ポルシェ718ボクスター GTS 4.0が納車されてから来月で3年。718ボクスター(2.0L)に乗り始めてから足かけ8年になります。
メルセデス・ベンツGLBが2023年に納車されてから通勤のメインの座は明け渡しつつも、ホンダ シビック タイプR(FL5)や日産 フェアレディZ(RZ34)が納車されても、依然として我が家の走行距離ナンバーワンの座は揺るぎません。
長く乗っていても、この車に免許返納まで乗っていたいと思うのは、この車が初めての出会いから毎日の相棒になるまでの様々なステージで異なる魅力を見せてくれるからだと思います。
今回は、ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0のどんなところが魅力的だと思ったのか、たどってみたいと思います。
718ボクスター GTS 4.0についての全般的な魅力紹介はこちらをご覧ください。
納車1年後のレビューはこちら。(5回シリーズ!)
初めての出会いでもわかる「良さ」
いいな、と思う車はやっぱり初対面で何か感じることが多い。
初対面でわかる「良さ」は、おおむね試乗記事などを見るとわかるものがほとんど。
低い着座位置
私はセカンドカー購入検討を始めたころ、「オープンカー」であることしか決めていませんでした。子供も乗れた方がいいかもと思い4座のオープンカー(BMW4シリーズ、ベンツCクラスなど)を第一候補にしていました。
でも、ポルシェに冷やかし(というか敷居が高くてスルーしようとしていた)で訪れ、座席に座った瞬間、こりゃいいなぁとなったのでした。
着座位置が低いのに、フロアも低いので普通の姿勢で座れてしまう。

やはり、スポーツカー専用設計だけのことはある、そう思ってこれだけで興奮したのでした。
着座位置は、スポーツカーにとってけっこう重要なファクター。
個人的にはマツダ ロードスターと並んで、この車の着座位置にはぐっと来てしまいました。
車に乗り込むときは「よいしょ」と腰を下ろすことになります(とはいえ、我が家のオースチン・ヒーレー・スプライト Mk1(1959年製)の方が着座位置はさらに低いですが)。
今も座るときは面倒だなぁと思いつつ、「ああ、帰ってきたな」と思います。
後ろからしてくる素敵なエンジン音
とても分かりやすいですが、エンジンをかければすぐわかるのがこれ。
試乗当時(2016年)はちょうど718ボクスターが出たころで、水平対向4気筒のボロボロとした音が自分のシートのすぐ後ろでしてきたことに興奮していました。
駐車場を出る前から、「この車、いい」と思ってしまいました。



エンジン音、それもかなりいい音のエンジンが自分の座席のすぐ後ろから聞こえてくる、というのはなかなかの体験です。熱対策もきっちりされているので、いい音だけど熱い、とかそういうことも皆無。
今は6気筒のGTS 4.0に乗り換えてしまいましたが、今でもこの車に帰ってくると、「やっぱりいいなぁ」となります。
すごいガッチリ感と乗り心地の良さの同居
駐車場の中だけでも感じた、ボディのガッチリ感。(正確には足回りの取り付け剛性から来るものだと思います)。ドイツ車を中心にこの感覚を得られるクルマはありますが、これもそう(しかもこれ、屋根開くのに?!)。でも、前述の着座位置とエンジン音が後ろから来る効果と相まって、こりゃすごい車だなぁ、と打ちのめされてしまうのでした(まだ駐車場から出てないぞ!)。
それでいて走り始めると、なんだ、この乗り心地の良さは?となる。
もう、これだけでくらくら来てしまいます。
レイアウトからくる重量バランス
初めてレーンチェンジをすると、この車がミッドシップなんだなぁとすぐわかります。別にクイックなわけではないのですが、なんのトリックもなくすっと車が向きを変えます。
ああ、本当に前が軽いんだな、とわかります。



