ポルシェ 718ボクスターとホンダ シビック タイプR(FL5)の比較、第2回はワインディングです。

第1回では718の「サラブレッドぶり」と、FL5の「下町ファイターぶり」を見てきましたが、今回も、両車の類似点と違いが際立つ、面白い比較になりました!

ちなみに両車のオーナーによる素人比較なので、その点はご容赦を。

ワインディングでの、718とFL5の決定的な違い

ワインディングで乗ってみると、やっぱり違うこの2台。非常にわかりやすいところから違いを見ていきたいと思います。

FL5はどう頑張っても前輪駆動車(FF)だった

当たり前すぎますが、ワインディングで走るとFL5はFF(フロントエンジン・フロント駆動=前輪駆動車)だなぁということを実感します。

逆に言えばそういうところを走らせないと、FFのネガがほとんど出ない、ということです。

前前軸重と後後軸重のバランスが62.2:37.8というフロントヘビーな車です。

まずブレーキング。フロントヘビーの車はブレーキングは、特に下り坂だと怖いのですが、この車は「全然怖くない」。

そして、実際に曲げてみるとあら不思議。ブレーキング時からコーナー侵入まではほとんど前述のフロントヘビー感を感じさせません。

ただ、軽快感はあまりなく「重厚」というイメージの方が似合います。

いずれにしても回頭性はとても良く、「曲がらないな」という印象は皆無です。

FFらしさはカーブの脱出に現れます。アクセルを一気に踏むとタイヤがホイールスピンしそうになります。路面をつかみきれずに左右輪それぞれに忙しくトラクションコントロールが働いてくることが伝わってきます。

718はやっぱりミッドシップだった

これも当たり前すぎて申し訳ないですが、ワインディングでの718は「簡単」です。

ブレーキング時はややフロント効きのブレーキで、しかもリアが浮き上がらず、とにかくまっすぐ安定して止める感じです。機械式LSDを搭載しているGTSモデルは、内輪と外輪に回転差が出ると細かく制御が入っているのでより安定した姿勢で減速します。

以前も書いたことがありますが、外から見てもブレーキングの姿勢がものすごく美しく、うっとりの境地です。

曲がり始めではノーズの軽さを感じます。が同時に安定しているとも感じます。

この両方を同時に感じられるのは奇跡に近いかもしれません。

そして加速はまさに安定。多少乱暴にアクセルを踏んでも全く問題ありません。一般道のような領域では荷重が前に移りきらなくても、トルクベクタリングの働きもありアンダーステアが出るようなこともありません(LSD+トルクベクタリングのないモデルだと若干出ます)。

ブレーキングからカーブ進入、そして脱出。その一連の動作のどこにも引っかかるところがなく、スムーズです。

それでも共通する「安心感」

そうはいっても、両車には共通点があります。それはどっちも「安心感がある」ということ。

片やFF、片やMRと全然違う駆動方式、前後重量バランスはFL5が62.2:37.8、718が44.6:55.4(いずれも車検証上の数値)と全然違うのに、どちらにも安心感があるというところが面白いところ。

先ほど書いたように、FL5で特に安心感があるのは下り坂でのブレーキング。

そして切り始めてからの「そこはかとない安心感」。FF特有のフロントが外へ逃げていくような不安感は皆無です。

一方の718も、ブレーキングから切り始めまで、MR車に特有の「(コマみたいに)曲がりすぎる」ような恐怖感が全くありません。

それぞれの駆動方式(とそこからくる重量バランスの違い)には、特有の不安感を感じさせるポイントがあるのですが、この2台の車はともにそれぞれのやり方で、その不安感を徹底的に消しているように思います。

こうしたネガな部分を徹底的につぶした上で得られる「安心感」をベースに、走る「楽しさ」を構築していく、そんなところが2台の共通点だと感じました。

「比較実験」開始!

流して乗った時の全体的なインプレッションをお伝えしましたが、ここからはもう少し細かく見ていきたいと思います。

フェアレディZ(RZ34)と同じ日に、3台の乗り比べをしてみました(RZ34の記事は別途書きます)。

乗り比べといっても素人が自分の車を順番に乗って同じ場所を走るというだけのものなので、きちんとした実験のようにはなっていません。また速度域も30~50㎞/hくらい、最大横Gは0.7G以下なので、当然のことながら限界域の特性などは全くわかりません。おこちゃまのままごとと思って笑ってやってください。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0
当日は濃い霧に覆われて、時折小雨も降っていました。が、この後霧は晴れて曇り空に。

「実験」概要

  • 日時
    • 2025年9月x日 11:00~16:00
  • 場所
    • 椿ライン(神奈川県道75号湯河原箱根仙石原線)上部
    • 静岡県道20号熱海箱根峠線の箱根ターンパイク~箱根峠区間
  • 天候
    • くもり
  • 気温
    • 27度~29度の間
  • 路面
    • ハーフウェット
  • 比較車
    • ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0←今回の比較
    • ホンダ シビック タイプR(FL5)←今回の比較
    • 日産 フェアレディZ(RZ34)
  • コンディション
    • 比較実験区間に入る前に30分間、ほぼ同じ場所を走った後に乗り比べ(たんに駐車している場所から30分離れている、というだけの話です。笑)
    • 空気圧は指定のとおり
    • 荷物は積まない状態、残燃料はややばらつきあり(半分~3/4くらい)
    • モードは718は「ノーマル」、FL5は「コンフォート」を使用
    • ESP(車両安定化装置)等はノーマル(フルに効かせる)
    • 運転手一人(同一人物。体重70㎏)
    • 普通の運動靴に素手といういで立ち
  • 比較メニュー
    • 1.直進路
      • (1)時速50㎞/hでセンターから数度(~5度)のハンドル操作を行う
    • 2.コーナリング
      • (1)時速50㎞/hで長いコーナーを一定の舵角で走り抜ける
      • (2)時速50㎞/hで長いコーナーを一定の舵角で走り抜ける際に不整路面を通過する
      • (3)時速30㎞/h~50㎞/h(コーナーによって異なる)で様々な曲率のカーブを走り抜ける
      • (4)コーナリング時に急ブレーキ→急アクセルで走り抜ける(シフトダウンも伴う)
      • (5)コーナリング時に15度程度クイックな「切り増し」を行う
      • (6)S字カーブを一定速で走り抜ける
ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0

718の身のこなしは?

