ポルシェ 718シリーズはどこへ?(1)718シリーズの販売台数推移を見てみるから続く

振り返ればポルシェ 911と違い、1993年のコンセプトモデル誕生からこれまで、いろいろと紆余曲折しながらモデルチェンジしてきたボクスター / ケイマン。

これから数回に渡って、ボクスター / ケイマンのこれまでの変遷とこれからの行方を、販売台数の推移を手掛かりに読み解いていきたいと思います。

2回目は718シリーズのライバルたちの動向です。

ポルシェ 718シリーズが対峙する市場

なかなか微妙な売れ行きの718シリーズ。でもそれは一人負けなのでしょうか?

実際のところ、718が身を置く市場は、なかなか厳しいものがあると思います。

718ボクスター / スパイダーが属する市場:(わりと)ライトウェイトなオープンスポーツカー

マツダ ロードスターの世界販売台数推移

1996年にボクスターが登場したきっかけにはマツダ ロードスターが深くかかわっていますので、その販売台数の推移を見ていきたいと思います。事実、ロードスター以外のライトウエイトなオープンスポーツカーはほとんど死滅してしまいました。

マツダ ロードスター 世界販売台数推移のグラフ
出典:NBロードスターアーカイブ

この数字には注釈が必要で、現在のモデル(ND)が発売されたのが2014年、ロードスターに限らずスポーツカーはモデル年次が古くなるにしたがって売れ行きがかなり減少するため、どうしてもこのような数字になります。(2020年以降はコロナによるライフスタイルの変化から販売が増加に転じた、と日本で報道されていましたが、世界的に見ても販売は上向きのようです。)

ただし、それぞれの代が最も売れたピークの年の台数で比べてみると、代を追うごとに販売台数のピークの山が低くなっていることがわかります。

  年間販売台数(台)年度
初代NA95,6401990
2代目NB58,6821998
3代目NC48,3892006
4代目ND39,8292016

BMW Z4のアメリカでの販売台数推移

参考までに、BMW Z4(現行モデル、G29)のアメリカ(合衆国)での販売台数の推移も掲載しておきます。発売開始が2019年なので2019年-2022年を掲載しています。

※世界での販売台数を見つけることができませんでしたので、アメリカでの販売台数を掲載しています。おそらく世界販売台数の20%程度をアメリカが占めていると思われます。

BMW Z4(G29)のアメリカでの販売台数推移のグラフ
出典:GCBC、Carsalesbase、Carfigures

こちらも代ごとのピークを見ていきます。

  年間販売台数年度
初代E85/8620,1692003
2代目E893,8042010
3代目G292,9412019
初代はクーペ/コンバーチブルを含む。2代目はリトラクタブル・ルーフの1モデルに統合。3代目は姉妹車トヨタ スープラを含まない

E85/86の数字は、現代でいうトヨタ スープラを含めた数字と考えることもできるので参考にならないと思いますが、2代目(E89)と3代目(G29)のピークを比較しても、ロードスターと同じように、ピークの山は低くなっています。

このように、長期的なトレンドとしては、(わりと)ライトウエイトなオープンスポーツカー市場は縮小していると言ってよいのではないでしょうか?

718ケイマンが属する市場:ミドルなお値段のスポーツカー

ライバルはどの車?

ケイマンは、カジュアルなスポーツカーのマーケットが苦しい状況の中で、上級移行していろんなマーケットのニーズを取り込んでいるようなところがありそうです。

ライバルはBMW M2、ロータス エミーラ(2023年に発売されたばかり)、アルピーヌ A110(アメリカでは販売されてない)、アウディTT(終売)、トヨタ スープラ、日産 フェアレディZあたりでしょうか。良くケイマンと比較されることの多いコルベットは、価格帯は似ているものの基本はもう一つ上のセグメント(ポルシェ 911やアウディ R8、日産 GT-Rなど)とされていることが多いため割愛します。