実際の車の動きがわかってくると、じつはコーナーリングの際にノーズが入りすぎないようにうまいことコントロールしてるんだなと思うようになりましたが(後述します)、それでも前に重量がないことは隠しようもない事実。物理の法則には逆らえません。
ということで、ミッドシップレイアウトから重量配分が、この車の特色であることは紛れもない事実。この動きにフィーリングがあう人は、好きになれると思いますし、好きなままでいられると思います。
一通り乗ることでわかる「良さ」
車を所有して乗ると、車のいろんな側面に気づいてきます。特にわかってくるのは日常の使い勝手や、あまり運転したくないシチュエーションでの扱いやすさなどです。もちろん、本領を発揮するワインディングなどでも新たな発見はあります。
高速道路での安定感
車が納車されると、速かれ遅かれ高速道路に乗ることがあると思います。
正直なところ、リア駆動でホイールベースが2500㎜ないような車の直進安定性なんてふつうは期待しないもの。実際にNDロードスター(ホイールベース2310㎜)などに乗ると、「普通」というとちょっと盛っているような直進安定性でした(←2015年モデルくらいの話)。
でも、718ボクスター、走ってみると「けっこういい」。なにより路面に張り付いている感じがとてもいい。

そして、納車後すぐには気付かないかもしれないのですが、意外とステアリングのセンター付近がクイックでないこと(実際にバリアブルギアレシオで中央左右それぞれ30度くらいはギアレシオが15.0:1)がわかります。

センター付近は不感帯がほとんどないものの、ゲインがクイックではないため、とてもリラックスして走ることができます。
電動パワーステアリングに細工がしてあるわけでもなく(たとえばセンター付近の操舵抵抗を大きくする、などはしていない)、基本的にはサスペンションのジオメトリー設計を含む足回りと空力特性でこの味を作っているようでした。

どうもこの辺りにポルシェ 718ボクスターの「奥深さ」があるな、と気付くのでした。
林道等でのフレキシビリティ
半分くらいの方は一度もいかれないのかもしれませんが、私はドライブするとどうしても林道やそれに類する道に入り込んでしまいます。

そんな時に感じるのは、「スポーツカーだけど実用車でよかった」ということ。
先ほどの「着座位置」の項でも触れましたが、着座姿勢はいたって普通で、フロアごと全体が下がっている感じで無理がありません。そして、こういう時に問題になる前方視界も、前にエンジンがないことでとても良好。左右フェンダーは盛り上がっていて、四隅のだいたいの位置も把握できます。
さすが、隙のないポルシェ。こういった、「まあ普通行かんだろ」というような場所でもしっかりと運転のしやすさを確保しているのがポルシェらしいところ。


こうしてまたひとつ、この車の奥深さを知ることになります。
ちなみに、私は718ボクスターのこうした「実用性」を重視しているので、あえて車高をベースグレードと同じにする(GTS 4.0の車高を1㎝上げる)ゼロ円オプションをつけています。こうした細かいオプションを選べるのもポルシェらしいところですね。
雨での運転のしやすさ
車を所有すると、大半の人は雨の日にも運転することになると思います。
この時に気づくのは、718ボクスター GTS 4.0は雨の日にも運転しやすい、ということ。

それにはいくつかの理由がありそうです。
1.先ほどの「視界の良さ」。死角が少なく前が良く見えるので、雨のようなシチュエーションでも不安が少ないです。


2.これも先述の「重量バランスの良さ」。
ノーマルタイヤで雨のサーキットを走る羽目に逢いましたが、ブレーキが良く効くことにはびっくり。
レッスンで走った水浸しの低ミュー路(だいたい雪道と同じくらいとのこと)でも0.9G以上(ECU計測では0.94G)かかっていて、インストラクターの人にびっくりされました。ちなみにインストラクターの乗っているRC Fではこの路面だと0.8Gくらいが限界、とおっしゃってました。
動画を掲載しておきます。短いストレートでホイールスピンをしながら加速した後にフルブレーキング。ホイールスピンしたこともありこの時の減速Gは0.8Gくらいでした。(こういうところを走ると素人でも車の安全装置がどう働くのか、よくわかります。)
ブレーキが良く効く一番の理由は重心バランス。重量が後ろよりなので、フルブレーキングの際にも前がいっぱいいっぱいになってない感じです。4輪のタイヤ接地面をバランスよく使って止めに入るので、制動力が高いのだと思います。

重量バランスの良さはブレーキだけでなく、旋回しながらの加速など、様々なシーンで効いてきます。一言でいうと、「雑に扱っても怖くない」。FR車だと急なアクセル操作でお尻が出そうなところでも大丈夫ですし、インに巻いてしまうような動きも少ないです。
3.タイヤがノーマルタイヤであること(GT4などはミシュラン パイロットスポーツ カップ2を履いているのでだいぶ違う)。雨でもしっかりグリップするタイヤなので、その点も安心です。


