ポルシェ 718ボクスターとシビック タイプR(FL5)を比較する企画が始まったばかりですが、並行して日産 フェアレディZ(RZ34)との比較も始めてしまいます。
比較対象はポルシェ 718ボクスター GTS 4.0と日産 フェアレディZ(RZ34)のベースグレードです。

似ている?似てない?2台のスポーツカー
ポルシェ ボクスターシリーズは1996年に誕生してからやがて30年の月日が経とうとしています。一方、日産 フェアレディZは1969年に誕生してから56年と、こちらはもっと長寿。
この2台、2人乗りのスポーツカーということでよく比較されます。(といっても比較されるのはケイマンの方)
といっても乗ってみると全然違う。
今日はそんなところを見ていきたいと思います。


価格差2倍!それぞれの車のプロフィールを見てみる
2台のざっくりしたプロフィールを見てみます
- 718
- 駆動方式:MR(ミッドシップエンジン後輪駆動)
- 乗車定員:2名
- 価格:950万円-2,100万円(ざっくり。オプション除く)

- フェアレディZ(RZ34)
- 駆動方式:FR(フロントエンジン後輪駆動)
- 乗車定員:2名
- 価格:550万円-950万円

ざっとフェアレディZはポルシェ 718シリーズの半分くらいの価格。
フェアレディZが誕生したころは、ポルシェ911の約半値~3分の1という価格設定だったようですが、今は911が高級路線に行ってしまったこともあり、現在は718と比べて半分の価格、という感じです。
2台の成り立ち
ポルシェ ボクスター / ケイマンは911の弟分
すでにシビック タイプR(FL5)のところで触れたとおり、ボクスターは911一本足で苦しかったポルシェの経営を立て直すために作られたスポーツカー。
基本は911のコンポーネントをできるだけ使いつつ、ユーノスロードスターで火のついたライトウェイトオープンカーのマーケットに参入して販売台数を稼ごう、という動機で作られた車です。
それもあり、基本的には「雰囲気重視」。ただし、基本的に911由来のスポーツカーの設計をそのまま踏襲しているので、走りはある意味「仕方なく」スポーツカーになっている。
・・・乱暴にいえばそういう車です。

ただし、911との兼ね合いもあり、下記のような独特の特徴が与えられました。
- 911のコンポーネンツをできるだけ流用することから、必然的にスポーツカーベースの設計になった
- 911とポジショニングが被らないようにした結果2人乗りのパーソナルカーになった(しかもオープンカーであることが必須条件になった。ご存じの通りケイマンの登場は9年後、ボクスターが次のモデルになってから。ちなみに、このタイミングで設計が根本から911と異なっている「4人乗り乗用車」の計画が没になっているが、これがのちのパナメーラにつながっている)
- 上記の通り911のアセットを使う使命もあったため、(911のレイアウトに対して)エンジンとトランスミッションの配置を逆転して、ミッドシップカーになった
こうした、成り立ちだけ見れば「妥協の産物」だったボクスターですが、それが今に続く「比較的手が出やすいミッドシップスポーツカー」という個性を得ることにつながったのだろうと思います。
フェアレディZは「アメリカキラー」として登場した車
初代フェアレディは、ダットサンスポーツ1000(S211)というオープンカーを左ハンドル仕様にしたもの(SPL212)。このことからもわかるように、フェアレディは最初から輸出、特にアメリカでの拡販を目指したモデルだったようです(私が生まれる前の話なので伝聞です。笑)
その後大幅なアップデートを受け、SP310型が登場します。この車はブルーバードのコンポーネントを使って価格を下げたことから海外での販売に火が付き、85%が輸出されたそう。
性能も本格的で、2Lエンジンが積まれた改良型(SR311)では最高速度200㎞/hを突破、レースでも活躍したのでした。
その折に、米国日産の社長(Zの生みの親として有名な片山豊氏)からのインプットもあり、アメリカのニーズに応えつつアメリカの安全基準を満たすためにクローズボディになったのがフェアレディZ(1969年登場)です。

