我がレガシィ S401が車検のため入庫。1週間先代インプレッサスポーツ STI Sportをお借りすることができましたので、乗ってみた感想をお届けします。変わるスバルと変わらないスバルが交錯する、興味深い車でした。
S401の代車としてお借りしました
お借りした車は、5代目(先代)インプレッサスポーツ STI Sport(GT6)。色はマグネタイトグレー。走行距離は17,000㎞あまりです。登録から約3年の車でした。
インプレッサスポーツ STI Sport(GT6)って?
ご存知の通り、5代目インプレッサはスバルの新しいプラットフォーム、スバルグローバルプラットフォーム(SGP)が初採用された車。新しいスバル車の骨格として、衝突安全性能やボディ・サスペンション剛性などを大幅に強化。現在のスバル車はすべてこのプラットフォーム上に構築されています(サスペンション等も基本同じ!)。
2016年に発売され、その年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しています(スバルでは4代目レガシィ(2003年)以来2度目)。

変わるスバルと変わらないスバルの交錯
走行感覚については、足回りにフォーカスを当てた、水野和敏氏による素晴らしいレビューもありますので、素人の私が何かを言うことはないと思います。
【水野和敏が斬る!!】世界標準ゴルフと日本の誇りインプレッサSTI Sportを徹底比較
ただ、個人的には「変わるスバル」と「変わらないスバル」が交錯していることにちょっとした驚きを覚えたので、書き残しておきます。
極低速域のアクセル・ブレーキ・ステアリングフィールにはかなりの「気遣い」が!?
じつは最初乗った時、STI Sport グレードとは知らずに乗っていました。
びっくりしたのは、極低速域のフィーリング。
走り始め、アクセルをちょっと踏むと「ぶわっ」と加速します。いわゆる「早開き」。
そして、ブレーキをちょこんと踏むとサーボモーターがぐわっと立ち上がり、ブレーキがグイっとかかります。ちょっと「カックン」とします。

そして、40㎞/h以下の低速域ではステアリングの手ごたえがちょっとふにゃふにゃ。ただ軽いだけでなく、アソビが大きい上に反力に一貫性がないというのか、どことなく頼りないのです(これはステアリングギアハウジング取り付け部の剛性の問題?)。
(ついでにいうと、かなり荒れた路面を30㎞/hくらいで抜けたときも、ダンパーの伸び側の減衰力を弱めるセッティングにより、揺れはマイルドになるもののけっこう上屋は煽られる感じで、収束もあまり良くないと感じました。)
街乗り時は、このようにファミリーユースにかなり配慮したものを感じました(好意的に見れば)。
「ああ、なんかスバル、変わったかも」。

変わるスバルと変わらないスバルが共存している!
不思議な乗り味の二面性
さらに驚いたのは足回り。
低速域ではごくごく優しい。
少しハンドルを少し切った状態でブレーキをやや強く踏む(と言っても体感0.5Gぐらい)ことが1回ありましたが、けっこうノーズダイブもします。フロントのバネは柔らかそう。
昔からどことなく無国籍な感じのしていたスバルが、日本のファミリーカーのお作法を身につけているなぁと感じます(別に揶揄しているわけではありません。)。
ああ、やっぱりスバルは変わったんだなぁ、との思いを強くしました。
しかし。。。
60㎞/h制限の道に入りレーンチェンジをすると、しっかりと路面をつかんで粘る感じがします。ああ、これこれ、スバル!という感じ。変わらないスバルが顔を覗かせました。
なんかこの二面性、不思議だなぁと思って車から降りてみたら、STI Sportだった、というわけです。
変わるスバルと変わらないスバル、二面性を共存させていたのはダンパーだった!?
STI Sportと言えばSHOWA製SFRD®(Sensitive Frequency Response Damper。ショーワは2021年のグループ再編で日立Astemo株式会社になっています)が搭載されているのがウリのモデル。
どうもこれが、変わるスバルと変わらないスバルの二面性を共存させている魔法の正体なのでは?と思った訳です。
SHOWA製SFRD®の概要
それでは、このダンパーについてもう少し見てみましょう。
SHOWA製SFRD®は、周波数感応型の機械式減衰力可変ダンパー。路面から伝わる振動の周波数に応じて減衰力が自動的に(無段階に)調整される仕組み。
専用機構と専用ソフトが必要な電子制御ダンパーと違い、この方式は既存のダンパーと同じケースを使えることや専用ソフトが不要なためコストを大幅に抑えることができるのもメリットと言われています。

