いよいよマイナーチェンジ後のD型が発売されたWRX S4、ちょっと前にディーラーで試乗させていただく機会があったのでご紹介させていただきます。(試乗させていただいたのはC型です。素人による、購入しなかった車のちょい乗り試乗レビューに意味があるのかいろいろ考えたのですが、どうしても気になる車なので公開します。)
(註:2024年10月に再度350㎞乗ってレビューしています。よろしければ併せてご覧ください。)
実際に乗ってみる!

エクステリアやインテリアについてなんだかんだ言っても、スバルの車にデザインやインテリアの質感を求めるのはお門違い、と昔から暗黙の了解があるようです。笑
スバリストは走りにこそロマンを感じるのです!ですので、走りから行きたいと思います。
試乗車はGT-H EXです。オプションのウルトラスエード(R)シートがシートがついていました。
スバルらしい視界性能!だけど。。。

乗り込んで感じるのは、「ああスバルだな」という着座位置と視界。
そして適度で無理のない高さの着座位置(公式発表のヒップポイントは520㎜)。ただ、私が乗っていた4代目レガシィに比べると、やはり心なしか着座位置が高め。どんどん厳しくなる衝突安全上の基準をクリアすることと、主要マーケットであるアメリカ人の体格を考えると、少し着座位置を上げるしかなかったのでしょうね。
Aピラーもレガシィ S401(3代目レガシィ)や4代目レガシィと比べると、当然ながら少しずつ太くなっています。そして横幅。室内から見渡しても3代目レガシィよりも広くなっています。個人的にはスポーツセダンなのでもう少しタイトだといいな、とは思います(全体的なダッシュボードのレイアウトも包まれ感より開放感を優先)。しかし、これも主要な仕向地であるアメリカのニーズを考えると仕方ないかな、と。
それでもドアミラーの取り付け位置が工夫されていて死角が少ないところは、さすがスバルと思わされます。また、ドアミラー付近のショルダーラインが微妙に下がっていて左下の視界も確保されています。さすが!こういうところ、スバルって生真面目でいいなぁ。視界性能は運転のしやすさやストレスに直結するので、とても大事だと思います。

ただし、後方視界はトランクリッドが高くなっている関係でだいぶ悪くなった印象(それでもメルセデス・ベンツ Cクラスセダンなんかと比べると圧倒的に良い)。レヴォーグもその点は同じで(どちらかというとDピラーが太くなって視界が悪くなっている)、昔のレガシィツーリングワゴンのような後方視界は望むべくもありません。
(オマケの比較→)着座位置がある程度高くて無理のない姿勢で乗り込めるのはポルシェ 718ボクスターのようなスポーツカーにはない魅力だと思います(718のヒップポイントはWRX S4より16cmくらい低い)。気負わず普通に乗れるのはいい。
シートはやや大柄だが肩周りのホールドは良い
シートは比較的大柄で、アメリカ人に最適化された感じです。それでも肩付近はしっかりホールドしてくれ、なかなか良い感じでした。腰回りも周りから包んでくれるような感じで、それほど圧力は感じないのにしっかりと固定してくれます。また、オプションのウルトラスエードのシートは滑りにくく、色の組み合わせも個人的にはSTI Sportのボルドーのツートーンシートよりも好みでした。クッションも適度に厚く疲れにくそう。個人的にはかなり好みのシートでした。
3代目レガシィのシートよりはホールド性が良く、4代目レガシィのシートと比べるとホールディングは同等なものの若干大柄な印象です。ポルシェ 718ボクスターのシートに比べるとホールド性は落ちるものの圧倒的にシートクッションの厚みがあるのでロングツーリング向きです。