価格帯はアメリカにおいておおむね$40,000-110,000とかなり広い。市場が小さいので、一つの車種で多くのニーズをカバーしないといけないからだと思います。

アウディ TT、ジャガーF Type、トヨタ スープラ、日産 Zのアメリカでの販売台数推移

なかなかそれぞれの車の世界販売台数を調べるのは難しく、最大マーケットであるアメリカの数字で見てみます。アウディ TT、ジャガー F Type、トヨタ スープラ、日産 Z(370Z)で比較しています。(M2は2シリーズ全体の数字しか取れなかったため割愛しました)。

AUDI TT、ジャガー F-Type、トヨタ GRスープラ、日産 Z(フェアレディZ)のアメリカでの販売台数推移
AUDI TT、ジャガー F-Type、トヨタ GRスープラ、日産 Z(フェアレディZ)のアメリカでの販売台数推移

日産 Z(フェアレディZ)の販売台数の減少があまりに大きくてなかなか何とも言えない感じですが、4台あわせるとトントンという感じなんでしょうか。

少なくとも先ほど見たオープンスポーツカーのマーケットよりは元気なのかも。

718シリーズが対峙する市場: まとめ

こうしてみると、718シリーズが属する市場は縮小しているか、あるいは何とか維持しているか、ということが見えてくると思います。

一方、プレミアムスポーツカーのマーケット(たとえばフェラーリやランボルギーニ、ポルシェ 911などが属する)は成長を続けています。そのため、718シリーズと同じセグメントのライバルたちは、上級クラスに食い込んだりして何とか生き残っている、そんな感じがします。

それでは、次にライバルたちの生き残りをかけた戦いを見ていきたいと思います。

ライバルたちの生き残りをかけた戦い

マツダ ロードスター(MAZDA MX-5 , MX-5 MIATA)

概要

マツダ ロードスターは世界で最も売れたオープンカーとしてギネスにも登録されています。(それまでの記録はイギリスのMGBシリーズで累計約52万台販売)。

累計で115万台以上販売しているモンスター。

(ちなみにボクスターは25Yearsが登場した時に、累計35.7万台以上との発表がありました)

そんなマツダ ロードスターの4代目(ND)が登場したのが2014年。軽量化にこだわり、ライトウェイトスポーツカーの文化が根付くヨーロッパと、車速域の低い道路が中心の日本では、あえてダウンサイジングした1.5Lエンジン(3代目は2.0L)を搭載し(ヨーロッパでは2.0Lも併売)、軽いグレードでは1トンを切る車重を実現、原点回帰を果たしました

マツダ ロードスター(MAZDA MX-5 MIATA (USモデル))
マツダ ロードスター(MAZDA MX-5 MIATA (USモデル))。MAZDA USAのホームページより

販売台数推移

年々衝突安全規制が厳しくなる自動車業界の中にあってこの原点回帰はかなり珍しいことで、それもあってかモデルチェンジ直後こそ市場の縮小に抗えない様子でしたが徐々に盛り返し、売上は2020年から微増傾向。これもスポーツカーではものすごく珍しい傾向。現在でも世界で安定して年間25,000台程度(アメリカでも6,000-10,000台程度)(2020-2022年)販売しています。

一方で多様化するニーズに対応するためにハードトップタイプのRFを追加したり、ハイパワーが望まれるアメリカ市場では2.0Lエンジンに絞ったりと、万全の対策をしています。

市場が縮小する中でしっかり残存者利益をとることができている成功例といえそうです。

次期型

なお、次期型は規制が厳しくなる2025年、2026年ごろにハイブリッド化して登場するとうわさされています。

BMW Z4 &トヨタ GRスープラ

概要

BMW Z4は、2代目(E89)で売上を大きく落とし、2016年に一旦終売したモデルです。そこにトヨタが企画を持ち上げ、2018年にBMW Z4 / トヨタ GRスープラとして復活しました。BMW Z4は2年ぶりの復活で通算3代目、トヨタ スープラの復活は2002年以来16年ぶり、通算5代目のモデルになります。