4.PSM(ポルシェ・スタビリティ・マネジメント)やTCS、ABSなどの電子制御。普通の運転ではお世話になることはないと思いますが、これもドライバーへの危険の伝え方も含めてとても秀逸です。
5.ワイパーの動作音が小さいこと(車自体はうるさい)。ちなみにポルシェのワイパーは300㎞/hでもビビらずにしっかり拭き取りできるように設計されているようで、これだけで記事がひとつ書けそうなくらいです。笑


雨のような状況は、車の限界が露呈しやすいものです。それは、逆に言えば車の「素性の良さ」や「作り込みの丁寧さ」が現れやすい、ということ。
確かに車は汚れますが、雨だからこそ車の良さが発見できる面もあります。
そう思うと雨に乗らなきゃもったいない、とも思います。笑
「合格点」の普段使い
私の場合はコロナ禍以来通勤車として使っていたこともあり、普段使いもそれなりに気になります。その点、いくつか不便なことはあるものの、おおむね合格点でした。
1.特にポイントが高いのは荷室の大きさ。前のトランクは奥行きがあり、小さめの人なら中にすっぽり入れるサイズ。(誰がそんなことするんだと思いますが、知り合いが実演したことがあります。)

後ろのトランクは浅めですが幅があり、エンジンのすぐ後ろにありながら熱対策もそこそこされています。(それでも野菜は温野菜になる可能性あり)

2人で泊りがけの旅行に行く分には十分なサイズ。小旅行に行くのに、あまり荷物のことを気にしないでよいのはとても良い(ただし、ゴルフバッグは入らないので2人でゴルフに行きたい方は選択肢から外れそうです。私はやらないのでわかりません。。。)
2.ぎりぎり許容できる運転席での乗り心地。
3.視界の良さからくる運転のしやすさ。
4.幌(ソフトトップ)

まずは音がしない。981型から音の透過エネルギーは半分になったそう(100㎞/h走行時74dB→71dB)。
スポーツカーなのにちゃんと外皮とルーフライナーの間にフリース系の防音材が入った構造になっていて、閉めるとけっこう静かになります。
そして開け閉めは実測60㎞/h以上(メーター読みで65㎞/h以上)までOK。開閉時間は9秒。
フレームにマグネシウム合金を使うなど、軽量化にも余念がありません(987型より12kgも軽量になったとのこと)。
私はかっこいい718スパイダーに乗りたいなと思いつつ、この幌と先ほどの車高が理由で、ボクスターを手放せません。
これらの理由があるので、必要に迫られた運転でもあまり苦にならない、というのは長期間使う上では何気にボディブローのように効いてくるところ。
長く乗って再発見する「良さ」
長く乗っていると、車の魅力についてはだんだん考えなくなってきて、それが「普通」になってきます。でも、ふとほかの車に乗ってみると、じつはこの車に戻ってきたい魅力ってこれなんじゃ?みたいなことが改めて出てきます。
車の「安定感のある」動き
じつは、この車のすごいところは運動性能が高いのに、とても安定感のある動きをするところだなと思います。切ったらグワッとゲインが立ち上がる、とかカミソリのようにトルクが立ち上がって加速する、みたいなことがなく、すべてが「線形的(リニア)」に感じられるように作られていると思います。ブレーキや回転運動も同様です。
山道を適当に走る分にはそれほど感じられませんが、サーキットなどに行くと、このような特性は私のような初心者にはすごくありがたいです。
今回は、車の挙動が良くわかるゲーム(シミュレーター)で見てみたいと思います。
バーチャル空間での718ケイマンGT4 CS
私は車のゲーム(シミュレーター)が好きで、特にアセットコルサというタイトルを好んで遊んでいます。シリーズにアセットコルサ・コンペティツィオーネ(Asetto Corsa Competizione)という、GT3、GT4カーだけを扱ったSRO公認ゲームがあり、その中に718ケイマンGT4 クラブスポーツ(CS)が収録されています。