走り出す
ボディの雑味のなさがすごい
いよいよ走り出します。ディーラーの駐車場内で車をスッと動かした瞬間、これはすごいかもと思いました。とにかくブルブルという振動がどこにもない。これがフルインナーフレーム構造の効果か、とすぐわかるくらい、全く雑味がありません。道路に出る小さな段差を超えるときも、スッと全くブルブルさせずに乗り越えていきます。これは気持ちいい。レヴォーグもびっくりしましたが、やはりセダンボディの方がこの気持ちよさは強いです。
最近のメルセデス・ベンツに乗った時も同じような印象を持ちましたが、このスキのない感じはすごすぎる。構造用接着剤で面と面をベターっとあわせていくことで初めて出てくるような感触です。
一方、車の性格を考えてだと思いますが遮音はそこそこ。ロードノイズの侵入もそれなりにあります。
WRX S4ではいいと思いますが、レヴォーグは車の性格を考えるともう少し足回りの遮音をしてもいいかな、という気はしました。それくらいミシリともいわない完璧なボディなので、ついつい静かに乗りたい、という気持ちが湧いてきてしまいます。
車の「骨太感」とステアリングフィールのトレードオフ?
続いて最初の直線を50㎞/hくらいで走って気が付いたのが、レヴォーグよりも骨太な感じが強いことです(この試乗より前の別の日に1.8LのSTI Sport EX、あとの別の日に2.4LのSTI Sport R EXに乗っています)。ハンドルをほとんど切っていない状態だったので、これはほとんどがタイヤのサイズと銘柄の違いによるものだと思います。
WRX S4のタイヤサイズ・銘柄:245/40R18(前後)、DUNLOP SP SPORT MAXX GT600A
レヴォーグ(2.4L)のタイヤサイズ・銘柄:225/45R18(前後)、横浜ゴム BluEarth-GT AE51(ブルーアースGT)

一方で、ちょっとステアリングを動かしてみると、レヴォーグに比べてセンター付近の手ごたえがちょっと曖昧な感じがします。おそらく、タイヤのケース剛性が上がって変形しづらくなっている分、もともとあまり剛性の高くないステアリングにしわ寄せがきてしまっているのかなと感じました。(スバルはフロントに水平対向エンジンを積んでいるためにステアリングシャフトの取り回しが難しく(後方に来る)、必然的にタイロッドが直線上に並ばない関係で剛性を確保しにくいそうです。)
そういう意味ではレヴォーグはステアリングのセンター付近のあいまいさは少ないものの、なんとなくゴリっという骨太感が薄い。対するWRX S4はスポーツカーっぽい骨太感があるんだけどセンター付近がちょっとカチッとしてない感じ。トレードオフがあるように感じました。
個人的な好みでいうとWRX S4でした。やっぱりスポーツセダンてこれくらい硬派な方がいいな、って思いました(でも別の日に2時間ほどレヴォーグに乗ったら、これはこれでとても良かったのです。別途レポートします)。
ちなみに、切り始めての感覚は2ピニオン電動パワーステアリングの効果が分かりやすく、振動もなくすごく滑らかに舵が入っていきました。