このような成り立ちからは、下記のような特徴が与えられたような気がします。
- 常にアメリカ市場のニーズに合致した車造りを行ってきた
- マスタングやカマロ、チャレンジャーなどの「ポニーカー」がひしめくポジションで戦う中で、「デトロイトが作っていない、高性能で快適な小型スポーツカー(片山氏)」というポジショニングを取った
- 911などの「本格的スポーツカー」よりかなり安価(ざっと半分から3分の1)で、しかも走りはポニーカーよりも本格的なものを志向してきた
- 上記を実現するために、既存乗用車のコンポーネントをできるだけ使うよう配慮してきた(S30においても当時の新型セドリックのエンジン、スカイラインのブレーキ、ローレルのフロントサスペンションなどを流用)
こうしてみると、フェアレディZは「安価」なのに「本格的な走り」が楽しめるという、アメリカ人が大好きな「バリューフォーマネー」を追求してきた車だといえるのではないかと思います。
見渡してみる:「実用性」の718と「伝統美」のRZ34
718は「実用性」重視
718はミッドシップレイアウトの車です。このタイプの車は伝統的にショートノーズで後ろに向かって高くなる、いかにも速そうな前傾姿勢の車が多いです。フロントもかなり低い。
現代でいえばフェラーリのミッドシップ各モデルやランボルギーニの各モデル、コルベット C8やロータス エミーラなど。前方にエンジンがない利点を最大限生かすとこのようなプロポーションになるのでしょう。
が、718を見ると、そこまで「ミッドシップ」然とはしていません(もちろん、相対的な話です)。一言でいうとフロントが長い。
フロントセクションには大きめの荷室と燃料タンクがあるため、こうなっているのだと思います(燃料タンクを損傷しないよう、十分なクラッシャブルゾーンを確保する狙いもある)。
フロントがそこまで低くないのも特徴。これは伝統的に、左右の端を見えるようにして車幅感覚をとりやすくするための配慮だとか。
911に限らず、ポルシェの車はいつでも「実用性」重視。それがこのような独特の「バランスの取れた」≒「そこまでミッドシップらしくない」プロポーションになっているのでしょう。



フェアレディZは「伝統美」の追求
それに比べてフェアレディZ(RZ34)は、とても伝統的なプロポーションをしています。
「ロングノーズショートデッキ」。
直列エンジンを積んでいたころのFRスポーツカーは、とにかくエンジンの全長が長く、それを生かしたプロポーションをしていました。
代表的なところではジャガー Eタイプ。
やはり、アメリカで拡販するにはそうした「わかりやすさ」が必要だったのでしょう。
フェアレディZは、3代目のZ31型からV型エンジンになりましたが、このプロポーションは頑張って維持している感じがします(正確に言えばZ32はキャビンが前に寄った)。
特に今回のRZ34では、60年代のスポーツカーで特徴的だった、「トランクエンドがカウルトップよりも低い」ことにこだわったというように、徹底的に「クラシックな造形の魅力」を追求しているように思います。
衝突安全性能、超高速での走行安定性、熱対策など、古い車とは異次元の制約条件を満たしながら、伝統的な美しさを追求しているところにこの車の魅力があるように思います(もちろん、クラシックになりすぎないようないろんな「技」もあるようですが)


リアはトランクエンドが低く、クラシックなたたずまい。

乗り込む:「開放的」な718と、「閉塞感」のあるRZ34
実車に乗り込んでみます。
718はすべてがしっくりくる
718に乗り込みます。まずは着座位置の低さにびっくり。

でも、そこから見える景色は「普通」。ステアリングホイールがほぼ水平方向に伸びていること以外はいたって普通の車。ボンネットも低めなので視界が良い。Aピラーもやや遠めにあるため圧迫感がありません。



すべて「走る」ことを第一に考えて計算し尽くされた配置、という感じがします。


RZ34には「伝統的スポーツカーです」という主張がある
RZ34も開口部は低く、乗り込むのには若干苦労します。
が、以前も書いたように、この車はスカイラインなどと共用のFR-Lプラットフォームを使っているためかフロアが高い。

一方、頭上の余裕はほとんどなく、目線にルーフの前端が飛び込んできます。Aピラーもかなり近く、ドアミラーとの距離も近い。


ダッシュボードも少しラウンドしていてドライバーを包み込むような造形ですし、そもそもショルダーラインがかなり高いので、深い湯船につかったような感じになります。

こうした様々な要素が絡まって、かなり「閉塞感がある」室内空間です。
シートに座ってみても、フロアが高いため足を少し「投げ出す」格好になるのはRZ34の方で、そんなところからも「スポーツカーだなぁ」という感じが漂ってきます。
ポルシェの「走るための合理的な仕事場」とは対照的に、「スポーツカーに乗っている気分を味わえる舞台装置」という感じがします。

