ずっと頭から離れない車、スバル WRX S4(VBH)。三井のカーシェアーズで一日借りて箱根と伊豆を走ってきました。長距離乗ってみて気に入った点、気になった点を紹介します。
前回の試乗記はこちらをどうぞ。
WRX S4、三井のカーシェアーズでは最上級格付け
三井のカーシェアーズは、車のグレードに応じて、5段階の価格が設定されています。
各グレード、こんな車があります。
詳細はこちら。
ベーシック:ヤリスクロス、ハスラー、クロスビー、N-BOXなど
ミドル:プリウス、ヴェゼル、フォレスター、マツダ3、CX-5、ジムニーなど
ミドルプラス:ハリアー、シビック、ZR-V、レヴォーグ、CX-60など
プレミアム:GR86、ハイエース、ロードスター、レクサスUX、ゴルフなど
プレミアムプラス:クラウンスポーツ、アルファード、WRX S4、レクサスNXなど
このように、スバル WRX S4は最上級格付け。1日借りると2万円以上の出費になります(距離別料金が別途加算されるため)
それでも、私は本気です。もしかしたら買うかも、という期待があるからです。
といってもフェアレディZ(RZ34)の納車が迫り、今の車たちを手放さない限りもう買う余裕はないのですが。
あれ、着座位置高いな
配備されている車はWRX S4 GT-H EX。電子制御ダンパーのつかないモデルです。
早速座席に座ってみます。

すると、最初にレヴォーグに乗った時にディーラーの人に「けっこう着座位置高くなりましたね」と感想を漏らしてしまったときの感覚がよみがえりました。
座席位置を高めに設定してるからかも、と思って一番下まで下げてみましたが、それでも高い。
そこでヒップポイントを調べてみました。
そうすると、律儀なスバルさん、ちゃんとFAQに載せていました。
| ヒップポイント | 520㎜ |
| リフト量(上側) | 運転席:40㎜、助手席:20㎜ |
| リフト量(下側) | 20㎜ |
ああ、やっぱり。私が乗っている3代目レガシィはセダン(B4)487㎜、ツーリングワゴン492㎜。その前に乗っていた4代目レガシィはセダン(B4)482㎜、ツーリングワゴン487㎜。
ざっと3センチちょっとなのですが、違いはけっこうあります。
WRXはアメリカ市場をメインターゲットにしていること、2012年には社内でもBRZというスポーツカーが誕生して、WRXはより実用的な車として位置づけられたことなどが影響してるかもしれません。
ちなみに、座席を一番下までおろして、私の高い座高にステアリングホイールを調整すると、選択しているギアのインジケーターが見えなくなります。
このあたりって、律儀な車造りをするスバルらしくないなと思うところ。

視界性能はやはり良い
もうすでにWRX S4(VBH)の試乗1回、レヴォーグ(VN)の試乗2回と中距離ドライブ1回、と計4回この兄弟(?)には乗っているため、正直なところ視界性能などの驚きはあまりありません。
ただ、現代の車の中では本当に視界が良く、考え抜いて設計されているように感じます。


エンジンをかける。静か!
エンジンをかけます。
おぉ、なんだか静か。遮音材を通しているのがありありな感じの、ややくぐもった音がします。
走りだす。ん?
走り出すと、最初の試乗と同じく2つの点が気になります。
1つ目はロードノイズがけっこう気になること。レヴォーグに比べてサイズの太いスポーツタイヤ(245/40R18(前後)、DUNLOP SP SPORT MAXX GT600A)を履いているので仕方ありません。
ただ、気持ちいいはずのエンジンが(遮音されているため)あまり聞こえないのに、不快なロードノイズが際立っていて少し音のバランスが悪いと感じます。


2つ目は、ステアリングのセンター付近がちょっと軽く、アソビがあるように感じられること。
最初の試乗の時は、レヴォーグに比べて、
「WRX S4はスポーツカーっぽい骨太感があるんだけどセンター付近がちょっとカチッとしてない感じ。トレードオフがあるように感じました。個人的な好みでいうとWRX S4でした。」
と書いているのですが、今回の350㎞の試乗では、最後までこの「フワフワ感」に悩まされました。
渋滞の東名高速道路:いきなりの洗礼
スズキ ジムニーの試乗の際にも書きましたが、渋滞の東名高速横浜町田IC~厚木IC間は、個人的にはステアリング(フィール)にとって鬼門のコースだと思っています。
WRX S4もこの洗礼を浴びました。
わかりにくいステアリングと車の動きの関係
この車、センター付近が少しフワフワして手ごたえのないステアリングフィールだということは先ほど書きました。が、低速で走っている時にわざと左右にハンドルを切ってみると、じつはステアリングの不感帯はそれほど大きくなく、車はステアリングの操舵に反応して動いていることがわかりました。