ハンドリング、足回りは思った通り、だけどレヴォーグとは結構違う
ハンドリングは市街地のためあまり試せてないのですが、WRX S4とレヴォーグで、けっこう印象が異なることに驚きました。今までレガシィシリーズはセダンとワゴンで基本的なキャラクターにあまり違いがなかったのでこれは驚き。言われてみれば、たしかにレヴォーグはWRXツーリングワゴンという名前ではないですからね(オーストラリアではこの名前のようですが)。この2台の車、意外に違うのかも、と思いました。
WRX S4は切れ初めに「これから曲がるぞ」という車からのメッセージを感じます。ゲインが敏感すぎる、というわけではないのですが、間髪入れずに反応してくる感じ。レヴォーグの方がゆったりという感じ。レヴォーグは全体に乗り味が優しく、こちらは「超良くできた」ファミリーセダン、という感じです(決して揶揄するわけではなく、スポーツスポーツしているわけではない、という意味です)。
何がWRX S4とレヴォーグのフィーリングの違いを生んでいるのだろう?
何が2台の違いを生んでいるのでしょうか?
私にもわからないので、2台の違いを生みそうな、WRX S4とレヴォーグと異なる点を書いていきます。
※追記:WRX S4では「リアのロールセンターを上げてロール軸を前傾に」したとの記述を発見しました(「新型WRX S4のすべて」)。個人的にはこれかなぁと。
レヴォーグと違うかどうかは完全に裏をとれていないのですが。。。
イメージ的にはフロントが沈み込んで前のめりにロールするような感じ。
一方、リアのロールセンターが上がり重心との距離が縮まっているため、リアのロール量自体が減っているのかと思います。ドライバーからするとリアが動かず「どっしり安定している」イメージ。
リアが動かないので、逆に動かないリアを支点としてフロントが動いている=「コーナーリング時にノーズが自然にインに入る」という感覚になるのだと思います。スケートボードやスノーボードでリアを固定してそこを軸としてに鼻先を動かしていくときの感じに似ているかなと思います。
一方、フロントはロールセンターと重心との距離が相対的に離れていることもありロール剛性を従来比で20%上げているようです(そのままだとフロントのロール量がリアに対して相対的に増えてしまうが、こうすることでロールしにくくしている。前後のロール剛性バランスは60:40)。そのため、一度曲がり始めると弱アンダーの安定感のあるコーナーリングになると思います。
このように、全体的に、初期応答ですっとノーズが入っていく(と思わせる)ようにして、曲がり始めると弱アンダーで安定的に旋回するという、スポーティーな車として比較的わかりやすいセッティングになっていそうです。
ボディ形状
当然のことながら、セダンボディのWRXはリアの剛性がレヴォーグより高いです。
タイヤ銘柄・サイズ
WRX S4はDUNLOP SP SPORT MAXX GT600A、タイヤサイズは245/40 R18。
レヴォーグはブルーアースGT。タイヤサイズは225/45 R18。
タイヤのケーシング剛性が影響している可能性も?
足回り
WRX S4はフロントロアアームがアルミ製で取り付け部がピロボール化されている。
レヴォーグは取り付け部がブッシュになっています。
(レヴォーグのフロントロアアームは鉄製だと思っていたのですが、別の日に見てみたらアルミ製でした)
このため、ステアリングを切ってからの応答遅れについては差が出てきそうです(特に動きを抑制するのは前後左右方向だそう)。




ダンパー
WRX S4、レヴォーグともに非STIグレードがリバウンドスプリング内蔵の通常のダンパー、STIグレードがZF(ザックス)製の電子制御ダンパー。
通常のダンパーについての記載はありませんが、タイヤサイズも車の性格(レヴォーグは荷物をたくさん積むことを想定)も違うので、当然ながらセッティングは違うはずです。
ZF製電子制御ダンパーのセッティングはWRX S4とレヴォーグで違うとのこと。説明ではただ(WRX S4は)減衰力を「高めの方向に」しているとのことです。

たぶん、私が試乗した通常ダンパーモデルは、電子制御ダンパーのSport側に合わせた形(あるいはもっと減衰力高め?)でチューニングされていて、その結果特にダンパーの微低速領域の減衰力の立ち上がりが速く、それがコーナーリング初期の「気持ち良さ」につながっているような気がしました。(木下隆之氏による動画レビューでも、通常ダンパーモデルのGT-H EXの方が硬派、とおっしゃっていました。(9分23秒頃から))
もしかするとレヴォーグもActive Active Damper E-tuneを入れると変わるかもしれませんね。
パワーステアリングのセッティング
パワーステアリングも「セッティングが違う」とのこと。単にレヴォーグの操舵力を軽くしているだけかと思ったら、極低速はレヴォーグの方が操舵力が重めに設定されていて、速度が上がると急に「軽くなる」とのデータがありました(オンラインではWRXのものを見つけられず)。

