ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0、初めて助手席に乗る機会がありました。普段運転する自分の車、助手席に乗ってみるとまたびっくり。今回はその模様をお伝えします。
えっ?これが助手席の乗り心地?
ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0、息子が初めて運転したので、その助手席に乗りました。
まず、初心者マーク。外板はほとんどアルミ合金なので磁石がつきません。仕方なくリアウィンドウの中から吸盤で固定します。
それはさておき、出発!

私(助手席):「なんかこの車思ったよりすごく乗り心地いいね。」
息子(運転席):「なんかけっこうがたがた揺れるんだね。」
これが、初めて立場があべこべになった二人のファーストインプレッションでした。

運転席と助手席での「乗り心地」の感じ方の違い
なぜ二人、あべこべの感想になったのでしょうか?
それは、運転席と助手席では車との関わり方が違うからだと、当たり前のことに気づきました。
| 運転席 | 助手席 | |
| 車との接点 | 3か所 (シート、ハンドル、ペダル類(+フロア)) | 2か所 (シート、フロア) |
| →車の揺れを感じ取りやすい | →車の揺れを感じ取りにくい | |
| 車との関わり方 | 自分で運転 | 座っているだけ |
| →脳が車の揺れを「予測」するため揺れを感じにくい | →揺れに対して受動的。揺れを「大きく」感じやすい | |
| →情報過多のストレスで、(心理的に)乗り心地が悪いと感じることも | →情報過多のストレスによって乗り心地が悪いと感じることはない |
車との接点が違う
運転席ではシートのほか、ハンドルとペダル類が車との接点になっています(一部フロアに接している)。
特にハンドルは最も車体振動を敏感に伝えてくる部位で、中~高周波の情報(路面のうねりや目地 < 路面の粗さや粒度由来の接地振動 < シャフト・ジョイント部の微小なバックラッシュ(遊びからくる振動) < EPS制御による微小なトルク補正など)が入ってくるため、乗り心地の感じ方への影響が大きそうです。


一方助手席ではシートとフロアのみで車と接しています。

このように、運転席では、ハンドルとペダルから車の振動を受け取っているところが、助手席との大きな違い。
一般的にいえば、ハンドルを筆頭に振動を発生するパーツとの接点が多い運転席の方が、乗り心地は総じて悪く感じる方に働きそうです。
一方、助手席ではハンドルやペダルなどの車との接点がないことで、逆に残った接点に対する感覚が鋭敏になり、よりシートやフロアを通しての揺れに敏感になる傾向がありそうです。
車との関わり方が違う
運転席と助手席では車との関わり方が異なります。運転席のドライバーは運転の主体です。助手席に座っている人は運転に対しては受動的な立場になります。
運転席での車との関わり方と揺れの感じ方
ドライバーは自分が車を操っているので、車の動きを予測できます。路面が荒れていれば「揺れそう」と身構えることもできるし、自分が切ったハンドルやアクセル・ブレーキで「車が揺れるな」という予想を立てることができます。そうして、必要に応じて筋肉を硬くするなどして揺れに「身構える」ことができます。一般的には、脳が揺れを予測できた方が、いわば揺れをコントロールしている状況になるため、心理的には揺れを感じにくくなりそうです。

一方、ドライバーには(現時点では)運転の責任があります。ドライバーは運転するために視覚・聴覚情報や車からのフィードバックを受け取って情報処理をしないといけないため、情報過多によるストレスがかかっています。こうした情報の多さ、特に車からのフィードバックは、運転に集中している時は「快感」と感じますが、疲れていて運転したくない時などは、(心理的な)乗り心地の悪さを感じる要因になりそうです。
こうしたことから、ドライバーは通常は揺れを感じにくくなるものの、あまりに車からの情報量が多いと心理的な乗り心地の悪さを感じることがありそうです。
助手席での車との関わり方と揺れの感じ方
助手席にいると身体が受け身になっています。そのため、揺れのタイミングが読めません。揺れに備えて筋肉を固めたりすることができず、揺れが発生してから受動的に揺れを知覚します。これはたとえば、突然大地震に遭遇した時に似ているかもしれません。この時には、揺れに対する脳の備えがないため、揺れを大きく感じとる傾向がありそうです。