まとめるとこんな感じ:
1.ステアリングを切っても車が反応しない「不感帯」がちょっとある
2.その次に、軽い手ごたえのないステアリングフィールながら、車が反応している領域がある。しかもステアリングギアレシオが13.5:1とクイックなので、けっこう神経質な動きをする
3.ステアリングフィールがしっかりとして、車も反応している領域がある(大部分これ)
厄介なのが、2.の領域でした。
渋滞時、カント(傾斜)のついている東名においては微小なステアリング操作が必要になります(放っておくと進行方向に曲がりすぎる)。その際、2.の領域が非常につかみづらく、どれくらい操舵すればいいのかわからなくなってしまうのでした。あれ、切りすぎ?あれ、切れてない?と車からの不明瞭なフィードバックに悩まされながらちょっとあてずっぽうに操舵する感じになります。操舵はクイックで繊細な操舵を要求するのにフィードバックがあいまいなので、操舵に対して車がどう反応してくるのかいまいちよくわからないのです。
おかげで、厚木ICを過ぎたときには「両腕、ダルッ」という感じになっていました。

※もしかすると、EPSのチューニングと車の動きが、いまひとつ噛み合っていないのではないか、とも感じました。
WRX S4は(タイヤのウォール剛性が高い、サスペンション取り付け部がピロボール化されている、ダンパーの減衰力が高く初期応答も速いなど、より“遊び”のない構成のため)操舵に対して車体自体の反応はレヴォーグよりも速い印象があります。
その一方で、EPSのセッティング――とくにセンター付近でのアシスト特性や、アシストに入るまでのタイムラグ――はレヴォーグと同じ傾向(センターに不感領域を設けており、反応も少し遅い)にあるようで、
「車はもう動いているのに、ステアリングには反力が返ってこない」という不思議な領域があるように感じられました。
もしかすると、水平対向フロント縦置特有のステアリング機構の取り回しの難しさに起因する「構造的なしなり」を見越して、センター付近におけるEPSの反力の立ち上がりをあえて鈍くしているかもしれません。
こうしてみると、こうした「違和感」というのはなかなか根深いものだなぁと思います。
高速ワインディングでエンジンを味わう
エンジン、ちょっと回してみます。
エンジンはFA24F・水平対向4気筒ターボエンジン。最高出力275PS/5,600rpm、最大トルク375Nm/2,000-4,800rpm。低回転域からフラットトルクを発生します。