走ってみると、この車の特性が良くわかります。
前後、左右の加重移動が穏やかで、アクセルオン・オフでの姿勢変化がそこまで急に起こりません。基本的にとても線形的に、滑らかに車が動いています。

全体的に荷重変化が穏やかなので、減速時にきちんと前荷重にして、加速に入る前に上手に舵を入れていかないと、アンダーステアが出てしまいます。一度荷重が前から後ろに動くと、FR車のようにエンジンという錘(おもり)を使えないため、向きを変えるのに一苦労です。

逆に、加速体制に入る前で向きを変えられればそこからのトラクションは強力で、多少乱暴にフルスロットルをかけても全く問題なしです。また、ある程度の範囲であればトラクションの力で車を内側に向けながら加速していくことも可能(トラクションで穏やかなオーバーステアに持っていくことは可能)。

ロールは終始少なく、変化も穏やか。リアが回転の中心として踏ん張っている感じです。

リアミッドシップに重心の低い水平対向エンジンを積み(オイルの供給をオイルパンからではなくポンプで行うドライサンプ式のため、エンジン搭載位置を低くできる。標準車もセミドライサンプ式でオイルパンが薄いため、共通設計だとしても低くできる)、制約の多いストラット式サスペンションながらジオメトリ(主に取り付け部の位置)の工夫によりロールセンターと重心の距離を短くすることで、特にリアのロールが少ない独特の動きを生み出しているのだと思います。
このようにリアを動かさずにコーナーリングさせるのは、911(の市販車)と似たコンセプトを感じます。
トレッド幅がフロントとリアでほとんど変わらないところも、やはりリアを安定させて(リアを動かさずに)車を曲げる、という意思の表れと思います。(GTS4.0はリアの方が10㎜大きく、GT4系はフロントの方が5㎜大きい。これは前後のタイヤ幅の差がGTS4.0は30㎜、GT4系は50㎜のため)
全体に車の動きが正直で、ちゃんと操れば応えてくれる。が、下手な運転をするとちゃんとその結果も理詰めで返ってくる。因果応報。そんな車です。
同じVWグループのアウディR8(GT4)とも全然違う
アウディR8(GT4)などはもちろんバーチャルでしか乗っていませんが、この車はミッドシップ特有の、リアをむずむずさせて少しずつスライドさせて走るといった考え方の車だと感じます。(ちなみにアウディR8のトレッドはフロントの方が40㎜大きくなっています。前後タイヤ幅は60㎜ありますが、それを差し引いてもポルシェとはだいぶ前後の幅のバランスが違ってフロントが相対的に幅広い。)
それにしても気持ちいいコーナーリング。リアが限界近くでムズムズとするのに動きが穏やかで挙動がわかりやすいので、プロならばリアを少しスライドさせながら微妙なアクセルコントロールだけで速く走れてしまうのでしょう。
サスペンション設計の自由度故か、この過渡特性を狙って出せるところにこの車のそこはかとない余裕を感じます。
ある意味で、ミッドシップカーのお手本のようなコーナーリングなのかもしれません。滑らかで、遊び要素もあって、優雅さすら感じさせます。

ポルシェ 718ケイマンGT4 CSはもっとリア安定型。もしかすると横力に対する変化量が大きいストラット式サスペンションを使っているがゆえに、逆になんとしてでも安定させようと頑張っているのかもしれません。
バーチャル空間でのアルピーヌA110 GT4と比較。全然違う車!
718乗りであればおそらく気になるであろう車のひとつ、アルピーヌA110。このGT4モデルを同じゲームで走ってみます。
GT4モデルは、市販車に比べてかなり安定性重視の「普通の車っぽい」セッティングになっていると聞きます。
が、それでも「全然違う」。
まず、ノーズの入り。A110は滑らかというよりグサッとフロントが入っていきます。そしてリア。半ば意図的に腰砕けになり、振り回されるようになりながら追従します。