機構についてはスバルの開発者による説明を引用します。
「SFRD®は、シリンダー内部に小ストローク(高周波振動)用と大ストローク(低周波振動)用の2つの油圧経路を持っており、それらが圧力室という部屋でつながっています。圧力室が満たされていないときは小ストローク用の経路が作動して細かい突き上げを解消した上質な乗り心地を提供します。ワインディング路などを走り始めてより大きな負荷がかかり圧力室がオイルで満たされると、大ストローク用の経路が作動します。」
これによって「ドライバーの意のままのキビキビとしたステアリング操作とざらつき感のないしなやかな乗り心地とを両立」できた、とのこと。
乱暴に比喩的に言えば、1台に2台分のダンパー備わっていて、シチュエーションに応じて自動的にダンパーを使い分けている、っていう感じですかね(それも80%ダンパーA、20%ダンパーB、みたいに無段階にブレンドできる)。
街中で乗ってみると?
40扁平18インチのタイヤを履いているにもかかわらず、ざらざらした感触は確かにあまりありません(ちなみに我が家のS401も同じ扁平率とインチサイズ。私のS401はトレッド面が硬いと言われるコンチネンタルタイヤを履いているせいもあるのか、割とざらついた感触と音がします)。

快適快適!こんな快適なスバル車ってあったっけ、と思うくらい。「スバル、変わったなぁ」。
とはいえ、白状すると、「この方向性だったらスバルじゃなくていいかも。もっと快適な車はたくさんある」という気持ちになりました。

ワインディングでは豹変!
そんなことを言いつつ、ワインディングを走ると、「変わらないスバル」が顔を出します。しっかりタイヤが路面を離さず、オンザレールで曲がっていきます。ちょっとだけフロントヘビーな感じも昔のまま(何と私のS401は前前軸重:後後軸重60.0:40.0、インプレッサ STI Sportは60.7:39.3とほぼ同じ!)。
こりゃ楽しい。
ハンドリングもクイックというよりナチュラル。サスペンションストロークもある。そう、スバルと言えばこの感じです。そのまま悪路にもっていっても大丈夫そう。この感じがたまらない!(素人レビューなのでここまでが限界です)

最近のスバルは、こうやって異なる減衰特性を作り出せるダンパーを使って、ワインディングなどでの走りの気持ち良さと、街乗りでの乗り心地の良さの両立を狙う方向になっているようです。

変わるスバルと変わらないスバル、これからはどっち?
と、この二面性に驚きながらも、頭をよぎったのは「変わるスバルと変わらないスバル、これからはどっちに行くんだろう?」という疑問。
この、極低速域と中高速域で豹変する感じ。もっというと中高速域は元々得意なのに、なぜかとってつけたように味の薄い極低速域の「軽い」セッティングが付いてくること。
どうしても、「本当は気持ちの良い走りを目指したいのですが、『スバルは硬いからイヤ』とご家族を説得できないために買えない、という声も大きくてですね。そこで頑張って同乗者から文句を言われないように頑張りました」みたいな商品企画が見え透いている感じがしてしまいます。
ということで、二面性が共存しているのは面白いのですが、最終的にどんなまとまりの車を作りたいのか、このあたりが少しぼやけている感じがしてしまいます。もしかすると安全支援技術のおかげでスバルのユーザー層が急激に高齢者側にシフトしていることも影響しているかもしれませんが。
レヴォーグにしても電子制御によるセッティングのバリエーションの豊富さを武器に「キャラ変」をうたい文句にしているくらいですが、一粒でアウディもBMWもベンツも(「ちょっと」ですが、という注釈付きで)味わえます、といったところでそれは魅力的な車なんだろうか?
スバルは電動化を前にして、技術的な選択についてはある程度の方向性を出してきたようです(水平対向エンジンの継続とドライブシャフトを介したAWDの維持)。
そこを武器に、ファンとしてはもう一度強みを生かした自社のターゲット顧客と、それに合わせた作り込みの方向性を明確化してほしいと思います。
そうすると、こうした技術(これはメカですが、今後の多くは電子制御)の使い道もおのずと決まってくるように思います。一ファンのぼやきでしかありませんが。。
・・・いずれにしても中高速域であれだけきっちりと走りながら、街乗りではファミリーカー然と振る舞う、そんな二面性が共存できていることにとても驚きました。
変わるスバルと変わらないスバル。それが1台の中に共存している。車ってホントに面白いなぁ、と改めて思いました。