低速トルクは鬼のようにあり、ターボラグはほとんどなく、トランスミッションのシフトチェンジの速さもあり出だしの加速は爽快です。
BRZ、レガシィS401とパワーの出方を比べてみる
試しに、BRZ S(MT)、私が乗っているレガシィS401と各車速でのパワーの比較をしてみます(概算値。単位:PS)。一番パワーの出ているギアを選んだ場合です(ただし1速は使わない)。
| 車速(km/h) | WRX S4 | BRZ | S401 | |||
| 40 | 157 | 2速 | 103 | 2速 | 132 | 2速 |
| 50 | 196 | ↓ | 134 | ↓ | 180 | ↓ |
| 60 | 235 | ↓ | 156 | ↓ | 229 | ↓ |
| 70 | 264 | ↓ | 185 | ↓ | 267 | ↓ |
| 80 | 273 | ↓ | 211 | ↓ | 287 | ↓ |
| 90 | 253 | 3速 | 231 | ↓ | 288 | ↓ |
| 100 | 267 | ↓ | 187 | 3速 | 276 | 3速 |
| 110 | 273 | ↓ | 205 | ↓ | 289 | ↓ |
| 120 | 257 | 4速 | 219 | ↓ | 287 | ↓ |
車重差を考慮して、全部1,500kgの車だとした場合の理論的なパワーに補正して比較したのがこちら。
| 車速(km/h) | WRX S4 | BRZ | S401 | |||
| 40 | 147 | 2速 | 122 | 2速 | 132 | 2速 |
| 50 | 183 | ↓ | 158 | ↓ | 180 | ↓ |
| 60 | 220 | ↓ | 185 | ↓ | 229 | ↓ |
| 70 | 248 | ↓ | 219 | ↓ | 267 | ↓ |
| 80 | 256 | ↓ | 249 | ↓ | 287 | ↓ |
| 90 | 238 | 3速 | 273 | ↓ | 288 | ↓ |
| 100 | 251 | ↓ | 220 | 3速 | 276 | 3速 |
| 110 | 256 | ↓ | 242 | ↓ | 289 | ↓ |
| 120 | 241 | 4速 | 259 | ↓ | 287 | ↓ |
| 車重(kg) | 1,600 | 1,270 | 1,500 |
BRZは圧倒的に軽く(6MTで1,270kg)、自然吸気エンジンで高回転でパワーが出るので、補正すると2速80㎞/hを超えてくる領域ではWRX S4よりもパワフルなことがわかります。その後100㎞/h手前で(BRZが)3速にシフトアップするとまたWRX S4が上回って、120㎞/hでまた逆転、というシーソーゲームになりそう。
S401もターボながら高回転型なので、60㎞/hになるとWRX S4より速くなり、そこからどんどん引き離しにかかる・・・そんな感じ。
逆に、2速の低速域(50㎞/hちょっとまで)はWRX S4が、トルクの太さを活かして他の2車より速いことがわかります。
シビックタイプR、718ボクスター GTS 4.0とパワーの出方を比べてみる
ついでに、シビックタイプR、ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0(PDK)とも比べてみます。パワーだけ見ると、時速70㎞/hまでシビックタイプRとWRX S4はいい勝負。
| 車速(㎞/h) | WRX S4 | シビックType-R | 718GTS4.0 | |||
| 40 | 157 | 2速 | 161 | 2速 | 123 | 2速 |
| 50 | 196 | ↓ | 201 | ↓ | 164 | ↓ |
| 60 | 235 | ↓ | 241 | ↓ | 204 | ↓ |
| 70 | 264 | ↓ | 269 | ↓ | 250 | ↓ |
| 80 | 273 | ↓ | 294 | ↓ | 304 | ↓ |
| 90 | 253 | 3速 | 316 | ↓ | 348 | ↓ |
| 100 | 267 | ↓ | 322 | ↓ | 380 | ↓ |
| 110 | 273 | ↓ | 293 | 3速 | 399 | ↓ |
| 120 | 257 | 4速 | 309 | ↓ | 393 | ↓ |
ただ、車重を考慮して補正すると。。。
| 車速(㎞/h) | WRX S4 | シビックタイプR | 718GTS4.0 | |||
| 40 | 147 | 2速 | 169 | 2速 | 126 | 2速 |
| 50 | 183 | ↓ | 211 | ↓ | 168 | ↓ |
| 60 | 220 | ↓ | 252 | ↓ | 208 | ↓ |
| 70 | 248 | ↓ | 282 | ↓ | 255 | ↓ |
| 80 | 256 | ↓ | 308 | ↓ | 310 | ↓ |
| 90 | 238 | 3速 | 332 | ↓ | 355 | ↓ |
| 100 | 251 | ↓ | 338 | ↓ | 388 | ↓ |
| 110 | 256 | ↓ | 307 | 3速 | 408 | ↓ |
| 120 | 241 | 4速 | 324 | ↓ | 401 | ↓ |
| 車重(kg) | 1,600 | 1,430 | 1,470 | |||
車重の軽いシビックタイプRの方が全域で速く、特に70km/h以上の領域でもぐっと伸びて、WRX S4を引き離していきます。このあたりはターボであっても高回転までしっかり回るエンジンをつくる、というホンダの意地が見えてきます。
ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0(スミマセン本来ケイマンと比較したいところでしょうが、私の持っている車がこれなんで。。)は自然吸気でロングギアのため低速域(50㎞/h超まで)ではBRZとほとんど同じくらい。WRX S4には及ばず。70㎞/hでようやくWRX S4を上回り、80㎞/hでシビックタイプRに追いつく。このあたりからのパワーの伸びはけっこう強烈で、そのまま120㎞/hを2速で走り切ってしまいます。
「今どきの」エンジンフィール
ということで数値上低速域が速いことが証明された(?)WRX S4ですが、体感的にも出だしはけっこう速い。ターボラグも少なく、トルク変動もほとんどなく、とても現代的に感じます。トランスミッションの出来も相まって、出だしは先代よりも速いのは確実だと思います。
ただ、スポーツカーとして捉えると、もうちょっとワクワクした感じがあったらなぁと、ないものねだりをしてしまう自分がいました。
レブリミットは6,000回転。時速81.9㎞/h(理論値)で2速を使い切ってしまいます。
ドラマがないので、あぁもうギアチェンジですか?という感じは否めません。
それでも、響いてくるのはまぎれもない水平対向エンジンの音です。この音をデジタル補正や増幅なしに聴けるのはラッキーと思わないといけないですね。。
小休止:エクステリア、インテリアを改めてみてみる
ここでちょっと休んで、改めてエクステリア、インテリアを見てみます。
エクステリア
改めて見てみると、万人受けはしなさそうだけど、個人的には新しいセダン像を創ろうとチャレンジしている感じがけっこう好き。この色も、自分では勇気がなくて選べないけど、この車のキャラクターが出ていて良いなと思いました。