コーナーリング補足:スバルそのもの
こうしたハンドルの切り始めの動きには、WRX S4とレヴォーグで雰囲気の違いがあるものの、向きを変え始めてからのWRX S4は、これぞスバル、という動きをします。四輪駆動のシステムはVTD-AWD(不等&可変トルク配分電子制御AWD)という、昔からレガシィのターボモデル等のAT車に積まれてきた機構(始まりは確かアルシオーネSVX)ですが、「ああ」と声を出したくなる感じ。トルクベクタリングの効果もあると思いますが、少し重いフロントが「ふつう」にインに入って、そこから後輪による押し出しを感じるまでの一連の動作が、とにかくスムーズで安心感があります。この感覚はレヴォーグ(2.4Lモデル)も同じで、スバルってやっぱりこれよねぇと思う瞬間です。
このあたりうまく表現できないのですが、今度GRヤリスでも借りて、四駆の制御の違いを比べてみたいと思います。
コーナーで向きを変えた後、ハンドルを完全に戻さないうちに少しラフにアクセルを踏んでも大丈夫なのは良い。四輪駆動の特権です。特にウェット路面では安心感につながります。
FRのBRZの切り始めのすっきり感もいいのですが、この四輪駆動のコーナーリングを経験してしまうと、スバルはやっぱりこっちかなぁと思ってしまいます。
3代目レガシィはS401であってもステアリングギア比が15.0:1で、結構大きく回さないといけません。4WDのシステムもMT用のシンプルなもので、どちらかというと「曲がりにくい」と言われています。ノーズも重め。これをフロントLSDで補っているようです。4代目レガシィは軽快感があります。が、曲がりやすさで言えばトルクベクタリングのあるWRX S4が一枚上手だと思います。ポルシェ 718ボクスターはフロントが駆動しない上にエンジンが前になく、重心も低いためそれこそスッと、地を這うように曲がります。これら四輪駆動のスポーツセダンとは全く違う。逆にそれだからこそWRX S4のような曲がり方にも惹かれるところがあります。

物議をかもしたパワーダウンのエンジンは?
WRX S4に搭載されるエンジンはFA24型、2.4L水平対向4気筒ターボです。最大出力は275PS / 5,600rpm、最大トルク375Nm / 2,000-4,800rpmです。スポーティーな車にあるまじき、パワーダウン。
では、実際どうでしょうか?
レスポンスは良く、すぐに加速体制に入ります。そして、ほとんどトルク変動がないままレッドゾーン近くまで加速します。その間、パンチはないものの回転フィールはなかなか上質です。が、それを味わう間もなく6000回転手前でシフトアップさせないといけないのはやっぱりちょっと物足りない。ステップ変速モードになると、ショートなギアレシオに固定されるので、ほんとにあっという間にレッドゾーンに行きそうになってしまいます。
エンジン音は静か。低回転域の音はやや濁っていますが回転を上げるとわずかながらクリアな音になります。ただ、等長等爆になった4代目レガシィのEJ20ターボのような、回転と共に粒がそろっていくようなゾクゾク感や、3代目レガシィまでのツインターボみたいな、ドラマティックなトルク変動は残念ながらあまりありません。また、ポルシェ 718ボクスターに搭載される水平対向4気筒ターボのような爆発力や高回転の伸びの気持ちよさもあまり持ち合わせていません。
やはりこのご時世、エンジンの存在感はちょっとだけ少なくなりました。それでも、個人的には静かになったとはいえ加工されていないエンジンの生音、それも紛れもないボクサーサウンドを聞けるのは嬉しかったです。また、オプションでSTiスポーツマフラーをつけられるのも嬉しいところ。これをつけたら印象はもっと良くなりそうです。
音に関しては、BRZの電子音があまり好きでない私としては(ディーラーに頼めば切ってくれると聞きましたが。ちなみに電子音すべてが嫌いというわけではなく、この音のチューニングが自分に合わないということです)、音が小さくても水平対向エンジンの生音が聞けるWRX S4が断然好きでした。
スバル・パフォーマンス・トランスミッションはすごい!
続いて、トランスミッション。さすがにCVTはラバーバンドフィールが、みたいなことを言う人は少なくなってきたのではと思いますが、とにかくこのCVTのギア固定モードの変速はすごいです。変速はかなり速い。WRX S4の方はシフトショックの演出もありました(レヴォーグより強い?)。シフトダウンを機械に拒否されてはねられることもない感じでしたし、サーキットに行かなければこれで他に何が必要?という感じ。