一言で表すと、「もう何もコメントはございません」という感じでした。細かく試してみて改めてこの車のすごさがわかるというものです。

  • 1.直進路
    • (1)時速50㎞/hでセンターから数度(~5度)のハンドル操作を行う
      • センター付近のステアリングのアソビは「ほぼなし」
      • ステアリングから反力がすぐに立ち上がってくる
      • 車はステアリング操作に対して「即座に反応」。しかし動き始めは「動いているけど穏やか」に感じる
      • 路面インフォメーションはステアリングを通してかなり鮮やかに伝えてくる
      • セルフアライニングトルク(まっすぐに戻ろうとする力)は強め
  • 2.コーナリング
    • (1)時速50㎞/hで長いコーナーを一定の舵角で走り抜ける
      • ステアリングの操作フィールは重くもなく軽くもない
      • 車の曲がり始めに一瞬曲がり始めの合図のような手ごたえを鮮明に感じる
      • ステアリングの操舵反力は一定
      • ロールは少なく、内輪にも荷重が残る感覚が強い
    • (2)時速50㎞/hで長いコーナーを一定の舵角で走り抜ける際に不整路面を通過する
      • 路面の荒れはステアリングを通して伝わってくるが、ステアリングの操舵反力に変化は見られない
      • 舵角の変化は見られず、修正舵が必要になることはほぼない
      • 路面の荒れはサスペンションが「いなし」、乗り心地は比較的穏やか
    • (3)時速30㎞/h~50㎞/h(コーナーによって異なる)で様々な曲率のカーブを走り抜ける
      • ステアリング操作~予知動作(ステアリングの手ごたえ等)~ヨーの立ち上がり~前輪のロールの立ち上がり~後輪のロールの立ち上がりの動きが常に一定のリズムで起こる
      • 中速 vs 低速、上り坂 vs 下り坂、減速中 vs 惰性 vs 加速中などのバリエーションを試してみても、回転の中心が常に一定の範囲に収まっているように感じられる。そのため、どのカーブも同じように曲がれる
    • (4)コーナリング時に急ブレーキ→急アクセルで走り抜ける
      • ブレーキングと同時に車全体が沈み込む感じ。ノーズダイブは極小
      • ブレーキは踏力でコントロールできる
      • 短いストロークでブレーキが効き始めるため、素早い減速が行える
      • エンジンの回転落ちは速く、シフトダウンを伴うブレーキング中に回転が落ちている
      • ブレーキを一気に離しても姿勢が変わらない
      • アクセルレスポンスは良く、かつアクセル開度はアクセルの踏み込み量に対してリニアに感じる
      • アクセルを強めに踏んでも姿勢が変わらない
      • アクセルを急に離しても姿勢が変わらない
      • アクセルを徐々に踏み増すとフロントがイン側に入っていくような動きがみられる
    • (5)コーナリング時に15度程度クイックな「切り増し」を行う
      • 瞬時にノーズがイン側に入る
      • 内輪側に車が「倒れる」(内輪に荷重が乗る)ような印象になる
      • 揺り戻しはなく、舵角は一定のままコーナー脱出可能。その際、内輪がリードして車を引っ張るような感覚が強い
    • (6)S字カーブを一定速で走り抜ける
      • カーブから次のカーブに至るまで、車の動きがなめらか(いわゆる「一筆書き」のよう)。S字の切り返し(ゼロクロス)時点で車はきれいに静止しているよう
      • ステアリングの手ごたえは常に一定

全体的に「動きが速いのになめらか」で、どのような入力(急ハンドル、急ブレーキとブレーキオフ、急アクセルとアクセルオフ)でも姿勢の変化が非常に小さい、という点が印象的です。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0

FL5の身のこなしは?

718に対するFL5の身のこなしは?

さすがに分が悪いかと思いきや、そんなことはナシ。こちらはより「体温低め」で攻めてきます。

  • 1.直進路
    • (1)時速50㎞/hでセンターから数度(~5度)のハンドル操作を行う
      • センター付近のステアリングのアソビは718同様、「ほぼなし」
      • ステアリングはセンター付近でもすでに「重く」、ステアリングを切った時に反力の変化が伝わってきにくい。そのため、車の動き始めがステアリングからは伝わってこない
      • 車はステアリング操作に対して若干のタメを持ちつつ反応。ステアリングの「重さ」も相まって重厚感や安定感を感じさせる
      • 路面インフォメーションはほぼ遮断され、伝わってこない
      • セルフアライニングトルク(まっすぐに戻ろうとする力)は強くはないが感じる
  • 2.コーナリング
    • (1)時速50㎞/hで長いコーナーを一定の舵角で走り抜ける
      • ステアリングの操作フィールは重い。時速30㎞/hを超えるあたりからは明確に重く、一番軽い「Comfort」でも718よりは重め
      • ステアリングの操舵反力は一定
      • ロールは少なく、718ほどではないが内輪にも荷重が残る感覚はある
      • 全体的に安定感の鬼のように姿勢が安定している
    • (2)時速50㎞/hで長いコーナーを一定の舵角で走り抜ける際に不整路面を通過する
      • 路面の荒れはEPS(電動パワーステアリング)側で遮断していてあまり伝わってこない。ステアリングの操舵反力に変化は見られない
      • 舵角の変化は見られず、修正舵が必要になることはほぼない
      • 路面の荒れにサスペンションが律儀に追従し、上屋の上下動は激しい。胃袋が揺すられ、体調の悪い時や食後は「乗りたくない」と感じる
    • (3)時速30㎞/h~50㎞/h(コーナーによって異なる)で様々な曲率のカーブを走り抜ける
      • ステアリング操作~ヨーの立ち上がり~前輪のロールの立ち上がり~後輪のロールの立ち上がりの動きはスムーズ。718ほどの軽快感はないが盤石のテンポの良さで曲がり出す。
      • 中速 vs 低速、上り坂 vs 下り坂、減速中 vs 惰性 vs 加速中などのバリエーションを試してみても、回転の中心が常に一定に感じられる点は718と似ている。
    • (4)コーナリング時に急ブレーキ→急アクセルで走り抜ける
      • ブレーキングと同時に車全体が沈み込む感じ。荷重の前後移動は718よりは感じやすい
      • ブレーキは踏力でコントロールできる。718よりは手前で嚙み始める印象
      • 短いストロークでブレーキが効き始めるため、素早い減速が行える
      • エンジンの回転落ちは速く、シフトダウンを伴うブレーキング中に回転が落ちている
      • ブレーキを一気に離しても姿勢が変わらない
      • アクセルレスポンスはターボのわりに良い
      • 上り坂のアクセル踏み込み時に、若干「咳き込む」時があるように感じられる
      • アクセルを強めに踏んでも、急に離しても姿勢が変わらない点は718と似ている
      • アクセルを徐々に踏み増した時にイン側に入るような感覚は薄いが、外に膨れ上がる感覚もない
    • (5)コーナリング時に15度程度クイックな「切り増し」を行う
      • 瞬時にノーズがイン側に入る
      • 718と同様、内輪側に車が「倒れる」ような印象
      • 揺り戻しはなく、舵角は一定のままコーナー脱出可能。「内輪に乗る」ような感覚は718ほどは感じられないが、それでも内輪がべたっと接地している感覚はある
    • (6)S字カーブを一定速で走り抜ける
      • カーブから次のカーブに至るまで、車の動きがなめらか。S字の切り返し(ゼロクロス)時点で車はきれいに静止しているようなのも718と同じ感覚。
      • ステアリングの手ごたえは常に一定

こちらも、718ほどの速さ(軽さとも感じられる)はないものの、動きは滑らかで破綻がない点はとても似ています。ステアリングからの情報量が少なめなのも印象的な点。

ホンダ シビック タイプR(FL5)

718の「美味しさ」はどこから来るのか?(勝手な考察)

提灯記事でも書いているんじゃないかという感じですが、718はやっぱり「美味しい」。

なんでこんなにおいしいのか、考えてみました。

「718の8つの美味しさ」としてまとめました。8つって多すぎるよね!と思うのですが、どれを外してもなんか違う感じだったので全部盛にしました。

美味しさその1:素材の味が生きている!