フロントがストンと落ちたところとか、なかなかアグレッシブ。

写真で見たときは、明るい色だとリアの黒い部分の厚みが強調されていかがなものか、と思ったのですが、意外にそうでもない。ダミーのフロントエアインテーク(ホイールハウスへのスリットは開いている)、空力的に意味のなさそうなリアアウトレット近くの水平ラインはゴテゴテしてあまり好きではないですが、それでも全体的に見れば個人的にはアリのような気がします。


空力関連
空力処理はかなりやっているようです。ご存じの鮫肌とエアアウトレット。

サイドステップ。ボディ下部はけっこう絞り込まれてます。

リアホイールアーチの上は出っ張っていて、空気を上と横に分けています。

個人的に気になるのはこの「チリ」。左右が少しずれているので何とも言えないのですが、もしかすると空力のために手前の両端を少し横に出しているのか?他の個体でも少し両端が出ているので、設計上なのかなとも思ったり。それともたんに合ってないだけ?


インテリア
インテリア。ダッシュボードのハードプラスティックとカーボン調のドアオーナメントはちょっとどうかと思うものの、全体的には実物はカタログ写真より良い印象でした。実際のスケールで見るとゴチャゴチャ感が薄れるからだと思います。



シート。やや大柄ですがちゃんとホールドしてくれます。

夜はこんな感じ。白基調。


Aピラー周辺の視界はこんな感じ。

後席まわり
後席はけっこう広く、中央席の座面もそれほど高くなく快適です。


いまどきの車にしては窓も大きく、後方視界も悪くはありません。

後席からの視界はこんな感じ。

中速ワインディングでスバル・パフォーマンス・トランスミッションのフィーリングを味わう
リニアトロニック改めスバル・パフォーマンス・トランスミッション(SPT)はどんな感じでしょうか?

