我が家の車の中で圧倒的最年長の、オースチン・ヒーレー スプライト Mk1(通称カニ目)を紹介します。元祖ライトウェイトスポーツカーで、我が家で最小、最軽量の車でもあります。
オースチン・ヒーレー スプライトとの初めての出会い
旧車への漠然とした憧れ
じつは、この車は私の愛車の中でも、昔の記憶や思い入れがない車です。何せ、私が生まれた時よりもずっと昔に発売された車ですから。
私は昔から車が好きで、ずっと心のどこかに少年時代に乗りたかった車(たとえば初代セリカリフトバックやケンメリスカイライン)を自分で運転したい、という気持ちを持ち続けていました。

でも踏み出せず。転機になったのは初めてのセカンドカーとして2017年にポルシェ718ボクスターを買った時。
ポルシェを買ってから、2台も3台も同じだろう!なんていう気持ちになってしまい、ふと数年前に妻が古本屋で買ってきてくれた旧車の雑誌を思い出し(そこまで熱心に読まずに忘れていた)、ふと読み始めると、やっぱりほしい。
ついにカニ目と出会う!
でもいろいろ調べていると古い車は部品がなくて維持が大変そう。そんな中で、先ほどの雑誌で、ちょっとスペック的には地味で当時はあまり気に留めていなかったMG Bの記事を読み直し、あ、こういうのから始めるのがいいかも、と思ったのでした。
それで調べると、MG Bよりもっと小さいモデルがある、オースチン・ヒーレー スプライトというらしい。兄弟車のMGミジェットとあわせてスプリジェットというらしい。そんなところから知識の習得が始まりました。

小さければ小さいほど楽しそう。まだ車も相当数残っていそうで、それなりに安くて、部品が出る、そんなところからオースチン・ヒーレー スプライトが候補になってきました。
それでも旧車、やっぱり怖い。。。と思って1年ほど悶々としていましたが、2019年7月に、近くの旧車専門店にオースチン・ヒーレー スプライト Mk1(通称カニ目)を売っているのを見つけ、物は試し、と行ったが最後。セールスの方に熱烈に勧められて、1週間後に注文と相成りました。
1959年製、輸出仕様のため左ハンドルです。Mk3くらいもいいかななんて思っていましたが、このキュートな顔に魅せられてしまい、これにしよう!と。


オースチン・ヒーレー スプライト Mk1(カニ目):どんな車?
概要
オースチン・ヒーレー スプライト Mk1、通称カニ目。この手の車は、歴史についてもいろいろ書かれているものがあるので私が紹介するまでもないのですが(そんな知識もない)、手短にいうと、オースチン・ヒーレー スプライトはBMC(オースチンブランドを擁するイギリスの自動車メーカー)とドナルド・ヒーレー・モーターが共同で生み出した車。
同コラボはオースチン・ヒーレー 100という比較的大きな排気量のスポーツカーとして実現しているのですが、今度は小型で安価なスポーツカーを作ろう、ということでオースチンのA型エンジンなど既存の車のコンポーネントを組み合わせてライトウェイトスポーツカーを作ったのでした。
登場は1958年。日本ではまだ初代クラウンが走っていた時代です!

エクステリア
オースチン・ヒーレー スプライト Mk1は、2シーターのオープンカーでは当時唯一のモノコック構造のボディを持っています。そのためもあって背の低いボディです。
第二次世界大戦後、アメリカで生まれたフラッシュサイド(ボディ側面にフェンダーなどの突起物がないボディスタイル)の流れを汲み、ボディは流線形。今見ると、とにかく曲線だらけです。直線はないと言っても過言ではありません。




特徴的なのはフロントフェイス。日本でカニ目という愛称がついたことからもわかる通り、2灯のヘッドライトがボンネットの上に載っています。当時フェンダーにライトを埋め込むとイギリスの保安基準(地上からランプの中心まで26インチ(≒66㎝)以上の高さが必要)を満たせなかった、とかポップアップ型のライトにしようとしたがコストの関係でできなかった、など言われていますが、ともかくこの車を見たら忘れない、というほど印象的なデザインです。