やっぱり素材が良いと料理もおいしい。シンプルですが、やっぱり718にはそう感じさせるものがあります。

ミッドシップらしさを生かした、という点では2つ触れておきたいと思います。

慣性モーメントの小ささを生かしたクイックなハンドリング

誰でもすぐわかるのがこれ。ハンドルをちょっと回すと車が即座に反応して曲がりだします。

良く「鼻先が軽い」とか言いますが、人間が車のフロントセクションを持ち上げているわけではないので、基本的には人間が直接「車の鼻先の重さ」を測っているわけではありません。

じゃあ何で「軽い」と感じるのかというと、入力に対する反応の速さによって「軽い・重い」といった感覚を再構成しているんだと思います(違うかもしれませんが。。。)

718が「軽快」に感じられるのはこの反応の「速さ」があるからだと思います。

重心移動の穏やかさを生かした「いつも同じ」コーナリング

ミッドシップの特徴は重量物が中心近くに寄っていること。そのためフルブレーキングやフル加速での重心の移動が穏やかです。

この特性は、私のような一般ドライバーからすると、「どんなに下手な運転をしても、コーナリングが安定しているように感じられる」という感覚に結び付くように思います。

実際、フルブレーキングをして重心が前にある時のコーナリング、逆にアクセルをガンと踏んでからのコーナリング脱出、などいろいろ試してみても、いつも回転の中心が同じところにあるように感じられます。

ポルシェ 718ボクスターの透視図
718の透視図(公式プレスより)。エンジン座席直後にあり、その後ろにトランスミッションが縦置きされていることがわかります。

ミッドシップにしたら勝手にこんなにおいしくなるわけではないとは思っているのですが、ミッドシップでなければこの感覚は得られにくいのもたぶん事実。

正直言ってこのコーナリングの動きを味わってしまうと、「なんかずるい。そりゃミッドシップにしたらそうなるじゃん!」と言いたくなってしまうようなところがあります。

やっぱりミッドシップの魅力には抗えない、スポーツカーのうち一台はミッドシップの車を持っていたい、と思ってしまいます。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0

美味しさその2:打てば響く!

車から剛性感が伝わってきて、しかも入力にすぐに車から返ってくる感じ。しかもスムーズ。なんだか提灯記事みたいですが、本当にそうとしか言いようがありません。

なぜなんでしょうか?

オープンを感じさせない剛性感

ご存じの通り、ボクスターはオープンカー。

一番の問題は屋根がないことにより剛性確保が難しいこと(動的ねじれ剛性なども同一車種の屋根付きの車(例:ボクスターに対するケイマン)に比べると半分以下)。もともとミッドシップレイアウトのためシートの後ろにバルクヘッドが来るなど、「オープンカーにしては」剛性確保はしやすいようですが、それでも屋根がないことは剛性確保という観点では致命的みたい。

(とはいっても、剛性が低い=走りが悪いというわけではないようです。)

ポルシェ ボクスター(981)のホワイトボディ透視図
いつもの通りプラットフォームの図解は981のものを使っています(これが現行モデルの元になっている)。座席の後ろに隔壁をいれられるため剛性は確保しやすいようです。

それを打ち消すためのクルマ造りがされているように思います。

それは、

フロアで剛性を稼げなくても、タイヤからステアリングまでの剛性を、支持剛性含めて突き詰める

ではないかと。

私は専門家ではないのでよくわからないのですが、718から感じる剛性感はきっとこうした部分の積み重ね(バランスも含めて)で作られているんじゃないかなぁと思います。

  • 稼げないフロア剛性を、ハブ~ステアリングなどの各部の剛性で補う
    • タイヤからハブ~サブフレーム~ラック~ステアリングといった各部の剛性を高めている
      • タイヤのトレッド剛性、ウォール剛性
      • ホイール締結部の面剛性
      • 大きい鍛造ハブキャリア(911と同じ)
      • サスペンション支持部の剛性強化やメンバー追加
      • ステアリングシャフト剛性
      • ギアボックス取り付け剛性
      • etc…

タイヤからステアリングに至る部分の剛性を上げて「剛結感」を出すことで、ドライバーの入力操作に対して遅れのない車の動きを引き出しているようです。

ひいては、ドライバーに「がっちりした車だな」という印象を与えることにもなっていると思います。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0のホイール締結部
718のホイール締結部。5本のボルト締め(M14)、P.C.D.が130㎜と大きめなのがポルシェの特徴。締め付けトルクは160Nm。P.C.D.の広さは昔からの名残かもしれませんが、こうして面剛性を確保してきたのだと思います。
ポルシェ 718ボクスターのシャシー
718のシャシー。ほとんどアルミ合金で作られている。タイヤからステアリングまでの経路の剛性に非常に気を配っているようです。

アソビ・フリクションの少なさ

もう一つはアソビが少ないことによる「遅れのなさ」と、初期フリクションが少ないことにより「スッ」と動き始める感覚が得られること。

アソビ(柔軟性=サスペンションコンプライアンスを含みますがここでは部品のたわみやブッシュなども含んで使っています)は車には必要で、これが少ないと「ガチガチ」に硬く感じられ、一般的には乗っていて苦痛になります。かといって柔軟性ばかりだと、入力に対して応答遅れや想定外の動きが発生して、「ダイレクト感がない」とか「なんかおかしいんじゃない?」といった感覚になります。

ポルシェの場合、こんな感じで作っていそうに思います。

  • 動かしていけないものは徹底的に動かさない(部品のたわみなどがあると困るところは鍛造アルミニウム合金を多用)
  • 可動部の動きも最小限にする
    • 乗り心地との両立が必要な場合は、電子制御を活用して妥協点を引き上げる(動かしていい時は動かし、動かしたくない時は動かさない)
  • 動き出し(初期)のフリクションは最小化する

たとえば、、、

    • リジッドに近くなるエンジンマウント(PADM=ポルシェ・アクティブ・ドライブトレイン・マウント)
    • 硬めの方向性ブッシュ(ある方向だけ硬くして動かさない、みたいな弾性が入力方向によって異なるブッシュ)
    • 初期フリクションの少ない電子制御ダンパー
    • ・・・などなど
PADM(ポルシェアクティブドライブトレインマウント)。ポルシェホームページより
PADMの模式図

このように、柔軟性は少なくしつつ、初期フリクションを減らすことに余念がありません。

(とはいえ、後に見るように、柔軟性が少ない=ガチガチ、ではないところがポルシェのすごいところです)

結果として、下記のような効果が表れているように思います。

  • 微小な操舵でも車が遅れなく「スッ」動くため、「粘ってからドン」というような動きが出にくい
  • 車がスッと動き出すため、すっきりした感じがする
  • たわみによる遅れや雑味がないため、「ダイレクト感」があるように感じる。また、車からのフィードバックが鮮明になる

こんな特性が組み合わさって、S字カーブを一筆書きのように走り抜ける、というような快感が生まれているのではないかな、と思います。

意のままに、とよく言われるポルシェの乗り味ですが、分解してみるとこんな感じではないかと。でも、そのためにはものすごい工夫(とコスト)が必要なんですね。。。

美味しさその3:速いのに安定!

美味しさその1で書いたように、クルマ自体の反応はクイック。

なのに、もう一つ特徴があります!

そう、

怖くない!!

え、なんか矛盾している!?