製造はオーストリアのマグナ・シュタイア社。

BMW Z4
BMW Z4。BMW(ドイツ)ホームページより
トヨタ GRスープラと歴代モデル(アメリカ仕様)
トヨタ GRスープラと歴代モデル(アメリカ仕様)。TOYOTA USAホームページより

この車は、「企業グループを超えて車体を共通化することで開発コストを削減し、それぞれの販路で売ることで投資を回収する」、という試みで、なかなか珍しいものです。(実質的なOEMはアバルト124スパイダーのようなものもありますが、企画段階から一緒にやる例はほとんどない)

トヨタはEV化により車のコモディティ化が進むと、中国メーカーにコスト面で太刀打ちできないという危機感があると思われ、ここ数年は付加価値を出しやすいスポーツカーセグメントに力を入れています。もともとトヨタには販売力があることから、BMWもリクープ(投資回収)できると判断して共同開発に踏み切ったと聞いています。

販売台数推移

さすがにトヨタ GRスープラはアメリカにおいて抜群のネームバリューと人気があり、価格もBMW Z4よりもかなり安いこともあって売れているようです(アメリカで年間5,000台-7,000台(2020-2022年)。BMW Z4は同時期年間1,000-2,000台程度)。

次期型

トヨタは次期スープラは自社開発すると伝えられており(ある程度ノウハウを抜き取ってしまったのかもしれません)、BMW Z4の伝統は再び途切れてしまうかもしれません。

BMWは2座のオープンスポーツカーには市場がないと考えているようで、オープンカーは4シリーズ、8シリーズにそれぞれコンバーチブルを用意して(2シリーズは2021年終売)、よりラグジュアリーなセグメントを狙いに行っているようです。スポーツカーセグメントは2シリーズ、4シリーズのクーペという、オープンカーよりも小型のラインナップでカバーするようです。いずれにしても、同一モデルの派生車種としてカバーしていく戦略のようです。

日産 フェアレディZ

概要

日産 フェアレディZ(日産 Z)は、アメリカ市場をターゲットにしてきた日本車です。1969年に誕生した時は、それこそオープンスポーツカーキラーとして、当時アメリカでバカ売れしていた前述のMGBの座を奪った車です。

そういう、ライトウェイトオープンスポーツカーの市場からすると因縁の車ですが、アメリカでは1996年に4代目で一旦販売終了、2002年に大幅に価格を下げたニューモデルで復活しています(Z33)。

アメリカにおいてはいわゆるポニーカー(若者をターゲットにした比較的安価でコンパクトなスポーツカー。フォード マスタング、ダッジ チャレンジャーやシボレー カマロなど)と対抗する車として、長いことバリューフォーマネーの高い車(安くて高性能)として親しまれてきました。販売台数も相対的な値段の安さにほぼ比例しているように思います。

2008年に6代目が登場して以降、売上も年を経るごとに減少して存続が危ぶまれていましたが、2022年にビッグマイナーチェンジ(規制をクリアしやすいようフルモデルチェンジにはなっていない)をしています。

日産フェアレディZ(NISSAN Z)(アメリカ仕様)
日産フェアレディZ(NISSAN Z)(アメリカ仕様)。日産USAホームページより

販売台数推移

そうとはいえ、販売台数にはかつての勢いはありません。2002年のZ33登場後はアメリカだけで年間36,000台(月3,000台!)を売った年もあったZですが、モデルチェンジ前は年間2,000台を切っていました。ビッグマイナー後の現在も生産が安定しないこともあり、2023年はこのままいくと年間2,000台程度の販売になる見込みです

次期型

その後2026年以降の規制をクリアしなくてはならないことを考えると、このまま終売か(ネームバリューはあるので何らかの形で復活するとは思います)、バリューフォーマネーの高いEVとして登場するか、ということになりそうです。