トランクリッドがなく、荷物を入れたり取り出したりは座席を倒して後ろに広がる洞窟に頭を入れて行わなければいけませんし、ドアノブもなく車を外からロックすることもできないなど、今から思うとびっくりする仕様だったりします。でも、それもあって構造がシンプルで、軽量です。


とはいっても、当時は高張力鋼板などは使ってませんので、ボンネットはめちゃくちゃ重いですけどね。。

インテリア
オースチン・ヒーレー スプライト Mk1にインテリア、と呼べるものがあるのか?というほどシンプルです。ダッシュボードに必要最低限のメーターとスイッチ類があるのみ。

乗り込んでみると?
オースチン・ヒーレー スプライト Mk1、乗り込むと、とにかく着座位置が低い。地面に手が届きそう。視界?はい、もちろんよいですよ。そして、Aピラーもあるかないかのような太さで、ほぼ垂直に立っているので目の前を遮るものがなく、オープンカーといっても現代の車とは比較にならないくらいの開放感があります。

座席のリクライニングとかはできません。シートは一応ビニールで覆われていますが、学校の椅子に座るような硬さです。
走り
ここからは、オースチン・ヒーレー スプライト Mk1の走りについて、エンジン、トランスミッション、ハンドリングと足回りについて順に見ていきます。
エンジン
エンジンはミニの先祖ともいえるA35用の948ccエンジンを、低いボンネット用に改変してツインキャブ化(SUキャブ)して使っています。初代ミニのエンジン(ボアは同じ、ストロークが違う)も源流はこのエンジンなので、兄弟とも言えますね。

日産は1953年以降オースチンA40、A50のノックダウン生産をしていた関係で、のちのサニーに積まれる日産A型エンジンも、元をたどると類似点がかなりあるようです。
実際に走ってみると、なかなか低速トルクもあり、非力で大変、という感じはありません。もちろん2速で急な坂道を登ろうとすると失速して、シンクロ機構のない1速につなぐという至難の技をやらなくてはいけなくなりますが、それ以外はいたって普通。
うちの車はハイカム仕様なのか、3500回転くらいになると非常に粒のそろったきれいな回転になって5000回転くらいまで気持ちよく回ります。まぁそんなに回すことはあまりありませんが。。
あまりに扱いやすくて、1950年代の車だということを忘れてしまいそうです。
トランスミッション
4速マニュアル。1速のみシンクロ機構がなく、2-4速はシンクロ機構付きです。前述の通り、坂道での2速での失速だけ気にすればよく、運転に特別な技術は必要ありません。
かなりショートなギアで、100㎞/h時に4,000回転くらい回っているはずなので、まぁうるさいです。
でも、それよりもその速度以上だと怖い。通常は高速でも80㎞/hくらいで走るのが気持ち良いかな、と思います。100㎞/hだと超絶速く走っているような緊張感が走ります。
その理由は、、、次で説明します。

ハンドリング、足回り
超絶クイックなハンドリング
ステアリングはラックアンドピニオン式。古い車というとパワステがないために、トラックみたいな大径ステアリングホイールをよっこらしょと回すイメージを持つ人も多いと思います。この車もオリジナルは大径のステアリングホイール(樹脂製)ですが、モトリタ製の小径のものに変わっています。

車重が軽いため、機構が単純なラックアンドピニオンを使っているのも特徴。そういう意味でも現代の車とあまり変わりません。ロックトゥロックは2 1/3回転とかなりクイック。
ステアリングは、「クイックというのはこのことをいうのか?」と思うくらいクイックですが、センターに遊びもなく、セルフアライニングトルク(要はステアリングが自然に戻ろうとする力)もほとんどないので、車はちょっとハンドルを切ったらその方向に向かっていきます。そして2030㎜のホイールベース。
これが何を意味するか?そう、高速道路ではしっかりハンドルを握っていないと左右にちょこちょこと動き、自身では戻らない。少しでも路面が荒れていたら修正舵が必要です。現代の車がいかに、車の力(アシスト含む)で楽にまっすぐ走れているかがわかります。
逆に、コーナーリングは、もうこれぞダイレクト!今の車と違ってダイレクト「感」を出しているのではなく、カートみたいにダイレクト。各部の剛性感が特別高いわけではないので、すごいシャープなわけでもないのですが、とにかくステアリングからタイヤまでが機械でつながっているのがありありとわかる、そんな生々しい感覚があります。
原初的な印象の足回り
フロントサスペンションはオースチンA30と同じ機構で、ウィッシュボーン。