提灯記事がもう一つできてしまうくらい、なんか適当なことをいっているような感じ。

でも、ちゃんと理由がありそうです。

それには3つくらい効いている要素がありそう。

センターのギア比が穏やかなステアリング

ステアリングは可変ギアレシオを採用。ステアリングセンター付近のギアレシオはクイックではありません。(15.0:1)

車の反応がクイックで動きの量も大きいと、ドライバーにとっては「怖い」と感じるもの。

そのあたり、718はスポーツカーらしくセンター付近の動きが穏やかに感じられるよう、ギア比を穏やかにしています。

718の場合、ステアリング入力に対して、

1.すぐにステアリングの手ごたえが増す(ドライバーに次の動きを知らせる合図)

2.車はすぐに反応し始める(ミッドシップの利点を生かした速い反応)

3.その時に車の動きが「穏やか」なので怖くないと感じる

という感じで、「速いのに怖くない」を実現していると思います。

コーナリング時のリアの安定感とロールの少なさ

もう一つはコーナリング姿勢。外から見てもとてもきれいな(端正な)コーナリングをしますが、乗ってみてもそれは実感します。際立つのはリアの安定感とロールの少なさ。

  • ロールセンター(ロールをするときの仮想の回転軸)と重心との距離(ロールモーメントアーム)などを緻密に設計し、リアを安定させ、かつ不快なロールが起きにくくする

リアはストラット式サスペンションです。一般的には設計の自由度の関係からロールセンターが低くなってしまい、結果として重心との距離が長くなってしまいやすいと言われています(ロールモーメントアームが長い)。そうすると車は盛大にロールする、という動きになりやすい。

718の場合は、ストラット式サスペンションの取り付け部をできるだけ高くすることでロールセンターを上げ、一方で水平対向エンジンの重心の低さを利用して(オイル供給方式もセミドライサンプ式のためオイルパンの厚さを小さくでき、搭載位置も低くできる)重心を下げる、この2つによりロールモーメントアームを極力小さくしているのだろうと思います。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0のリアサスペンション
718のリアサスペンション。取り付け部はホイールハウスよりさらに上。
ポルシェの水平対向エンジン(982evo)
ポルシェの水平対向エンジン(982evo)。エンジンは非常に平べったいことがわかります。

こうした様々な工夫で、リアセクションが外力に対して動きにくくすることで、安定感、もう少し具体的には「リアがどっしりしていてロールが少ないな」、という感覚に結び付く乗り味を作っているのだろうと思います。

姿勢変化の最大活用(エラストキネマティック)

そもそものロールの少なさに加えて、ブレーキング時やコーナリング時には「魔法にかかったか?」と思えるような姿勢の安定を覚えます。

これは、たぶんサスペンションのジオメトリー変化を使った設計(エラストキネマティック)が完璧だから。

実際に体感できるのは下記のような動きです。

  • ブレーキング時に安定したような感じ
  • 横Gがかかった時に穏やかに内側に向かっていくような感じ

どうしてこんな風になるのでしょうか?

一つずつ見ていきましょう。

  • ブレーキング時に安定したような感じ

リアサスペンションにおいて、サスペンションアーム類の長さの違い(トーコントロールリンク、長さ350㎜とラテラルリンク、長さ330㎜。前者はアルミ鍛造、後者はアルミ鋳造)を利用して、外力に対して自然にリアタイヤがトーイン方向になるようにして、車両の動きを安定化させているようです。

ポルシェボクスター(981)のリアサスペンション
写真は981のリアサスペンション。④トーコントロールリンクと⑤ラテラルリンクの長さが違うことで、ブレーキング時にトーインに向くようになっている

これに加えて、いわゆるある程度のアンチダイブジオメトリーによって「つんのめり」を防いでいると思われます(981、991型になって「強めている」ようです)。

  • 横Gがかかった時に穏やかに内側に向かっていくような感じ

まず初期応答の良さはフロントサスペンションが縮んだ時(バンプ時とブレーキング時)にサスペンションのジオメトリー変化によって若干トーアウトになるため(10㎜バンプすると10分程度らしい)。

外側のタイヤが外に行こうとすると(外側を蹴る)と、その反作用で車が内側に向かうため、すっと車が内側を向きます(子供が左側に行こうとすると、体を右側に傾けて子供を引き戻そうとするのと同じですね。)

次に旋回。

キャンバー角を若干きつめにつけておいた上で(外から見てもしっかりついていることがわかると思います)、キャスター角を大きくとっていることで、コーナリング時にサスペンションのジオメトリー変化(ネガティブキャンバーが増大)によって外輪の内側と外側が均等に接地するようになる。

上記に加えてLSDとトルクベクタリング、電子制御ダンパーもつかうことで内輪に荷重が残り、内輪が引っ張っていってくれるようなコーナリング感覚になっているのだと思います。

要はサスペンションの設計と制御によって内輪をしっかり使えるようにしてあげる、ということですね。

そして、曲がり始めれば先ほどのフロントのバンプ時トーアウトによって弱アンダーが続くため「曲がりすぎて怖い」感覚がない。

―――ということで、完璧な計算で安定したコーナリングをしてくれるのでした。

美味しさその4:ストーリーが完璧!

もうお腹いっぱい!?ですよね。。。でもまだあるんだから仕方ありません。

それは、ストーリーが完璧!だということ。

もう何のことかわからない、と思われるかもしれませんが、これは例えるなら、料理が出てくる順番とタイミングが完璧、ということです。

コーナリングをするとき、だいたい下記の順番で進みます。

  • ドライバーがハンドルを切りはじめる
  • 車が「操舵反力」としてステアリングに手ごたえを返す(車から「合図」が返ってくる)
  • 車が向きを変えだす(曲がりだす=ヨーモーメントが発生する)
  • 車のフロントセクションが左右に傾きだす(フロントのロール)
  • 車のリアセクションが左右に傾きだす(リアのロール)

この順番が逆だったり、テンポがばらばらだったりするとおいしい料理も台無しです。

あれー、肉料理の後に魚?(まぁこれはこれでいいような)

えー、魚食べてる途中なのにもう肉が出てきちゃったの-?

えー、さっきスープ飲んだ後30分経ってるけど、どうなっちゃったのー?

―――というのと同じで、車のコーナリングにも順序とか秩序というものがあります。

ステアリング入力に対して遅れがあと、うわっとヨーが発生したり、フロントがロールを始めたのにリアが粘って、遅れて「ドン」とロールしたり。。。

最近の車ではほとんどなくなりましたが、それでも違いは出ます。

718は、やっぱりすごい。

  • 車の動きの「位相合わせ」が完璧
    • ステアリング操作の入力に対して、EPSの反力→ヨーの立ち上がり→フロントのロール立ち上がり、リアのロール立ち上がりの動きが短い時間に、かつどんな状況でも常に同じリズムで立ち上がる

乗っていていつも感じるのは、ステアリング操作から実際に車が曲がるまでの動作が流れるようで、怖さが一つもないことです。そしてどんな時でも同じテンポで動いていくことです。実走テストを繰り返して、どの順番・タイミングで車が動くとドライバーが安心できるか、徹底的に煮詰めている感じがします。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0
718のフロントセクション。ここにいろんな工夫が施され、楽しいとしか言いようのないハンドリングを実現しています

美味しさその5:ライブ感がある!

先ほど車と料理を比べてみましたが、車には料理と違う面もあります。

それは、ドライバーは車の動きを間接的にしか捉えられない、ということです。

料理だったら鼻で香りを嗅ぎ、目で楽しみ、舌で味わう、というように楽しむことができますが、車の場合、室内からの限られた視覚とシート・ステアリングホイール・ペダル類からくる振動(一応音と臭いもありますが)―――といった、車との限られた接点からしか車の動きを感じ取ることができません。

なので、こうした限られた接点からどれくらい「ライブ感」を出すか、というのはけっこう重要です。ライブ感がありすぎると疲れてしまう、という点もあり、そこをどうするか、というのは設計において重要そうです。

具体的には、ステアリングホイールに伝わってくる感触が「生々しい」。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0のステアリングホイール

今のパワーステアリングは電動(EPS)なので、この辺りの味付けはどうにでもなるところもあるのでしょうが(近年はリバウンドスプリングを入れたりして振動を「殺す」方向が主流みたいです)、718が良いのは、いい感じに素材を吟味して生の手ごたえ感を出していることです。

  • 「手ごたえ感」が素晴らしい
    • キャスター角が大きく(9度くらい?)、キングピン軸の傾き、キングピンオフセットもそこそこある
ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0のキャスター角
ちょっとわかりにくいですが、タイヤが上の方が外に倒れているような感じがわかりますか?