一方で、シートに座ると着座位置は、(先ほどの着座姿勢をもってしても)ポルシェに比べると明らかに高いことがわかります。

長い時間乗っていると「この方が楽」と思えてきます。後ほども述べるように、アタリの柔らかな足と相まって、この安楽さがこの車の魅力を形作っている、と感じます。
走り出す:「キリキリしないスポーツカー」な718とvs「優しいグランドツアラー」なRZ34
718はキリキリしないスポーツカー
718は、シビック タイプRとの比較記事でも書いたとおり、街乗りでの足回りはそれなりの硬さを感じるものの、6気筒の水平対向エンジンの音も含めて比較的上品で、スポーティなグランドツアラーぐらいのイメージで乗ってもそんなに違和感がありません。
それでも、地を這っているような車の動きや背後から聞こえてくるエンジン音、時折「パキッ」と音を立てる機械式LSDの音をきくと、やはりスポーツカーであることを感じさせます。

RZ34は優しいグランドツアラー
RZ34は、生粋のグランドツアラー、それも上質なスポーツセダンみたいです。
まず、音が静か。エンジン音もそうですし、何よりロードノイズの抑え込みが優秀。タイヤ側に制音材が入っていることもありますが、ボディ側の遮音もけっこうされているように感じます。
V6エンジンも、2000rpm以下の回転数でもハミングのような気持ち良い音を奏でています(BOSEサウンドシステム搭載車では調整音が流れていますが)。

そして、足回りの「優しさ」。路面の荒れたようなところでもかなり不快な揺れを吸収しています。時折バタバタとするところは見せるものの、全体としてはかなりマイルド。
高速のワインディングではちょっと柔らかすぎるんじゃないの?と思うくらいの優しい乗り味です。
普通に乗っている分にはかなり快適で、タイトな室内空間とは裏腹に、かなり「リラックス」して乗れます。
(既出ですが動画を載せておきます。最後にザラメ路面を走るのですが、718よりも明らかに音が抑えられているのがわかります。)

走りを味わう:「ワールドクラス」の718と「伝統の味」のRZ34
ここまで、似ているようであまり似ていない718とRZ34を比較してきましたが、一番違いが現れるのはワインディングでの走りです。
一言でいえば、718は「ワールドクラス」の走りを目指して実践しているのに対して、RZ34は「伝統の味」を生かしながら現代化している、そんな感じです。
「ワールドクラス」のきれいな走りをする718
718は、誰でも速く安全に走れるような車造りをしている印象。そもそも重量バランスなど、慣性諸元が良いため車が素直に動きます。そのため、誰がどんな時に運転してもそつなく走れます。運転に特別なコツが必要ありません。
その上で電子制御が黒子のようにち密に働き、ユーザへのフィードバック系を含めてしっかり作りこまれています。「ドライバー中心」で常にドライバーに「正しい」操作を促すようなフィードバックをしながら、電子制御は裏方としていざという時の操縦安定性を担保する、そんな感じです。

一つ一つの車の動きが合理的で「計算し尽くされている」。
すべてが「正しい」動きのように感じられるため、人によっては「なんか無個性」と思うかもしれません。
雑味を取り除いてきれいなお酒になっていくと、コンクールで賞は取れるけど何か惹きつけるものがなくなっていく、そんな感じにも近いかも。

そうならないように水平対向エンジンなど独自のアイテムがあるわけですが、ポルシェの場合は常にそういった「正しい車の動き」の追求がある意味「没個性」を生んでしまう、というジレンマとの間で微妙な匙加減を必要としている気がします。
「伝統の味」のRZ34
コンテストとは無縁の世界
一方のRZ34は、「伝統の味」。強烈な個性が感じられます。
特に感じるのは荒れた路面の下り坂でのブレーキング。荒れた路面で荷重が前寄りになるとリアが伸びあがるのがわかります。変なタイミングでフルブレーキングするとリアが抜けそうです。
このように、車にはけっこう癖があり、その癖を理解した上で車に喜ばれるような運転をしてあげないと言うことをきいてくれない、そんな印象です。
逆に言えば、そこに車とのキャッチボールがあり、「この車」だからこその楽しさがあるのだと思います。