ただし、サーキットに行く方は、CVTの熱問題にはちょっと気をつけた方がいいかもしれません。私自身は試せてないのでわかりませんが、ジャーナリストがサーキットを走っている動画では、CVTが熱をもって変な音を立てていました。
変速スピードやフィーリングは、BMWに積まれているZF製のトルコンATといい勝負。この点はBRZのAT車に積まれているトルコンATに比べたら断然いいと思います。BRZのトルコンATは変速スピードが遅く、シフト保護機構のためかシフトダウンが頻繁にはねられてイライラしましたが、このCVTはそんなネガティブな点は全くありません。
PDK(ポルシェのデュアルクラッチトランスミッション)と比べてちょっとなぁという点は、変速スピードという点に関してはほとんどありません。ただし、変速で歯車が噛み合うわけではないなのでその手のメカニカルノイズは発生しません(プーリーを動かすチェーンは音を発生)。また、オートモードの自動シフトダウンのプログラムはPDKの方が賢いです。
ブレーキフィールも悪くない
WRX S4には片押しのキャリパーしかついていません。スポーツセダンとしてはちょっと見栄えがしないところかも。
ただ、街乗りした限りでは踏みごたえもあり、フィーリングも良かったです。

こればかりはサーキットやクローズドコースでフルブレーキを試してみないとわからないかな、と思いました。
余談ですが、ブレーキはいよいよ近いうちにバイワイヤになっていきそうなので、こうした「フィーリング」は完全に電子的な味付けの範疇になっていくのですね。
安全運転支援装置も試してみる
スバル WRX S4、運転があまりに楽しくて試乗コースを終えそうになってしまったら、営業の方がもっと走ってもいいですよ、と言ってくださったので、お言葉に甘えてルートを延長させてもらいました。そこからは安全運転支援を試してみました。
第一印象、インターフェースはちょっと複雑。アイサイト、操舵支援、アイサイトXと入口が分かれているのはどうなのかな、と。特にアイサイトとアイサイトXの違い、普通はわからないのでは?

運転支援が機能し始めると、運転がうまい!今までの運転支援システムで断然運転がうまいのはスバル、と思いました。しかも画面でのシステムの動作状況の表示などはとても親切でわかりやすい。こういう機構は自動運転の精度も重要ながら、こうしたユーザーに対する入力 / 出力のユーザーインターフェースも超重要です。スバルさん、すごい。
ともかく、さすが売りにしているだけのことはある、洗練度という意味ではとても印象的なアイサイトでした(アイサイトXは試せていません)。
スポーツ走行も得意だけど、こうした安全運転支援を使った楽ちんな走行もできてしまう、そうした二面性はこの車の大きな魅力だと思いました。スポーツ走行をした後の帰りはアイサイトに手伝ってもらって楽ちん、なんて最高じゃないですか。
おまけ: 後席の居住性はいい!
後席にも座らせてもらいました。うちは5人家族ですが、これならファーストカーでも行けそう。頭上空間が十分あり、特に中央シートもそれほど硬くなく、高さもそれほど高くなっていません。足元のセンタートンネルの張り出しも小さめ。ファミリーカーとしての側面もしっかり持っていました。