ポルシェは昔からフロントサスペンションのキャスター角が大きいことは有名です。

キャスター角が大きいと車が曲がろうとするときに(車体がちょっと浮き上がるようになる軌跡になるため)抵抗ができ、元に戻ろうとする力も大きくなるため直進安定性が増す、というのが大きなメリットです(スピンしそうになった時などに車が「自分で戻る」動きも強くなるので、安心感にもつながります)。

(先ほど書いた通り、キャスター角を大きくすることで転舵時のキャンバー変化量を増大させ、タイヤの接地性を高めてコーナリングを安定化する、という効果もあるようです)

・・・ということは、、、

  • (戻ろうとする力が大きくなるため)路面からの反力が大きくなり、結果としてステアリングに戻る情報量が増える(手ごたえ感が増す)

といったメリットもあるのですね。

さらに、先ほどのキングピン軸の傾き、キングピンオフセットを適度に持たせることで、

  • ジャッキアップトルク(ステアリング操作に対して車が若干持ち上がる動作)も鮮明に出てきて特にハンドル切り始めの手ごたえ感UPにつながる

といったメリットもあります。

一言でいうと、「生々しい手ごたえがビンビンに伝わってくる」。

でもって、この微小な手ごたえが車が曲がりだす合図にもなっているのですね。

電動化すると人間へのフィードバックも電子的に増幅したり、ということもできてくるわけですが、ポルシェはあくまでも、サスペンションのジオメトリーとかそういった構造設計の段階でこうした手ごたえを出しているように思います。

もしかしたらリアエンジン搭載車をまっすぐ走らせるための工夫の副産物なだけなのかもしれませんが、やっぱりこの辺りの作りこみのすごさにも脱帽です。

美味しさその6:黒子の制御がまた良い!

制御は料理で言ったら、、、わからなくなってきました。

ともかく今の車には車がちゃんと走るための制御が盛りだくさんです。法規の関係もあり、どんどん車は制御で動く(!)時代になっています。

ポルシェだって例外ではありません。

が、ポルシェの制御は「あくまでもドライバーの操作が主役、制御は黒子」という感じです。

アナログな操作感を損なわない程度に介入しています。

  • EPS(電動パワーステアリング)
    • 余計なことをしない。路面から伝わる情報をあまりフィルターせずに伝える
    • アシストのしかたもシンプル。低速域でもアシスト量が不当に増えることがなく、基本的に「ナチュラル」志向
    • 一方で反力(≒手ごたえ感)に大きなムラがでないように制御マッピングはかなり緻密。「崖」がないように配慮
    • 路面からのキックバックのフィルタリングなども基本はなくてスルーする。そのためノイズも含めて路面の情報はステアリングに返ってくる
    • スタビリティマネジメントなどの電子制御が介入した時にEPSなどとも協調してドライバーに確実に伝える

個人的に好きなのはこのEPSのセッティング。基本的に出しゃばらないところが素晴らしく、必要最低限のアシストしかしません。フィードバック量も多く、路面の荒れなどの情報も克明に入ってきます。

情報過多なので、楽に運転したいと思っている時には迷惑なのかもしれませんが、私はすごく好きです。

  • LSDとトルクベクタリング(PTV)
    • なにも入っていないような自然な制御感(ないグレードと比較すると違いが判る)

この辺りの制御も、介入はかなり緻密に、連続的に行われています。人間は「変化」に敏感なので、作動が急だとすぐにわかってしまい、違和感につながります。

ポルシェは制御で「崖」を作らないことをすごく丁寧にやっている感じで(逆に危ないと知らせるときにはわざと「崖」を作っている)、ドライバーによる一連の操作に水を差さないように仕事をしてくれている、そんな感覚があります。

美味しさその7:減速・加速も自由自在!

コーナリングに華を添えるのは減速と加速のしかた。そう、具体的にはブレーキとアクセルです。

減速時のブレーキはフィーリングも制動力も素晴らしいです。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0のフロントブレーキ
  • ブレーキは踏力でコントロールできるタイプ
  • ストロークは短くて済む
  • 制動力の立ち上がりは初期の噛みはそこまで大きくなく、踏力に応じてリニアに増えていく感じ

ストローク量ではなく踏力でブレーキをコントロールできるのは、やっぱり気持ち良いです。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0のペダル類

ボールを蹴ることを考えても、人間は力をコントロールすることはできても、3センチだけ動かす、など距離(ストローク)をコントロールすることは難しいものです。

ブレーキも同様で、踏力の方が微細なコントロールがしやすいようです。

実際にブレーキを踏んでみると非常にうまいことコントロールできます。さらにストローク量が絶対的に短くて済むため、思った通りの速さで減速できます。

そして、ブレーキをわざとガバッと離してみても姿勢は変わらず。

そう、シフトダウンを伴う減速中にエンジンの方もしっかり回転が落ちるので、ちょっとブレーキを踏んですぐに離す、ようなときにもつっかえ棒がとれたようにガバッと前に進むようなこともありません。

そして加速に入ります。ここでも車は思い通りに動きます。

  • 「ガバッ」とスイッチオンするような感覚がなく加速が非常にスムーズで、微小なアクセル操作に「ついてくる」感覚
  • おそらくベースとして吸気・排気抵抗が少なく「つまり感」がない

アクセルを踏んだ時に思った以上に加速したりすることがなく「スッ」と加速するため、とてもスムーズ。

こんなところにも気持ち良さが詰まっているのでした。

美味しさその8:「乗り心地」もいい!

最後は、乗り心地。718に乗ってていつも感心するのは、こうしたワインディングで走っていても、「頑張ってる感」がなくリラックスして走れることです。

ここでもいろんな工夫で、リラックスできる走りを作り出していると思います。

  • 素性を生かす
    • エンジンが前にないため前輪の支持荷重が少なくて済む
    • →フロントサスペンションを固めなくて済む
  • いなしを生かす
    • 電子制御ダンパーを使ってダンパーの動きを可変制御
      • 若干縮み側を抜くチューニングで乗り心地を取りに行く
      • 上記チューニングで上屋の上下動を減らす
        • →目線の上下動が少なくなる
    • 可変エンジンマウント(前述)で、エンジンマウントの硬さを可変制御
      • 一般走行時はエンジンマウントを若干緩めにして乗り心地を担保

などなど。ある意味変態的なまでに乗り心地に対しても配慮されています。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0のリアダンパー
写真がへたですみません。隙間が少ないもので。。。リアサスペンション。サスペンションコイルの中にいるのがモノチューブ型の電子制御ダンパー(たぶんビルシュタイン)。取り付け部(アッパーマウント)に電子制御のユニットが入っています。