アウディ TT

概要

アウディTTは1998年に登場した、アウディのクーペ。2000年にオープンモデルが追加されています。当時アウディはイメージ刷新に取り組んでおり、TTは新世代アウディを象徴するような、レトロモダンなデザインで登場しました。コンポーネンツは同じフォルクスワーゲングループのゴルフ3、つまりFFをベースにした車で、その成り立ちから走りにはいろいろと問題があったようです。

そんなデザインコンシャスな車でしたが、当時カジュアルなスポーツカーやライトウェイトなオープンスポーツカーのブームに乗って3代目まで生き延びてきました。代を経るごとに走りも洗練させて今に至ります。

アウディTT 初代のロードスターと3代目ロードスター
アウディTT 初代のロードスターと3代目ロードスター。AUDI USAのホームページより。それにしても初代TT、カッコいいなぁ。

販売台数推移

アメリカでも登場後は年間12,000台を超える販売台数を記録した年もありましたが(2000年、2001年)、その後市場セグメントの縮小とともに売上を減らし、2020年にはついにアメリカで年間1,000台を切ってしまいました

次期型

すでにモデルの終了が決まっており、後継車はEVになることがアナウンスされています。

(2023年10月5日追記:一部のスクープ報道で、TTが2025年に登場するとの記事がありました。それによると、次期TT(とR8)はフォルクスワーゲンが開発したEV用プラットフォーム「SSP(スケーラブル・システム・プラットフォーム)」を採用するとのこと。)

ジャガー F-Type

概要

ジャガー F-Typeは、かつてジャガーが販売していた名車E-Typeへのオマージュとして、2013年から販売しているスポーツカーです。

2008年にジャガーがインドのタタグループの傘下に入ってから作られている車です。おそらく、ブランドアイコン的な役割を担わされての登場、ということで、ここで紹介したロングセラーの車とは違う成り立ちをしています。

ジャガー F-Type(欧州仕様)
ジャガー F-Type(欧州仕様)。JAGUAR USAのホームページより

すでに市場が縮小してきていたスポーツカーのマーケットにおいて、F-Typeは4気筒から8気筒までの多彩なラインナップで、下は1,000万円を切る価格(当時)から上は2,000万円近くまで、幅広く取り揃えています。

販売台数推移

一時はアメリカで年間5,000台近く販売していましたが、その後低迷し、最近3年間は年間2,000台に乗るか乗らないかというところです。

次期型

ジャガーは2021年に新しいグローバル戦略「REIMAGINE」を発表しており、ランドローバーと共に2030年にはフル電動化すると言っています。2025年からは本格的にEV生産に移行する模様。その時にEVスポーツカーとして存続するのか、消滅するのはまだわかりません。


今見てきたように、ポルシェ 718シリーズのライバルたちもなかなか苦しい戦いを強いられているようです。将来について明確に方向性が出ているのはマツダ ロードスターくらいでしょうか。市場自体が縮小しているのですから難しいですよね。

次回は、そんな中でポルシェ 718シリーズが2016年の登場前になぜネーミング変更とコンセプトの修正を行ったか、その謎に迫ってみたいと思います。

ポルシェ 718シリーズはどこへ?(3)718シリーズ誕生3つの背景へ続く

今回使用したデータは下記にまとめています。

ポルシェ 718シリーズのライバルたちの販売台数推移

BMW Z4の米国販売台数推移(2003-2022年)

トヨタ スープラ / GRスープラの米国販売台数推移(1997-2022年)

日産 350Z / 370Z / Z の米国販売台数推移(2002-2022年)

アウディTTの米国販売台数推移(1999-2022年)

ジャガー F-Typeの米国販売台数推移(2013-2022年)

※マツダ ロードスターの販売台数についてはこちらのサイトに詳しくまとめられていたので割愛しました(NBロードスターアーカイブ

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