こちらは、地元でとれる米をできるだけ磨かずに使い、地元の水を使って元の米の味を最大限生かした酒造りをしている、という感じか。(余計わからなくなります??)
あるいは、世界のコンクールには目もくれずに地場産のブドウで造り続けるイタリアワインみたいなものか―――。
私もフェアレディZを所有するのは初めてだったので、最初この車の「個性」に戸惑ってしまいました。「なんか、動きが変?」と。
でも、それはある意味、コンテストの受賞酒(また出た!)を基準とした評価のしかたであることに気づきました。
この車は、伝統的な「Z」の味を大切にしながら、それを発展させていく、そういう作り方をしているんだろうな、と思います。

重みのある開発者の言葉
・・・と思って今日雑誌のページをめくってみたら、車両開発主幹の川口隆志氏がブランドアンバサダー(BA)である田村宏志氏(以下田村BA)の言葉を紹介した一文が目に入りました(複雑ですみません)
「ダンスパートナー」のコンセプトを紹介する一文です。
「GT-Rが乗り手の能力を増強するモビルスーツなら、Zは操作が良ければよい動きになり、操作が悪ければ悪い動きになるけれど、それでいい。」
なるほどー、そういうことだったのか!と私は納得してしまいました。
今の制御技術をもってすれば、下手な運転者であっても車側で補正したり、あるいは動作を補ってあげて運転をうまくしてあげることはできるはずです。
例えばシビック タイプR(FL5)はまさにそういう車(もちろんここに書かれているGT-Rもちょっとだけ乗った時そう感じました)。
半面、フェアレディZは一例としてフロントヘビーであることのネガを消してないため、下り坂で下手なブレーキングをすれば怖い思いをする。でも、逆にうまく操ればリアを流すことも簡単にできてしまう。車と対話して、ちゃんとうまく操れる人にはちゃんと応えますよ(ちゃんと操れなかったときはそれなりですよ)、そんな車なんだろうと思います。
それが「ダンスパートナー」という言葉に込められた意味なんだな、と。

記事のほかの箇所では、田村BAが下記のように言っていました。
「スポーツカーは固定ファンを囲い込むロイヤリティビジネスが基本ですが、それだけだと市場はシュリンクしてしまいます。それを補うために、なにかを変えてブルーオーシャン=新しいお客さまも取り込むのが定石ですが、新型Zはあえてそれは考えませんでした」
新しいお客さんをとるためにバナナ風味の日本酒を作るとか、そういうことをやるのではなく、Zらしさを突き詰めていく、そういう意思の表れなんだろうな、と思います(お酒が好きなのでついそういう話になってしまいます。反省)。
でも、逆にそうした「顧客に媚びずに自分達の信じる道を行く」という一貫した姿勢が新鮮で、それが私のような「新参者」をも惹きつけているのだと感じます。
まとめ
ワールドクラスの走りを目指す一方で、「無個性化」に神経を尖らせながらバランス取りをするポルシェ 718と、あえてわかりやすい「新しさ」を取り入れずに自分たちの伝統を重んじながらその洗練を目指すフェアレディZ。
なんだか全然アプローチの違う2台ですが、それもまた車の多様性だなぁ、どっちもいいよなぁ、と酔いしれてしまう私でした。
シビック タイプR(FL5)の時と同様、ステアリングの切り始めやブレーキング、などの各局面での乗り味の比較をしても良いのですが、そもそもフェアレディZ(RZ34)はそれぞれの動作の完成度で勝負するような車でないので、なかなかうまい比較ができません。
コンテスト向きの酒とそうでない酒を、色や香り、舌に触れた時の感触、喉越し、余韻などの「コンテスト」のフォーマットで比較したところで、コンテスト向けでない方の酒の分が悪いことは目に見えています。
次回は、ワインディングと高速での「雰囲気の違い」を感じてもらえるような記事を書きたいと思います。(と読み返していたら、ワインディングが「ワイン」に見えてきてしまいました。あかんあかん)
※結局同条件で車を走らせて挙動を比較するという、分析的な記事になってしまいました。笑
【比較】ポルシェ 718ボクスター vs 日産 フェアレディZ(RZ34)(第2回) ワインディング編:コンテスト酒と地酒が対決!











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