リラックスして走れる、ってじつはすごく大事だと思います。

普通に流している時には楽しさにつながりますし、サーキットみたいなところでは心の余裕につながります。

なんだかんだ言って718のコーナリングが一言で言って「楽しい」のはこうしてリラックスして走れるからなんじゃないかなぁと思ったりします。

まとめ

コーナリングひとつとっても、個人的に718はかなり「理想的」です。

車の動きが素直で予測可能なので、安心してコーナーに入り込め、脱出できる。多少乱暴な動作をしても車はまったく急な動きをしない。そして望外な乗り心地と相まってリラックスできる。

たったこれだけのことなのに、ほんとにいろんなものがすべて正確で、ちゃんと調和しているからこそ実現できているんだろうなぁ、と感心するのでした。

それもこれも、718がミッドシップレイアウトを取っていることがすべての出発点のような気がします。どんな味付けをしても肉体のつくりからして違う―――正統派のサラブレッドであることは隠しようもない事実なのでした。

FL5の「美味しさ」はどこから来るのか?(勝手な考察)

718がパーフェクトに美味しかったので、「下町ファイター」たるFL5は分が悪いんじゃ?!と思うところですが、結論から言うと、FL5も「美味しい!」。

なぁんだ、じゃあ比較する意味ないじゃん!というところですが、美味しさはやっぱりちょっと違うように感じられるので、そこを解き明かしていきたいと思います。

美味しさその1:料理が凝っている!

718がミッドシップという素材の美味しさにあふれているとするならば、FL5はFFの「走りのネガ」を料理で徹底的につぶしつつ、比較的ありふれた食材(FF)を料理の腕で超一流の味に仕立てているという感じがします。

フロントヘビーを感じさせないリアの安定

先ほども書きましたが、この車は下り坂でフルブレーキングしても全然怖くない。

今回のような30㎞/h~50㎞/hからのブレーキングぐらいでは現代の車はどうってことはないのは事実ですが、この車はスピードを上げてからフルブレーキングしても同じ。

最近のFF車では常識なのかもしれませんが、とにかくリアサスペンションが伸びあがらない。

たぶんフロントのスタビライザーが太くてロール剛性が高く、リアの特に内輪が伸びあがるのを防いでいるんだろうと思います。

もう一つ、大きな役割を果たしていそうなのが電子制御ダンパー。縦・横Gの検知と同時に瞬時に4輪個別に減衰力を調整する―――特にリア(特に内輪)の伸び側やフロント(特に外輪)の縮み側の減衰力を上げる―――ことで荷重変化を穏やかにし、姿勢を安定化するのに大きく寄与しているのだと思います。

たぶんタイプRにとってこの電子制御ダンパーはこの「安心感」のためのマストアイテムだと思います。

ちなみに、FL5ではバネ上に3か所、バネ下に4か所センサーを設置してモニタリングしているみたいです(FK8についてしか説明が見当たらなかったので、おそらくキャリオーバーと想像しています)。

ホンダ シビック タイプR(FK8)の電子制御ダンパーシステム構成図
FK8における電子制御ダンパーシステム構成図(技術プレス資料から引用。以下同)

そして最後に(これも納車直後のインプレッションで触れています)、ブッシュを使ったリアの安定化。

フロントのヨーが発生した時にリアのブッシュの弾性を利用してスリップ角を作り、回転を素早く止める、というもの。

Vol.3 実はリアタイヤもちょっとだけ「切れて」いる?(本田技研工業)

さすがにFF車のパイオニアであるホンダらしく、乗ってみても「何だこりゃすごい!」という驚きに満ちているのでした。

曲がりやすい、けど穏やか

びっくりするのはフロントヘビーとは思えないノーズの入り。

拍子抜けするくらいすっと車が内側を向いていきます。

そして、ポルシェと同様フロント内輪にしっかりと荷重が残る感覚があります。

この荷重移動は確実に行う。でも急にならないよう先ほどの電子制御ダンパーを使って穏やかに調律。

そして準備が整ったところでトルクベクタリング(ホンダではアジャイルハンドリングアシスト)が内輪のブレーキをひとつまみして曲がるきっかけを作る。そんな流れなんだろうと思います。

曲がりだすときは、718と同様に「穏やか」。

タイプRも可変ギアレシオを使っていますが、ベース車に比べてギア比は大きめ(スロー)。

やはり超高速での利用も考慮して、きびきび感よりも安定感を重視しているのだと思います。

この動き出しの穏やかさが大きな安心感を生んでいると思います。

ちなみに、ホンダはS2000で世界で初めて車速に応じてギア比を可変制御する機構を量産化するなど、バリアブルギアレシオの可能性に早くから着目してきたメーカーみたいです。

VGS(車速応動可変ギアレシオシステム)のテクノロジー

そして、曲がりだすとやっぱり718と同様、内輪がべったり接地している感じがします。

これは次に見ていくデュアルアクシス・ストラット・サスペンションのおかげっぽい。

・・・ということで次に行きます。

技術でじゃじゃ馬を馴らす、マニアックな加速

FF車の一番の鬼門は加速。

それがあるからこそ、シビックタイプRは車のできるだけ多くの部分をシビックと共用する一方で、フロントサスペンションだけは専用設計・専用ラインにせざるを得ないのだと思います。タイヤだってやっぱり専用開発の一番の肝は「加速時のグリップ力確保」みたいです。

ホンダ シビック タイプR(FL5)のフロントタイヤ
この太いフロントタイヤ(265 / 30 R19)。ミシュラン パイロットスポーツ 4Sですが、もちろんFF車用に専用設計されています。
ホンダ シビック タイプR(FL5)のタイヤ性能説明図
FL5のタイヤ構造に関する説明

2世代前からシビック タイプRには専用のデュアルアクシス・ストラット・フロントサスペンションを採用しています。

デュアルアクシスストラットサスペンション|テクノロジー

ホンダ シビック タイプR(FL5)のサスペンション説明図

実際に乗ってみるとどうか?

FFスポーツを乗り継いできた方からするとどうやら「こんなにじゃじゃ馬を制御するようになったのね!」というレベルみたいです。

そういう車に乗ったことがない私のような人間には、「やっぱり制御するのは大変なんだろうなぁ」と思えます。

まぁ、それだけFFスポーツカーにとっては、このトルクステアは「ハイパワーの証」みたいなもので、これを乗りこなしてこそ、というものです。

とにかく、トラクションコントロールも含めて電子制御もフル稼働しながらじゃじゃ馬を馴らしている感覚が伝わってきて、これはこれで面白い!(一生懸命なくそうとしている開発者の方には申し訳ないですが。。。)

・・・ということで、技術の結晶でトルクステアはかなり減ったらしいが、やっぱり残っているのでこれが嫌いな人はFFスポーツは無理だろう。でも、これをねじ伏せて乗る、あるいは発生させないよう乗りこなすことに悦びを感じる人は確実にいるだろうな!と思ったのでした。

美味しさその2:安定感のかたまり!

この車でコーナリングに入ると、異様なくらい安定している感覚に包まれます。

実際に、神経質な動きは皆無です。

剛性感のかたまりのボディ

乗っていてびっくりするのはフロア剛性がすごく高そうなこと。かなり荒れた路面を通り抜けても、まったくといっていいほど何も起こりません。ミシリとかワナワナとか、そういうのはもちろんないですし、振動が残るような感覚も皆無。

構造用接着剤が車に使われるようになってから、ボディからくる振動は本当に少なくなった気がします。

こうしたノイズが減ると、人間は「剛性のある車だな」と感じやすいので、そういった心理的な効果もあるんだろうと思います。

とにかく、「すごい」!