エンジン・トランスミッションetc…
ここからはおまけです。
ダンパーの話ばっかりしていたので、他の要素についても見ていきたいと思います。ある意味「変わらないスバル」が続きます。
いまどきNAは貴重かも!FB20エンジン
FB20型エンジンは、2010年に発表された環境に配慮したロングストロークエンジンです。ボア×ストロークは84㎜×90㎜。このインプレッサには直噴化されたFB20D、4気筒水平対向自然吸気(NA)エンジンが搭載されています。

最高出力154PS / 6,000rpm、最大トルク196Nm / 4,000rpmのこのエンジン、通常走る分にはパワー感は申し分ありません。
音は、終始少し不機嫌そうな感じで、回転数による音質の変化は多くありません。昔のEJエンジンのような躍動感は残念ながらありません。
この水平対向エンジンがあるから選ぶ、というほどの個性がなくなってしまったのは残念です。それでも、この独特のビートは好きですけども。

実際に高速道路の合流で90㎞/h近くまでマニュアルモード、2速固定で引っ張ってみました。
4,500回転(68㎞/h)か5,000回転(75㎞/h)くらいまでが、一番伸びやかで気持ちの良い加速をしていきます。それ以上になると少し苦しそうで、速くシフトアップさせたくなってきます。
NAエンジンのためパンチはありませんが、(5,000回転くらいまでは)NAらしい回転上昇は楽しむことができました。
個人的には(レヴォーグに搭載されている)1.8LターボのCB18エンジンを積んでくれたらかなり楽しさが増すとは思いましたが。。。

CVT。速さとフィーリングの悩ましい選択
CVTのマニュアルモードはギア比固定。上り坂ではなかなか加速しない
そんなFB20Dエンジンですが、箱根ターンパイクのようなやや高速寄りの上り坂ではパワーバンドに入らないと非力です。
FB20エンジンの性能曲線は公開されていないようですが、実際のシチュエーションを想定して、パワーの出方を計算してみます。
・50㎞/h、60㎞/hでのエンジン回転数(理論値)はそれぞれ3,319rpm、3,983rpm(マニュアルモード2速固定)。
・ピークパワーが出ている6,000回転時のトルクは180Nm(ピークトルクの92%)
→2速固定時のパワーは50km/hで91PS、60km/hで111PSくらい。
そこからの加速は緩慢です。
実際にワインディングをマニュアルモードで走ってみたときの動画を紹介します。2速固定でアクセルをけっこう踏んでいますが、なかなか加速しない感じです。一方、回転上昇、下降に伴うエンジン音の変化は自然。
CVTのオートモードはNAエンジンの能力を活かし切る
そこで活躍するのがCVTのオートモード。

CVTをオートにすると、がぜん元気になります(Sモード選択時)。
アクセルをべた踏みするとだいたい5,300回転くらいにあげていきます。
さっきと同様、この時のパワーを求めてみます。
→CVTオートで5,300回転時のパワーは140PS(ピークパワーの91%)
60㎞/h時で見ると、2速固定時に対してパワーで26%ほど上回っています。(6,000回転回っていれば39%上回っている)
この時に何が起こっているのかを見ていきましょう。
(a) マニュアルモード
ギア比が固定のため、60㎞/hの時に1速を選択すると6,654rpmとなりレブリミットを超えてしまいます。そこで、ドライバーは2速を選択。この時の回転数は3,983rpm。先ほど見た通りこの時のパワーは111PS。
(b)オートモード
CVTオートモードでアクセル開度が高いとステップ変速になるため、その前提で話をします。
ステップ変速の場合はアクセル開度が高いとCVTが5,300回転くらいになるようにギア比を選択し、そこでギア比(※)を固定します。あえてギア段でいえば1.25速くらい。(この時のパワーは140PSくらい)。6,000回転を超えると次のギア比(また5,300回転くらいになるようなギア比)を選んでいきます。
(※)CVTですので、物理的なギアが存在するわけではありません。また、実際にはステップ変速であっても違和感のない程度に少しずつギア比を連続的にずらしているようです。
このように、CVTのステップ変速の面白いところは、固定するギア比が不定なところ(実際にいろいろなシチュエーションで試してないので、もしかしたら違うかもしれません。ご容赦ください)。アクセル開度100%の時は、常にパワーバンド(ここではピークパワーの90%超)を外さないようなギア比を選んでいきます。
実際にオートモードだと十分に速く、遅いなぁと感じることはありませんでした。
フィーリングの話は別問題
しかし、問題はそのフィーリング。CVTがギアを固定しに行くまでの間に少なくないタイムラグがあり、それこそ「よいしょ」と言ってから加速態勢に入る感じです(ただし、加速を始めた最初の一回のみです)。
このあたりはレヴォーグの2.4Lモデル、WRX S4に搭載されたスバルパフォーマンストランスミッションは明確に変速が速いので、それが欲しくなる、というのが正直なところ。
マニュアルモードの方が気持ちよいがどうしてもパワーバンドに入らないと非力、CVTはパワーバンドを使うので速いんだけどフィーリングが、ということでなかなか悩ましいモード選択でした。
また、オートの場合「S」モードであってもアクセルを緩めるとすぐに回転が落ちてしまうため、カーブの連続する場所では回転が急激に上がったり下がったりを繰り返し、車の動きがギクシャクして気持ちよくありませんでした。
こちらも動画をどうぞ。十分力強い加速をしています。一方、回転が急上昇したり急下降したりすること、CVTのチェーンの音がけっこうすることなどがわかると思います(わざとそういう運転をしたというのもあります。でもオートで回転数を維持しながら走るのはかなり難しい)
乗り込んでみた印象:変わらないスバルの世界が広がる
変わらない前方視界の良さ
走行性能に比べて、乗り込んだ時の印象は「変わらない」スバルが優勢。
前方視界はやはりスバル、とても良いです。
ボンネットの高さが低く、シートを一番下におろしてもボンネットを少し見おろすくらいなのは、やはり水平対向エンジンならではパッケージングだと思います。