まとめ
いろいろと言われているWRX S4ですが、運転してみるとやはりまぎれもないスバル車でした。これだけ走りが楽しくて、しっかり5人乗れて、運転も楽で、四輪駆動でどこでも走れて、と言ったらやっぱり売れるよなぁ、でもちょっと日本向けじゃないのよねぇ、もう少し小さかったら、と思うのでした。そして、ボディとシャシーが良いだけに、やはり350PSか400PSくらいの、高回転まで回る水平対向4気筒ターボのSTIが欲しいなぁ、と思ってしまう自分がいました。
補足:エクステリアを見てみる
個人的にはそんなにネガティブに思っていないのですが、やっぱり触れないわけにはいかないのがエクステリア。主観も入っていますが、ちょっと書き残しておきたいと思います。ここから先はいろんなことを書きたい放題ですので、WRX S4 Loveな方は読み飛ばしてくださいませ。

この車はアメリカでの発表と同時にいろいろな議論を巻き起こしました(大半ネガティブ)。一番はデザインです。基本は同じプラットフォームで先行リリースしていたレヴォーグの顔になることはわかっていましたし、メーカーも2017年の東京モーターショー(懐かしい響きですね。。)でお目見えしたSUBARU VIZIV PERFORMANCE CONCEPT(実際好評だった)を忠実に再現した、といっていたので、メーカーとしてはそれほど議論になるとは思っていないようでしたが、現実は違いました。
では、なぜこんなにネガティブな意見が出たのでしょうか?
2つあると思っています(1つはよく言われていることです)。
プロポーション
一番の違和感はリアのプロポーションです。現代の車は空力性能を上げるためにトランクリッドの位置がかなり高くなります。セダンの場合トランクが元々低い位置にあるため、それを空力にとって適正な位置まで上げていきたい。
セダンでリアが高くなると、どうしても後ろから見たときに地上からトランクリッドまでの厚みが出てしまいます。このままデザインするといわゆる「腰高感」が出てしまう。これを解消するために、横幅を使ってワイドにしてやればいいのですが。。。
市販車だとどうしても利便性を考えると横幅を抑えなくてはいけない(WRX S4は1825㎜)。そうなるとコンセプトモデルよりも横幅を圧縮しなくてはならない。それがちょっと窮屈なリアビューになってしまっていると思います。
実際、リアにオーバーフェンダーをつけたNBR CHALLENGEはかなりカッコいいと個人的には思います。



このように、コンセプトカーはカッコよかったのに市販車はあれ?、というときにはだいたい利便性等との妥協によってプロポーションが崩れてしまうことが多いように思います。雰囲気が似ていてもプロポーションが崩れると、けっこう印象って変わってしまうのですよね。。
ちなみに、LexusはLCを作る時に、コンセプトカー(LF-LC)で見せたフロントの低さを何とか実現するためにフロントサスペンションジョイントの取り付け位置の最適化にかなりの工夫を重ねた、といっています。
無塗装樹脂のフェンダーモール
これはいろいろ言われているのでもういいかな、と思いますが、ちょっと残念なのは開発責任者が「VIZIVでもやっていてあの時は好評だったのに」みたいなことを言っていたことです。これも細部ですが、VIZIVの場合はフェンダーモールは光沢のある加工がされていましたし、張り出しも大きい(オーバーフェンダーのようにみえる)。これは「SUVみたいな」無塗装樹脂で覆われるののとは、けっこう印象が違うものです。
また、「無塗装には理由があって、あの鮫肌の空力パーツを機能させるためには無塗装でないとダメ」という開発者の言い分も聞くのですが、こうした機能パーツはお客様が効果を実感できて初めて価値を持つものだと思います(※)。特にビジュアル面にネガティブな影響を与える可能性があるものにはお客様はとてもシビアだということは、レーシングカーはともかく一般消費者向けに商品企画をするのであれば、押さえておかなければいけないポイントだと思っています。

その点、トヨタの「エアロスタビライジングフィン」は秀逸。マニアでないと気づかないくらいビジュアル的にネガティブ要素がない上に、「F1由来」みたいなストーリーまでありますから、最悪効果がなくても話のネタになります。その上一般の人でも実際に効果を実感できるようですからすごい。機能商品の企画はこうでないと、といういい例かなと思います。