一方で、基本的に運転する責任がないことから、情報処理をしなければならないストレスは多くありません。このことから、情報過多によって心理的に乗り心地が悪いと感じることはあまりなさそうです。
まとめ:運転席と助手席での乗り心地の感じ方の違い
上記から、振動を知覚する場所ごとに、乗り心地への影響は運転席と助手席では異なっていそうです。
◎は、乗り心地への影響が「非常に大きい」、○は同じく「大きい」、△は同じく「なくはないけど大きくない」、×は同じく「全くない」です。
| 運転席 | 助手席 | |
| ハンドル | ◎ | × |
| ペダル類 | ○ | × |
| フロア | △ | ○ |
| シート | ○ | ◎ |
助手席でポルシェ 718ボクスター GTS 4.0の乗り心地が良いと感じられたわけ
と、いろいろ書いてきましたが、じゃあ結局どうなのよ?となりますよね。
現時点の私の結論は、
ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0は、特にステアリングホイールからの情報量が多いため(常にハンドルがカタカタと揺れて車からの情報を伝えてくる)、運転席では乗り心地が悪く感じられるのではないか?
一方でその他の振動はそもそも少なめなので、特に助手席では乗り心地が良く感じられるのではないか?
ということです。
ステアリングホイールからの振動はかなりのもの
ポルシェ 718ボクスター(ケイマンももちろんそうですが)は、とにかく車を操縦するために必要な情報を車から返してきます。路面の凸凹もそうですし、アクセル・ブレーキによる前後の車の動きも、タイヤの路面との摩擦による振動としてステアリング機構を通して伝わってきます。もちろんハンドルを切った時の左右方向の車の動きも同様に伝わってきます。フィルターは最小限で、できるだけ正確にドライバーに伝えるようにしていると思います。

ブレーキも踏めば反力をしっかり伝えてきます。足裏にしっかりと振動を感じることができます。

助手席にいると、これらの振動から解放されます。これが思いのほか大きい。
乗り心地という観点だけからいえば、「ステアリングを握っていない」ことが、助手席で乗り心地が良く感じられる一番の要因だと感じました。
そのほかの振動はかなり少ない
でも、それだけでしょうか?
ポルシェ 718ボクスターの乗り心地が良いと感じられるもう2つ目の理由は、ステアリングホイール(+ペダル類)以外からくる構造的な振動がかなり少ないことです。
たとえばシートやフロアを通して感じられるボディの微振動(主にアスファルトの粗い面などからくる)はほとんどありません。
エンジンや駆動系の振動がシートやフロアを通して伝わってくるということもほとんどありません。
足回りも同様。段差に乗り上げてもダンパーが一発で揺れを収束させると、ボディ側の振動もすぐになくなります。いったんがつんという振動が来ても「ぶるん」と後を引くような揺れが残りません。急なアクセルやブレーキで発生する前後方向の動きでも同様です。
これらは、ボディフロアと足回りの剛性および足回り・エンジン等の取り付け部の剛性が非常に高いから実現できることだと思います。(ホントはそんな簡単な話ではなく力の分散のさせ方とかもしっかりとしているんだと思います。が私専門外で全く分かりませんのでこの辺で失礼します。)




また、そもそも車の上屋の上下動も小さく感じます。試しに目線の先に意識を集中すると、意外に上下に揺れていないことがわかります。揺れてもスパッと収まります。
これらは、ダンパーセッティングやブッシュの使い方が影響していそう(推測です)。おそらく縦方向に少し柔軟性を持った方向性ブッシュを使い(とはいえ外から見える部分のブッシュはかなり薄い)、ダンパーセッティングも縮み方向は少し減衰力を弱めにして力を吸収するため、路面の凸凹に対して上屋が動きにくいように思います。

もちろん、車重が軽く特に前軸重が軽いという重量配分特性も効いているのでしょう。(=前輪のスプリングを柔らかくできるため、入力自体をいなしやすい)
このように、運転席側でも助手席側でも共通に感知できるこうした構造的な「揺れ」はとても少ないと感じます。
シートはスポーツカーらしく厚みがなく、振動を吸収するのはそれほど得意ではなさそう。それでも乗り心地が良いのは、シートクッションなどに頼ることなく、そもそも揺れ(特に余韻のように残る長周期的な振動)を少なくする車作りをしているからだと感じます(これがサーキットなどでの「安心感」につながっていることも見逃せないポイント)。

こうした2つの特性が相まって、ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0は運転席ではけっこう乗り心地が悪く、逆に助手席では望外に乗り心地が良く感じるのだと思いました。
じゃあ、ほかの車はどうなのか?
ちょっと試してみました。
我が家の車で試せたものとしては、スバル レガシィ S401がわりと(ポルシェと)対照的な印象。