セッティングを見るととてもよくわかるのが、「攻め(Aggressive)」モードのサスペンションセッティング。基本的に、フロントのバネレートを上げて(硬く)リアを下げて(柔らかく)います。ロール剛性が前寄りになっています。
動きとしては、ブレーキとともに一気に前に荷重を移し、フロントを回転の中心点として使い、そこを軸にリアを「振り回して」向きを変えるようなイメージ。
あれ、これって?
そう、じつは1960年代にラリーを席巻した初代A110と同じ考え方なのだと思います。当時のA110は、動画を見たりラリーゲームで走ってみたりする限り、リアトレッドが細く、そこに積んであるエンジンを振り子のように動かすことでヒラヒラと向きを変える車なのでした。
ミッドシップになってもコンセプトは変わらないように思いました。
ちなみにトレッドはフロントの方が5㎜大きくなっています。前後タイヤ幅は30㎜の違い。前後幅のバランスでいうと718とR8の間くらい)
世間的には、A110の方が「718よりも軽快で曲がりたがる」といわれていますが、バーチャルで走ってみると、もう考え方がまるで違う両車でした。
市販車のA110は特にその傾向が顕著のようです。あえてタイヤもグリップの少ないものを選んでいることからも(同じ銘柄でも承認タイヤは非承認タイヤよりも限界グリップを落としているらしい)、積極的に車を振り回して遊ぶタイプの車なのだと思います。
小まとめ:ミッドシップだけど安定志向の718、これが好き?嫌い?
ということで、ポルシェ 718シリーズは、自分で乗った感じとゲームで走った感じはすごく一致していて、「とにかく安定志向」でリアを安定させながら曲がる車なのでした。

勝手な解釈で恐縮ですが、アマチュアレーサーに多数の車を販売しているポルシェは、基本的に下手くそでもちゃんと安全に走れる車を提供する、ということがミッションのように感じます。(ただし、ワンメイクレース用の911のカップカーなどは相当リアが動くので、丁寧に運転しないといけない車だそう。電子制御もナシでまさに「レーサーの登竜門」的な車。)
特にGTS4.0のような、公道をメインで走るような車においてはその傾向は顕著。
この点、たとえばトヨタがGRシリーズで志向している車とは考え方が違いそう。(GR86とBRZの作り分け方を見るとその考え方の違いが分かるように思います。個人的には、スバルの方がポルシェと似た考え方をしているような気がします。)
ポルシェは、あくまでも「安心して楽しめる」ミッドシップスポーツカーを作っている。これがあう人にはあうし、つまらないと思う人にはもっと刺激的な車(アルピーヌA110など)が待っている、ということなんじゃないかと思います。




長々と書いてきましたが、私が長く718ボクスターに乗って思うのは、「この安定した感じが好き」ということなのでした(わ、これだけかよ、っていう結論ですが。笑)。
車から返ってくる「豊かな」インフォメーション
もう一つ、この車がいいなぁと思うのは、車が運転のために必要な情報を、必要な時に必要なだけ返してくれるということ。そして、余計なことをしないこと。
前提:現代の車は自動化に向かって「無口」になってきている
現代の車は、運転支援機能を前提として、どんどんステアリングなどからドライバーに情報を返さなくなってきています。これらの振動の情報は、運転支援機能(ADAS)をオンにしている時はノイズとして感じられますし、それが乗り心地の悪さ、ひいては「疲れる車」という印象にもつながってしまうからです。