マニュアルモードを試す
まずはマニュアルモードを選びます。
良いのは、インプレッサ(先代のNAモデル)に試乗した際と違って、トルクに余裕があること。アクセルを踏み込んでみると2速、40㎞/hからでも余裕でスルスルっと加速します。ギアチェンジの回数も少ないです。
シフトアップの変速はとても速い。ただし変速時に、DCTのようにスパッと次のギアに変わるのではなく、ウワーンと連続的に回転が下がっていくように感じるときがあります。(変速時にエンジンの点火タイミングを遅らせるエンジン協調制御を加えたりしているそうですが)。
また、CVTチェーンの音はそれなりにします。
続いてオートモード
先ほど書いた通り、試乗したWRX S4のグレードはGT-H EX。エンジンレスポンスとギア比はインテリジェント(I)、スポーツ(S)、スポーツシャープ(S#)の3段階。S#で走ります。
SPTは、オートモードでも人の感覚に近い変速制御を行う、と謳っています。変速速度も、シフトアップ時従来型比30%高速化、シフトダウン時50%高速化されたとのこと。
期待して走らせます。まず、インプレッサと違ってトルクがあるので、マニュアルモードと同じステップ変速のギア比を使っているようです。それもあり、不自然に低いギアに落ちてしまう、みたいなことがないのは良いところ(先代インプレッサのオートモードでの走行動画はこちら)。
一方で、少しでもアクセルを緩めるとモードをS#にしていてもすぐにギアを上げようとするようでした。やはり燃費を良くするためなのでしょう。個人的にはS#はもう少しギアを低くキープするプログラムにしてほしいとは思いました。
シフトダウン制御は、このモデルから減速Gをパラメータとして加えたそう。ただ、ちょっと運転者の出方を待っている節があり、ギアを選択するのに一瞬の間があります。そして変速時に少し動力が切れて前に飛び出るような感覚になる瞬間もあります。
あれー、もうステアリング切り始めてるんだけどなぁ、そんなところでギアチェンジ時の空走感があるとビビるんですけど、という感じはちょっとありました。
オートモードで少し強めに加速・減速をしてみたときの動画です。
もうちょっとブレーキと同時に躊躇せずシフトダウンしてくれたらいいのに、と思います。
ということで、こちらについてはポルシェのDCT(PDK)ほどにはしっくりこない、というのが本音です。これなら私はダウンシフトはマニュアル操作しようかな、と思いました。
荒れた山道での足回りを味わう
けっこう硬い足
足回りは今時にしてはけっこう硬い。電子制御ダンパーが付いたグレードのほうが快適性は高そうです。ドライバーとしては受け入れられなくはないものの、同乗者によっては「乗り心地が悪い」と感じるかもしれません。
一方、面白いと感じたのはサスペンションのストローク量の多さ。昔からスバル車はスポーツモデルでもサスペンションストロークが大きく、そのままオフロードもかっとばせそうな感じでした。さすがラリーやってるメーカーだなぁと思ったものです。
そうした特徴がこの車にも残っているのか、サスペンションストロークはあります。でもスプリングは硬く、ダンパーも硬く、どちらかというとしなやかというより「突っ張っている」感じ。路面の荒れたカーブなどでは車がけっこう派手に上下に揺すられる感覚がありました。
レヴォーグの電子制御ダンパー非搭載グレードは逆に「柔らかい」印象だったので、非搭載グレードについてはクルマごとにキャラをどちらかに振り切ったのかもしれません。
個人的にはこのサスペンションストロークを生かしてもう少ししなやかな足のほうが好きかも、と思いました。そういう意味では、やっぱり電子制御ダンパーの付いたSTIグレードを選んでしまいそうです。
荒れた路面の走行シーンを動画にしています。
VTD-AWDを味わう
この車のAWD機構はVTD-AWDというもの。いろいろ改良はされているものの、もともとはあのアルシオーネSVXのために開発された機構。
ハイパワーのAWD(四輪駆動)に採用されています。後輪への駆動配分を多めにすることで、ハンドルの動きに呼応して向きを変えるために頑張っている前輪の負荷を下げてアンダーステアを減らそうとするもの。
普通の走行ではなかなかわかりませんが、コーナー脱出時はたしかにアクティブトルクスプリット(こちらは前輪60:40がベース。スバルでは2.4Lモデル以外はすべてこの方式)よりも後輪が後ろから「蹴り出して」いる感覚が伝わってきます。
私が乗っていた4代目レガシィもこの方式だったので、感覚が似ていて思わずニンマリしてしまいました。
新東名120㎞/h区間の走りを味わう
新東名の120㎞/h区間は、この車で一番感心したところです。鮫肌も効いているのか、ホントに手をちょっと添えるだけでまっすぐ進んでいきます。これはラク!ステアリングを動かす必要がないので、センター付近の違和感も感じなくて済みます。こりゃいいなぁ。
ちょっと120㎞/hからの加速を試してみましたが、この速度域だとそれほどパンチのある加速は望めなさそうでした。
安全運転支援を試してみる
安全運転も試してみましたが、これはレヴォーグの試乗記事の方にまとめようと思います。
燃費は?
WRX S4(VBH)の燃費、どうでしょうか?
オンボードコンピュータの値は9.7㎞/lを示していました。WLTC総合が10.8㎞/lなので、ざっと1割悪い。行きの高速の流れが悪かったとはいえ、ちょっと期待外れ。ウチのS401とあまり変わらないんじゃ?(オンボードコンピュータの燃費計の精度はよく知りません)
ちなみに別の日にポルシェ 718ボクスター GTS 4.0でほぼ同じコースを走ったときはオンボードコンピュータで10.7㎞/l。ポルシェのオンボードコンピュータはちょっと割り引かないといけないので実燃費は10.2㎞/くらいでしょうか?(WLTC燃費とほぼ一致)
それでも4.0L自然吸気エンジンの方が燃費がいいかも?という結果でした。
車重、AWDというハンデはありますが、もう少し頑張ってほしいかも。
WRX S4の立ち位置は?
車を降りて、改めてこの車の立ち位置を見てたいと思います。
アメリカでの販売台数が突出している車
WRXとレヴォーグのアメリカ・日本での販売台数を見てみましょう(2023年、単位:台)
| アメリカ | 日本 | |
| WRX | 24,681 | 2,300 |
| レヴォーグ | 15,267 |
これだけ見ても、レヴォーグを含む「WRXファミリー」の売上は、アメリカにおけるWRXが一番であることがわかります。
アメリカでの販売台数、他の車はどうかというと・・・(2023年、単位:台)
| アメリカ | |
| BRZ | 4,188 |
| MX-5 Miata(ロードスター) | 8,973 |
WRXはロードスターの約2.5倍。BRZの6倍売れています。
アメリカにおいては、特に若年層のファミリーがターゲットとされているようです。
一台で、家族を乗せて旅行に行き、たまには荒れた道も走り、たまには一人で走りを楽しむ。そういった多くの用途に使える車を目指しているようです。