この「強固なボディ」が無類の安定感の土台になっているように思います。

ホンダ シビック タイプR(FL5)のボディ構造図
FL5のボディ構造図(オフィシャルサイトから)

ワイドトレッドとロングホイールベースも効いていそう

この車のトレッドは前1625㎜ / 後1615㎜、ホイールベースは2730㎜あります。

718 GTSは前1525㎜ / 後1535㎜、ホイールベースは2475㎜。

比較するとトレッドは前 +100㎜ / 後 +80㎜、ホイールベースも+265㎜と全然違う。

やっぱりこのトレッドの違いがあると安定感はかなり違いが感じられます。

ホンダ シビック タイプR(FL5)
めちゃくちゃワイドなフロント
ホンダ シビック タイプR(FL5)
リアはそれほどでも?と思ったら、このド迫力!

ホイールベースの長さも安定感にはかなり効いていると思います(というか、本当は順序は逆でホイールベースを長くしたからトレッドを広げられる)。

ホンダ シビック タイプR(FL5)
ホイールベースは2730㎜!

そんなこんなで、FL5はベース車がファミリーカーということもあり、ホイールベースが長く安定方向。そこに専用トレッドを組み合わせることで、安定しながら曲がる車、という性格になっているように思いました(乱暴ですが)。

美味しさその3:打てば響く!はFL5も同じ

FL5も車の動きに遅れがありません。

ただ、718と同じかというとちょっと違う。全体のリズムはFL5の方がややタメを感じさせて、安定感に重きを置いている感じはします。結果として、「より落ち着いていて重厚感すら感じさせる」といった感覚がありました。

高いフロア剛性をベースに、要所要所の専用設計で遅れを減らす

先ほど出てきた絶品の骨格によって変な動きが出ないようにした上で、ベース車よりも負荷がかかったり、よりがっちり感を持たせたい部分は細かい専用設計を入れることで、全体として遅れのないカチッとした車になっているようです。

たとえば、

  • 足回り
    • アルミホイールを鋳造にしつつもリバースリムにして剛性を確保
    • ホイール締結部もベース車から変更(P.C.D.も従来型と異なり120㎜、締結トルクは127Nm、ホイールスタッドはMM14)
    • サスペンションの支持剛性を強化
    • フロントサスペンションを丸ごと専用設計
      • 前述のデュアルアクシス・ストラット・サスペンションでダンパーフォーク(アルミニウム合金製)・ロアアーム・ナックルを高剛性化してたわみを徹底排除(キャンバー剛性先代比+16%)
  • 操舵周り
    • タイロッドエンドを高剛性化
    • ステアリングトーションバーのねじれ剛性をベース車比1.6倍に

もともとフロアががっしりしているところに、足回り・ステアリングを中心に強化を施すことで、がっちりした乗り味を作っているようです。

ホンダ シビック タイプR(FL5)のサスペンション
ホンダ シビック タイプR(FL5)のステアリングフィール説明図
ホンダ シビック タイプR(FL5)のホイール締結部
FL5のホイール締結部。ベース車と同じナット締結。P.C.D.は120㎜と専用設計になっています(ベース車は114㎜)。取り付けトルクは127Nmとこちらも拡大。面剛性を上げるためにベース車とは異なる仕様になっているようです。

※ちなみに、FL5ではサスペンション部品にもベース車同様スチールを多用しているようです。バネ下の軽量化は一般的に乗り心地の悪化を招く場合もあるので、バランスを取っているのかなと思います。特にFFの場合はフロント部分の重量はトラクションを確保するために必要なので、軽量化の優先度が低いのかもしれません。軽量化はリアリッドの樹脂化など、「高いところにあるもの」から行っているのかもしれません。

アソビはほどほど、低フリクションを徹底

アソビはベース車と違うのかどうかわかりませんが(すみません乗ったことがないので)、フロントサスペンションは別設計ながら、ブッシュ類はもしかすると同じものを使っているかもしれません。

切り始めに少し「タメ」のようなものを感じるようなないような、ということもあり、もしかするとブッシュの厚さ・硬度は適度なものを使って、動きがピーキーに感じさせないような「タメ」として使っているのかも、と思いました。下から覗いてみればいいんですけどね、、、

一方初期フリクションの低減にはいろんなところで手を入れているみたいです。

具体的にはよくわからないのですが、ベース車から足回りのジョイント部などに何か工夫しているのでしょうか。。。

あと、ステアリングについては、「フリクション補償制御」というキーワードがありました。切り始め初期に起こる機械同士の摩擦によって生じる微妙な「引っかかり感」を電子的にキャンセルするようなものなのでしょうか!?

とにもかくにも、遅れなく、しかもスムーズになるよう様々な工夫をしているようでした。

美味しさその4:こちらもいいストーリー。でも前菜抜きかも?

FL5もハンドルを切り始めての動きにはリズムがあり、とても心地よいです。

もう1回、メニューを見てみましょう。

  • ドライバーがハンドルを切りはじめる
  • 車が向きを変えだす(曲がりだす=ヨーモーメントが発生する)
  • 車のフロントセクションが左右に傾きだす(フロントのロール)
  • 車のリアセクションが左右に傾きだす(リアのロール)

718と同じく、この順番で食事は運ばれてくるのですが、赤字の手ごたえの部分があまり感じられない。いわば前菜なしにスープ(イタリアンならパスタか)が運ばれてくる感じ。

ステアリングはもともとセンター付近でもすわりが非常に良い。これが人工的に加えられた保舵力なのかもともとなのかはわからないのですが。で、ステアリングを切ると、「重い」。スピードが乗っている時のノンパワステ車よりも重く感じます。その重さのままステアリングを切ると、手ごたえが来る前に車の景色から「車が動いている」と感じる―――そんな感じがします。

ホンダ シビック タイプR(FL5)のステアリングホイール

FL5はかなり積極的に制御が入った車ですが、そのフィードバックは基本的に少なめに感じます。ドライバーに不要な情報はほとんど戻さず、車の方で「やっておいてあげる」考え方なんだろうなぁと思います。前にも書きましたが、とても有能な秘書、という感じがします。

ということで、コーナリングの入り方はとても自然ですが、前菜だけ省略されたような感じでした。

美味しさその5:スタジオで丁寧に作られた音みたい!

718がライブ感のかたまりのようであれば、FL5はスタジオで丁寧に録音された音楽みたいです。(音楽の比較になってしまいました。)

ミュージシャンの息遣いや足を動かしたりするときの微細な雑音をすべて消して、本当に録りたい音だけを取り、しっかりポストプロダクションもやって「完成された音」と届ける。

そんな感じです。

具体的には、ステアリングホイールに伝わってくる感触は「澄みわたっている」。

たとえば718では感じるエンジンのアイドル振動もFL5ではできるだけカットしているように感じます(エンジンからの距離はFL5の方が近いですが)

路面の轍もほとんど拾いません。

先ほどの切り始めの「引っかかり」のようなものもありません。

もちろん、ただきれいなだけでまったく路面状況を伝えてこない、というのとは違いますが、明らかにきれいに不要なノイズはフィルターをかけて除いているような感じがします。

前述の「フリクション補償制御」も効いているのでしょう。とにかく、機械同士がぶつかり合う、というような生々しい感覚がきれいに取り除かれています。

好みはあると思いますが、とても現代的で、これはこれで美味しいなぁと感じました。

美味しさその6:黒子のはずの制御には舌を巻く!