一方、裏では(運転支援モードでなくても)様々な制御が行われています。例えば、横風にあおられたら車両安定化装置(VDC)が働いて進路を乱されないようにしたり、路面のうねりに進路を乱されないように、電子制御ダンパーや電動パワーステアリング(EPS)が協調制御したり。最近のアクティブサスペンションなんかもそう。
自動運転になると、「事故を起こしちゃいました。だって横風が吹いていたから、だって路面がすごくうねっていたから」、というわけにはいけません。そこで、より高感度のセンサーをいろいろなところ(バネ下など)につけて、風や路面のうねりなどの外部環境のノイズがあっても車がちゃんと走るように、ものすごく精密な電子制御をするようになってきているのですね。
そして、こうした「裏方の仕事」は、ドライバーには知らされずに、陰で黙々と行われている、というわけです。
ポルシェ 718のオールドスクールぶり
それに対して、ポルシェ 718シリーズは基本設計が古いこともあり、こうしたハイテクの波に飲まれていません。最後のアナログ世代という感じがします(じつは718の電子制御もすごいのですが、あくまで主役はドライバーと位置付けられている)。
電子制御ダンパーはついているものの、基本的には、車の骨格や足回りなどの物理構造で車の動きを作り出している感じが伝わってきます。
そして、タイヤ、サスペンション、ボディを通して路面の接地情報をこれでもか、と伝えてきてくれます。前にも書きましたが、水をまいた鉄板の上でドリフトをしようとすると、ガガガ、という大きな振動とともにアンダーステアが起こり、「もうそろそろだめだぞ」ということを車が知らせてくれます。そしてミッドシップらしく限界を超えるとつるっと急にリアがブレイクしてオーバーステアになる、という流れになります。
滑りはじめると、「君危ないよ」といった情報をしっかりと伝えてきます。これがあるから次の車の動きが予測でき、怖くないのです。
そして、さらに車が不安定になりVDC(ポルシェではPSMと呼ばれる)が介入してくると、EPSと協調制御して、きちんと「危ねーぞおい!」とハンドルを通して怒ってくるのです。
ABSの作動時も同様。「わかりましたって、もうしませんから」と言いたくなるくらいしっかりと足裏に「滑ってます、ハイ止めてます」と情報を伝えてきます(これはこれで、ほんと止まれないかも、と思えるので怖い)。ABSの作動に上質感も何もあったものではございません。
このあたり、ポルシェはとにもかくにも、どうやって車の安定化に電子制御が介入し、それをどうやってドライバーに伝えて、ドライバーの次の行動を引き出すか、といったことに非常に真摯に取り組んでいることがわかります。車両安定化は、車が勝手にやって終わりではない。車とドライバーの共同作業なんだ、そういった考えで作っているのだと思います。
他社の車で申し訳ないですが、中にはVDCとEPSが協調していないため、VDCが作動して車両の挙動を安定化させても、そのことを知らないEPSがドライバーの操作と勘違いしてステアリング操作をアシストしてしまい、「ぐにゃっ」と抜けたような感じになって怖くなるような車もなくはないのが実態です。
その点、ポルシェは車両の安定化とドライバーへの伝え方は一体のもの。こうした一連の動作を愚直に突き詰める生真面目さがあるからこそ、ドライバーにとってポルシェは「安心して(車を信頼して)走れる」車になっているのだなぁと思います。
まとめ:質実剛健な幕の内弁当ぶりが好き
ということで、3年乗ってきたまとめの言葉が、「質実剛健な幕の内弁当」です。
なんとなく、個性のない全部盛りなかんじがしないでもないですが、じつは私がこの718ボクスターを好きな理由は、「華美なものは何もないのに、すべてにおいてバランスが取れている」ということです。

高速道路?うん、まっすぐ安心して走れる。
普段使い?けっこうちゃんとできる。
荷物?よっぽどのものでなければ積める。
乗り心地?全然悪くないよ。
燃費?けっこういいよ。
ワインディング?超楽しい。
サーキット?空力だけちょっと足りないけどそのままいけるよ。
壊れやすい?ちょ、ちょっとね。
何も足りなくない、そして過剰でない。一つ一つが丁寧に作られた、幕の内弁当のような感じです。
幕の内弁当ってなんか一点突破で潔い「そば」「うどん」とかに比べるといまいち尖った魅力に欠けるような気がしないでもないんですが、一つ一つの味と、それが組み合わさった時の何とも言えない幸福感は、たまらないものがあるのです。
別におせっかいをしてくれるわけでもなく、かといって放っておかれるわけでもない。使い倒せる、忠実な道具。

正直な話、ファーストカーとしてとにかくよくできた車であるメルセデス・ベンツ GLBを購入したこともあり、718ボクスターの普段使いの頻度が減りました。そんなこともあり、9000回転まで回るエンジンを持つ「快楽モンスター(?)」である718スパイダー RSの列に並べるかどうか聞いたことはあります。同時に4気筒の718スタイルエディションを買いなおし、718ファミリー2台体制にしようか、と真剣に考えました。でもかなわぬ夢でした。
そんな浮気心を持った時はちょっとあったものの、やっぱり気兼ねなく使いこなせるこの車が私にとっては最高の車だな、と思い直しました。
そう、どんな時でも、この車と一緒に出掛けたいな、と思えるのです。
こうなったら墓場まで、本当に本当に一緒に付き合ってもらうぞ!と思っています。
ということで、4年目に突入!











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