そしてリアは1/4楕円リーフスプリング!
特にフロントのストロークは少なく、ボヨンボヨンと跳ねる感じです。
そしてリアは、トラックと同じ板バネですから、ボヨヨーン、ボヨヨーンといつまでもゆらゆらと揺れています。ダンパーもなく、頼りなくふわふわと揺れ続けますが、ストロークはそれなりにあるので跳ねることはない。
しばらくぶりにこの車に乗ると、(現代の車は)サスペンションとダンパーってほんとにいい仕事しているんだな、と実感します。
走ってみて感じること
と、一応要素要素書き出してみましたが、結局のところオースチン・ヒーレー スプライト Mk1ってどうなの?というと、
「オープンエアの気持ちよさは現代の車とは別世界」
「地上ともすごく近くて、私今走っているわーという感じが強い(やや意味不明)」
「ダイレクトという言葉はこういう車のためにある、現代の車とはもう別物。自転車に乗っているような気分の方が近いかも」
「ハンドルは敏感だし、乗り心地も最悪でまぁー疲れるわ。車と闘っているといってもいいくらいかも。でもこれがたまらないのよ」

と、まぁこれを楽しめるのってただの変態なのか、それとも自転車に乗るような(まさに機械との一体感がある)、普遍的な魅力があるのか、正直よくわからないです。
でも、マツダ ロードスターに乗ると、オースチン・ヒーレー スプライトが持っているような原始的な楽しみをうまく受け継いでいるような気がして(それでいて疲れない)、そういう意味ではやっぱり何かしら普遍的な魅力があるんじゃないかなぁ、と思う次第です。
燃費
オースチン・ヒーレー スプライト Mk1の燃料は27Lしか入らず、どれくらい残っているか燃料計も怪しいので、基本的に200㎞走ったら給油するようにしています。平均燃費は12.07㎞/l。いいのか悪いのか、この車重を考えればあまり良くないですね。あまり安定もしないので、そこは悩ましいところです。
維持について
オースチン・ヒーレー スプライト Mk1の維持は、信頼できるショップがあればそれほど難しくないと思います。部品が新品で出てくるのが良いところ。
ただし、基幹部品(トランスミッションなど)は新品でも設計が悪く、組み込んでみたら動かなかったということも最近多いようで、やはり悩みはあります。
それでも、日本の同年代の旧車に乗るよりははるかに楽だと思います。知り合いで360に乗っていらっしゃる方がいますが、部品がなくて1年半預けたまま、帰ってくるあてもないと嘆いていました。。
車の保管場所には少し気を遣います。冬の間はエンジンがかかってから回転が安定するまで数分かかるので、マンションの地下駐車場は何かと迷惑をかけてしまいます。いまは実家の車庫に居候している状況です。


故障について
私のオースチン・ヒーレー スプライト Mk1の主だった故障はこちらの記事に書いてありますが、どうしても走行中突然走らなくなることはありました。
長年のオーナーによると、一通り故障すれば落ち着く、とのこと。何だこの達観ぶりは!?
ただ、確かに私の場合そろそろそのサイクルに入ってきているような気もしています。そうなると心配も少なく、楽しいですよね。
まとめ
特に最初は思い入れのなかったオーナーによる、オースチン・ヒーレー スプライト Mk1のレビューをしてきました。
旧車の楽しさは、車の調子が一定でなく、その機嫌を伺いながら走っているうちに愛おしさが湧いてくる、というところかなと思います。いまだに急に機嫌を損ねたらどうしようという不安が強い時もありますが、乗っていくうちに信頼感も生まれ、一緒に走るのが楽しくなる、そんな瞬間が楽しくてここまで乗ってきたような気がします。
きっと唯一無二の存在として対話しながら、これからもこの車に乗り続けるんだろうな、と思っています。
ということで、(別の車を指して)じゃあこの車もどお?といわれたら、ちょっと増やそうかな、という気分にはならなくなりました。笑













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