この車は油圧パワーステアリングで、GTカーらしくフィードバックはやや控えめ(それでも現代の車からすると多いほう)。
それなりに厚いクッションのシートと相まって、運転していると、「25年前の骨格を持つ車とは思えない、乗り心地と操縦性の両立」を実現していると感心します。

一方で、助手席に座ると、案外乗り心地が良くないことに気づきます。
一番感じるのは、首都高速などで段差を踏んだ時にシートバックから感じるボディの揺れ。ぶるん、と少し震えて、少し余韻を残しながら揺れが消えていきます。
もしかすると、シートの取り付け部の剛性が今の車に比べて少し足りないからかもしれません。
また、硬めのサスペンションから入ってきた振動をボディがガツンと受け止めるのですが、その際にボディ全体に振動が伝播していくのがわかります。そしてちょっとしてから揺れが収まります。
おそらく今ほど応力の逃がし方が洗練されておらず、車体全体が特有の周波数で共振を起こしてしまっているのだと思います。
やはり、25年も経つと車って進歩してるんだなぁと実感します。
(とは言え、それだから古い車はダメだ、と言っているわけではありません。車の魅力は多面的なので、1点を取り出して揚げ足を取ったところでその車の魅力に傷がつくことはありません!)
運転席、助手席それぞれの「乗り心地の良さ」
今までの話をまとめると、ステアリングやペダル類などからくる、意図的にドライバーに返している情報が多い車ほど運転席での乗り心地が悪く感じられ(逆に助手席に乗ると別の車かと思うくらいびっくりする)、構造的な振動が少ないほどどちらの座席でも乗り心地が良く感じられる、という傾向があるんだなぁと感じました。
各社の「乗り心地」への取り組み
じつはこれは、車を作っている側からすると「当たり前」のことのようです。
以前、メルセデス・ベンツのCクラスに乗った時に、あまりのステアリングやペダルからのフィードバックの少なさに「宇宙食のよう」と表現したことがあります(メルセデス・ベンツCクラス(W206)の試乗記はこちら)。

メルセデス・ベンツは現行Sクラス(W223)やEQシリーズを皮切りに、確信犯的にステアリングやペダル類からのフィードバックを希薄にしていると感じます。こうしたことで、自動運転時代のドライバーの「心理的要因も含めた総合的な乗り心地改善=疲労感の軽減」を追求しているように思います。
また、そこまでエキセントリックな例を持ち出さなくても、たとえばレクサス車の、一部の車好きからすると何とも薄味に思えるステアリングフィールも、運転席側の乗り心地を「良いと感じる」ことを狙った確信犯的なものであることがわかります。
特に指先が最も敏感に感じ取る150~250Hzくらいの周波数帯のハンドルの細振動(舗装の粒度、タイヤの微小スリップ、EPSの補正トルク変動などの情報)、掌(てのひら)が最も敏感に感じ取る60~150Hzくらいの周波数帯のハンドルの全体振動(舗装の継ぎ目、路面のうねり、シャーシ・フロアの共振などの情報)は、発生源と遮断箇所それぞれで対策されているようです。(対策例:EPS制御の特定周波数のノイズを除去するような信号処理、ステアリングシャフトへのステアリングダンパーやフレキシブルカップリングの追加、ラバーブッシュによる機械的減衰)

こうして、現代の車は、かつて運転に必要だった情報を遮断したり減らしたりすることで、運転席の乗り心地を良くしてきているように感じます。結果として、運転席と助手席での乗り心地の「感じ方」は、どんどん差がなくなってきているように思います。
まとめ:だからこその「助手席のススメ」
そう考えると、ポルシェ 718ボクスターは、いわばオールドタイマー。
ポルシェの一丁目一番地は、やはりドライバーズカーとしての完成度。
とにかく車の動きはなるべくフィルターせずに(とはいっても細かいことはやっている)伝えることで、ドライバーが次の一手を繰り出すための手助けをしています。
これが、乗り心地という観点だけからいえば「悪い」と感じる方向に作用していそう。
一方でドライバーズカーとしての安定した、かつ正確な走りを実現するため、車の揺れは非常に小さいか、揺れてもすぐに収束する。
この特性から、718ボクスターはじつは優れたパッセンジャーカーでもあるのでした。
ハンドルのない助手席だからこそ味わえる、この極上(とまでは言えないかもしれないですが)の乗り心地。
たまには、助手席もいかがですか?











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