ドアミラーの取り付け位置がドアパネル側で、Aピラーとの間がかなり空いているため、左右斜め前の視界も良い。また、WRX S4と同じく、ドアミラー付近のショルダーラインが微妙に下がっていて視界を確保しています。もちろん、Aピラーの形状も工夫されていて、視界への影響を最小限にしています。


後部座席、トランク
後部座席は、現代の車らしく窓が小さく窓枠下端が高くなっているので、少し圧迫感はあるかもしれません。頭の方も少しクリアランスが少ない感じです。我が家のように5人家族だと少し窮屈かも。多人数乗車をする車の中心はSUVになってきているので、ハッチバックはスペース効率については割り切ってきているのかもしれません。(後席の広さではフォレスターが圧倒しています)


硬めのシート
シートの座面は固め。6代目のXV誕生時にシートの形状は大幅に見直されたとありましたが、5代目でも腰回りのホールド感はそれなりにあります。

また、クッションの厚さなどは十分で、長時間運転でも疲れませんでした。
ただ、サイドサポートと肩回りのホールドは皆無に近く、基本的には街乗りを中心に考えられたシートだと感じました。(あまりホールド感がないと感じていたS401のシートですが、車検が終わって乗り換えてみると、S401の方が上半身のホールドは高いことがわかりました。主要用途の違いを感じます。)
それはさておき、このシートの硬さを見ても、姿勢保持による安全を優先的に考えているところにスバルらしさを感じます。
内装の質感
内装の質感は、主観によるところが大きいと思いますので、とりあえず写真だけ載せておきます。笑





ユーザーインターフェース等
ドアパネルのウィンドウ操作関連のボタン類の配置やステアリングホイールスイッチなどはとても良く、迷うようなことはありませんでした。スバルは操作系のインターフェースもやっぱりきちんと作り込んでくる印象です。こうしたところも「スバルは変わらない」感じです。


燃費は?
気になる燃費。街乗りと1回の長距離走行で、車載器の燃費は12.4㎞/lでした。これはWLTC総合の数値と同一。満タン法では11.2㎞/lでしたが、これは前の借受人がどこで給油してその後どれくらい走ったかはわかりませんので、あまりアテになりません。
我が家のレガシィ S401はおそらく同じルートを走ると10㎞/l前後だと思いますので、それに比べると当然良いです。
でも、トヨタ カローラスポーツの2.0L NAモデルのWLTC総合燃費が驚異の17.2~18.3㎞/l(FFではありますが)ですから、やはり(インプレッサは)物足りない。
が、そろそろスバルにもストロングハイブリッド+水平対向エンジンが出るようなので、今後に期待したいところです。

まとめ
(安全支援機能については、オーナーになって長期間使ってみないとちゃんとしたことが書けそうもないので、割愛しました)
長くなりましたが、先代インプレッサ、変わるスバルと変わらないスバルが交錯する、興味深い車でした。
個人的には、街乗りでのファミリーカーぶりに少し面食らいましたが、ブランドも時代の要請に従って変化しなくては生き残れません。
今後、今日見てきたような新しい技術をどう料理して、どうブランドの特色を維持あるいは進化させるのか、一消費者として楽しみにしていきたいと思います。











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