この車に乗って最初に感じたのは、「すごく乗りやすい」ということでした。

そして、「この新しい乗り味、なんかやっているぞ」ということも感じたのでした。

  • あり得ないくらい安定した挙動
    • 電子制御ダンパーを中心とする姿勢制御(前述)

前にも書きましたが、荒れた路面でも「まるで秘書(=FL5)が地面を均しに行っているのでは?」と思わせるような動きをします。しかもその路面の荒れがステアリングを通して伝わってこないので、ドライバーは何もなかったかのように運転できてしまいます。

しっかし不思議だなぁ、と思ってみると、EPSの項目に、

  • 軸力フィードバック制御

というものがありました!

ホンダ シビック タイプR(FL5)のEPS説明図

ホンダの説明によれば「ドライバーの操作を反映する「軸力フィードバック制御」を緻密に行うことで、操舵時のステアリングフィールの安定性を向上。」

とのこと。何も書かれてないのでなかなか難解ですが、たぶん、

  • ステアリングシャフト(トーションバー部)にかかるねじり力=ドライバーの操舵トルクを検出
  • 一方、別のセンサー群で速度、舵角、舵角速度、前後加速度、横加速度、ヨーレート、アクセル開度、ブレーキ圧、ストローク量を検出
  • そこから「本当はこんな感じに反力を返すとドライバーは気持ちいい!」という反力(返すべき反力=だいたい一定だと気持ち良く感じる)と、実際に路面から返ってきている反力(路面の荒れなどでけっこう反力は変動する)と比較して、そのギャップを埋めるように細かい制御をする(結果として、例えば荒れた路面を通過した時にもステアリングに不快なキックバックがないなど?)

というようなことかなと。

何かものすごく路面が均されたところを自在に走っているような、でも何か騙されたような感覚はこの制御によるものなんじゃないか!と思っています。

そんなこんなで、先ほどの「スタジオ録音」にも通じるところがありますが、ポストプロダクションで音(場合によっては音程)の補正もやっちゃったりして、というのがFL5らしい味を出していると感じました。

美味しさその7:FL5の減速・加速も自由自在!

FL5もブレーキとアクセルは素晴らしい。

減速時のブレーキはフィーリングも制動力も素晴らしいです。

ブレーキは718と同様踏力でコントロールできるタイプ。

たぶんこちらの方がμの大きなパッドを使っているためか、初期の噛みはFL5の方がシャープに感じます。いずれにしてもこのブレーキなら文句は出ないと思います。

ホンダ シビック タイプR(FL5)のフロントブレーキ
FL5もbremboのブレーキを使用。ドリルドディスクを使わないのはホンダのポリシーのようです。
ホンダ シビック タイプR(FL5)のペダル類
FL5のペダル類。アクセルペダルは吊り下げ式ですが、とても自然。ホンダはベース車の機構を最大限使いながら、「人間中心」の作りこみで徹底的に自然に感じられるようなフィーリングを追求しているように感じます。

そして、FL5においても、ブレーキをわざとガバッと離してみても姿勢は変わらず。

シングルマスのフライホイールのおかげなのでしょう、シフトダウンしてのブレーキング中にしっかりとエンジン回転が落ちてくれるので、何の気づかいもせず次の動作に入っていけます。

アクセルを踏んだ時も同様。

アクセルの踏み初めでは「じわっ」とトルクが立ち上がる設定で、そのあと気持ち良い加速をしていきます。

アクセル開度マップはかなりこだわって作っているみたいで、とにかく自然で扱いやすい。そしてターボの立ち上がりも「コンプレッサーの翼形状と羽根の本数を変更」したというだけあってものすごい自然。高回転型のターボでこれだけ自然な立ち上がり方をするのは本当に脱帽ものです(しかも高回転で「あと一押し」もしっかりある)

ホンダ シビック タイプR(FL5)のターボ関連技術
ホンダ シビック タイプR(FL5)のエンジン

こういうのを見せつけられると、「やっぱり現代の車ってすごいなぁ」と思います。ターボラグみたいなマニアックな荒々しさとは真逆の、「とにかく技術の力で違和感のない速さを作る」という方向性での傑作のような気がします。

美味しさその8:「乗り心地」はいい?悪い?

乗り心地については、何を基準にするかによって評価が分かれそうです。

コーナリングの際の「こいつはすげぇ車だぞ!」という感覚からすると、「え、こんな乗り心地いいの?」となりますし、ファミリーを乗せて移動するには個人的には「ちょっと我慢してくださいな」と言わないといけないレベル。

718との大きな違いは、フロントに重量物がある関係でフロントの支持荷重をどうしても大きくしないといけない=バネは硬めにせざるを得ない

というところだろうと思います。バネが硬いので乗り心地は硬くなる。

その上で、718の標準モデル(GTS含む)は、乗り心地を取るために(と突き上げでの上屋の上下動をできるだけ抑えるために)ダンパーの縮み側の減衰力は少し抜いているように思います(伸び側に寄せている)。FL5は縮み側と伸び側のバランスがよりニュートラルに近い感じなので、突き上げでの胃袋の揺すられ感はこっちの方が大きい。

やはりFL5の方が718よりも本格的な「攻め」を本分としているような感じはしました(ともに電子制御ダンパーのセッティングは「ノーマル」にした場合の比較です。)

ひとつだけ気になった点が

ほぼ完ぺきに走ってくれるFL5でしたが、一点だけ気になるところがありました。

それは、

上り坂限定で、アクセルをガバッと踏むと一瞬エンジンが咳き込むような感じになる

ということ。

おそらく上りの方がタイヤグリップへの要求度が高く、若干スリップを起こして車両安定化装置(VSA)が作動してエンジンへの燃料供給を絞っているのだろうと思います。

コンフォートモードを選択しており電子デバイスは全部オンなので、たぶんこれが正常な動き。

いやならば車両安定化装置のモードを変えるか、そういった急アクセルのような野蛮なことをしなければ良いだけの話でした。

あくまで今回はわざと、「変な」運転によって車の挙動を見ていただけなので、普段は丁寧な運転を心掛けたいものです。

まとめ

FL5も気持ち良いコーナリングをしますが、こちらはFFのネガを「技術の力」でねじ伏せた、「頭脳の勝利」みたいな感じがします。

考えてみれば一般的にはスポーツ走行には不向きとしか言いようのないFFというレイアウトを使って、「クラス世界最速」を目指してしまおう、というところが変態的(しかもこのレイアウト故、どうやっても「クラス」で区切らない限り世界一は狙えない)。

下町ファイターは意外にも体力勝負ではなく、ハンデを頭脳で解決する技能派なのでした。

第2回のまとめ:どちらも極旨だった

史上最長になってしまったこの記事ですが、いかがでしたでしょうか?

私も初めてある程度同じ条件で違う車に乗ってみたので、すごく新鮮でした。

そして、「この乗り味は何だろう?」と思って技術プレスなどを調べてみると、「ああやっぱりそうだったか」ということに出会えたり、出会えなかったり。

そんな中で、インプレッションから技術要素を紐解く、というのはなかなか難しく、時間がかかってしまいました。

―――ってそんなことはどうでもいいですよね。ついつい努力を認めてもらいたい承認欲求が。笑

で、718を一言でまとめると、「パーフェクトなコーナリングをするサラブレッド(そりゃ当然だ)」、FL5は「技術でハンデをねじ伏せる下町ファイター(意外に頭脳派だ)」という感じでした。

第3回は、街乗りやユーティリティなど、日常使いでの比較をしてみようかなと思います。(まだいまいち掴めてないので企画倒れするかも)

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