです。
※Porsche Club of Americaにおける技術者による回答にも「“The 718 uses an actuator that vibrates the bulkhead to enhance engine note. It’s not a speaker.”」とあります。
ポルシェは専用の音響研究棟・音響実験室をもって、車ごとに音響設計のコンセプトづくりから実装まで力を入れてやっているようです。そこまでやるのは、「音」はポルシェのブランドの一部だから。作りこみはめちゃくちゃマニアックです。安易に合成音をそれと分かる形で使ったり、ということはなかなかしないのですね。
なぜ6気筒モデルと4気筒モデルで吸気チューニングのしかたが違うのか?(推測)
ここまでくると、なんで同じ718シリーズの中に複数の音響チューニングの方法が存在しているんだろう?と気になりますよね。
ここからは推論ですが、たぶんこんな感じだろうと思います。
6気筒モデル(GTS 4.0 / Spyder / GT4)の場合:
1.自然吸気エンジンの高音の伸びやかさを強調したい(→笛みたいな仕組みで吸入した空気をそこに通して高めの音を追加する。すると、望んだ効果が得られる!)
2.自然吸気エンジンの方が吸気の流れが安定しているため、1.の仕組みを使った時に効果が出やすい(息をしっかり吹き続けてくれる感じ)
3.ターボチャージャーがないので吸気の取り回しがシンプルで、単純にインテークマニホールドに盲腸線を分岐させるだけで実現できる(実装も楽)
4気筒の場合:
1.ターボの躍動感やパンチを表現するのには中低音の迫力を増したい(→太鼓のような仕組みで中低音が強化される。すると、望んだ効果が得られる!)
2.ターボチャージャーで吸気の流れが複雑になるため、吸入した空気を使ったサウンドチューンでは望む効果が得られにくい(息が荒くなったり静かになったり忙しい)
3.ターボチャージャーがあり吸気経路が複雑なため、吸気からの経路分岐などは実装上も難しい
まぁ、推測ですけどね。。。
でも、同じモデルラインの中でもこうして望んだ音像を得るために作り分けるのは、やっぱりそれなりに高い価格で売れるから。笑
逆に言えば、高いものには高いだけの余裕がある、というふうに考えることもできますね。
まとめ
たかが吸気音ですが、ここひとつとってもポルシェには確固たる哲学と実装の腕があるように感じられました。ポルシェというとどうしても走行性能の話になってしまいがちですが、音についてもポルシェは走行体験の重要な部分として認識して、力を入れて取り組んでいることがわかりました(ホント、GTS 4.0とGT4 / Spyderでも部品を変えてるんだから変態的ですね)。
こういうのを調べてると、ますますポルシェにはまっていきそうですし、やっぱりヨーロッパの車づくりって文化だなぁ、なんて思ったりしてしまいます。
ちなみに、今回の記事はGGGさんにお誘いいただいて、718ボクスター GTS とGTS 4.0を乗り比べる、という企画を実施していただいたことに触発されて書いたものです。
当人がとても素晴らしいブログ記事を書かれていますので、ぜひご覧ください。(2.5Lモデルと4.0Lモデルの比較。エンジン特性から吸排気音まで触れられています)
マニアック同車種コラボ ~ 718 Boxster GTS 4.0/2.5 ~(GGGさん)











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