そんなこんなで、WRX S4のエクステリアデザインについては、ちょっと開発陣のディティールに対する認識(消費者がどう思うかに対する認識)が甘いのではないかなぁと思いました。実際見ると、意外にかっこいいだけに残念です。
(ちなみに個人的には無塗装樹脂も面白くて好きです。何より企画としてチャレンジングですし、そういうのは大好きです。)
補足:インテリアを見てみる
インテリアは、とにかくセンターの縦型ディスプレイのインパクトがありましたが、見慣れるとだんだん違うところに目が行きます。ちょっとなぁと思うのは、ダッシュボードの造形が複雑なことです。スバルは4代目のレガシィですっきりした上品なインテリアデザインを作ることにこだわってきたのに、またごちゃごちゃした感じになってきたな、と。

主要な仕向け地であるアメリカではかなり安い価格のグレードも設定しているので、ダッシュボードに貼る表面素材の違いでグレード間の違いを演出しているのでしょうか?そうするとあまり大きな面積を一つの素材で覆って、グレードごとに素材を変えるのはコスト的に厳しい。そこで造形を複雑にして面ひとつあたりの面積を減らし、一部分目立つポイントだけ素材を変えるようにしたのかな、と思ってしまったりします。
また、カーボン調のドアトリムも先代のトヨタカローラのベーシックグレードのような不愛想さです。本物の素材は高いのでなかなか使えないと思いますが、カーボン調の場合はコーティングしてあげないとなかなかいい質感が出ないように思います。

補足:商品としての難しさ
WRX S4、すごく好きなのですが、日本ではあまり売れていません。
理由はけっこう単純で、スポーツカー(スポーツセダンも含む)は夢を売るのに、この車はストレートに夢を売れないからなんじゃないかなと思います。
スポーツカーでのスペックダウンは、「夢を売る」観点からはやっぱり厳しい(アメリカ仕様はわずかながらパワーアップ。この代から仕向地ごとのエンジンの差がなくなって、日本ではスペックダウンになってしまった)。マツダ ロードスターのように、明確に軽さによる楽しさを追求する過程でパワーをあえて捨てた、みたいな戦略であればいいのですが、スペックダウンしているのに車重は重くなった、だと厳しい。
さらに、それであれば燃費が劇的に良くなったかというとそれもない、低速トルク増大による扱いやすさは上がってもピークトルクは下がっているので、良さは乗ってみないとわからない、さらに日本では排気量増大による税区分まで上がってしまった、となると相当言い訳っぽい説明をしていかないと売れない。現場は本当に売るのに苦労するだろうなと思います。
そういう、売るのが難しいスペックでしか商品を作れないのも、アメリカでの今の需要を取り込むために、CAFE規制の強化やEV化といった変化の波に乗り遅れたことのツケのように思います。品質不正問題やリコールの連続で後手に回ったという問題はあったにしても、このところのスバルの経営は迷走しているように見えます。(株価を見ても市場の評価は厳しく、ピーク時の半分くらい)
EV化に関しても、今後のイメージを左右する第1弾の車(ソルテラ)がトヨタ主導で開発した車で、自社の最大の売りであるアイサイトすら搭載がかなわなかったというもの。しかも価格帯がスバルの顧客層と重なっていない、というのでは、EVに本気で取り組んでないと思われても仕方ないと思います。(この点はポルシェなんかは非常に上手。)
何とかトンネルを抜け出して、魅力的な車を出していってほしいと思います。

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(※)たとえば、ユニクロの創業者である柳井正氏は、著書の中で大ヒットしたフリースについて次のように述べています。「技術が需要をつくるのではない。これまでになかった新しい価値を提供できれば、そこに需要が生まれるのである。」(柳井正「現実を視よ」)。
技術的に優れていたはずの、NASAで開発された素材を使った服が売れなかった理由も考察しています。










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