日本人にとってのWRXは?
日本においては、元々ラリーカーのベースモデルとして、セダンなのに異様に速い車として認知されてきました(インプレッサ WRX STI)。
当時のインプレッサ WRX STI(GC8)は4340×1690、1250kgのボディに280PSのエンジンを載せていました。
WRXよりサイズの大きいBMW M3(E36, 1994-1999年)が321PS、1490kgでしたから、スペックの比較でいえばM3よりも速いくらい。(もちろん、私はパワーウェイトレシオがすべてとは思っていませんが、わかりやすさのためにあえて割り切って書いています)。
そんな車がBMWの4割くらいの値段で買える時代でした。そして独特の水平対向エンジンとフルタイム4輪駆動という、かなりとがった商品でした。

ポジショニングの変化をどう受け止められるか?
その後、ラリー参戦をやめ(2008年)、車のサイズも大きくなり(現WRX S4は先ほどのM3 E36より全長で18㎝、横幅で11.5㎝大きい。なお、4代目レガシィB4より全長で3.5㎝、横幅で9.5㎝大きい)、WRXに当時の面影はなくなりました。
さらに、WRXには現行モデルから最速グレードであるSTIがなくなりました。BMWでいえば、4シリーズはあるけど、M4はなくなった、そんな感じでしょうか?(2シリーズでもいいけど)
ハイパフォーマンスカーのブランディングとしては、すごく難しいと思います。M4があるからシリーズ全体がハイパフォーマンスの車だ、と認知される面は少なからずあり、だからこそ各メーカー最上位モデルはCAFE規制があってもこだわって出している面があると思います。

「ハイパフォーマンスぶり」も相対的に低下してきました。ユーザーからすると、こうした車にとって「パワー」は非常にわかりやすい指標です。
M3(M4)は、E36が321PS、現行モデルでは素のモデルでも480PSまで上がっています(重くもなっていますが。ちなみにCSLは550PS)。
その間、WRX STIは280PSから先代で308PS、その後最上位グレードがなくなったため275PSと、シリーズ全体で見ればほぼ25年変わらず。
そんなこんなしているうちに、小さいボディに300PS超のエンジンを載せたGRヤリスのような車が国内からも出てきてしまいました。
そういうこともあり、スバルはこの車を(アメリカの)若者向けのスポーティなファミリーカーと再定義(?)してきているのだと思います。ライバルもM2・3・4やアウディRS3・4あたりではなく、ゴルフGTI(Rではない)やヒョンデ エラントラNなどになってきているようです。
実際はとてもいい車だとは思いますが、このポジショニングの変化をどう受け入れられるかで、この車に対する見方は変わってきそうです。
まとめ
走ってみると、昔のインプレッサWRX STIのような荒々しさの全くない、そつなくまとめられた車だなぁと感じました。特に、高速走行時の安定感やトルク変動の少ないターボなどは、疲れなくて良いと感じました。
一方でゲインがクイックなのにセンター付近があいまいなステアフィールや、エンジン音の静けさに対して際立つロードノイズ、古典的に硬めの足回りなど、個人的にはちょっと気になる点もありました。また、往年の水平対向エンジンの「味」が薄れている点には、時代だから仕方ないなと思いながらもちょっと残念に思う部分がありました。
他の車がどんどんハイパフォーマンス化していく中で、WRXはどこに居場所を見つけるのだろう、そんなことをぼんやり頭に浮かべながらこの車を後にしました。

スバルレヴォーグ(VN5。1.8Lモデル)の試乗記事はこちら。
WRX S4のコンプリートカー、S210を購入、2025年10月に納車されました。印象はこちら:










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