振り返ればポルシェ 911と違い、1993年のコンセプトモデル誕生からこれまで、いろいろと紆余曲折しながらモデルチェンジしてきたボクスター / ケイマン。
数回に渡って、ボクスター / ケイマンのこれまでの変遷とこれからの行方を、販売台数の推移等を手掛かりに読み解いていこうというこのシリーズ。
3回目は718シリーズ誕生の背景に迫ります。
718シリーズについておさらい
ここでちょっと718シリーズについておさらいしておきます。
3代目ボクスター / 2代目ケイマンである981型の登場(2012年)からわずか4年。
厳しくなる一方の環境規制に対応しながら生き延びるべく、ボクスター / ケイマンは2016年に718シリーズに変貌を遂げました。

変更のポイントは、
1.水平対向エンジンが6気筒から4気筒に変わったこと
2.名称がボクスター / ケイマンから718ボクスター / 718ケイマンになったこと
(そもそも718というのは、1950年代後半から1960年代前半に活躍したミッドシップ4気筒のレーシングカー。小さい排気量ながら大排気量の車を破ることもしばしばで、ジャイアントキラーという愛称もついていた)

ここまでは、第1回にまとめていますので、よろしければどうぞ。
なぜ718シリーズになったか?3つの要因を考える
よく言われるのは、環境規制、特に燃費規制をクリアすべくエンジンのダウンサイジングを進めるために4気筒化を断行した、その際にダウングレード感を出さないために718という伝説的なレーシングカーのネーミングを借り出した、というもの。
確かにその通りだと思いますが、もう少し複合的な要因があるのではないかと考えています。それを見ていきたいと思います。
1つ目の要因:環境規制の変化
この時期の環境規制の概要
1つ目の要因は、もちろん何といっても環境規制です。
981型ボクスター / ケイマンが誕生したのが2012年。この車両の大きな目的は車両の軽量化でした。(詳細はこちら。)すなわち、この代からすでに燃費規制への対応は喫緊の課題になっていました。
ヨーロッパでは2008年からCO2排出規制が導入され(EURO5)、CO2排出量ターゲットは2015年で130g/kmとされました(ガソリン車に換算すると17.9㎞/l)。これが企業平均燃費として設定され、これを超えると罰則金を払わなくてはならない、というもの(いわゆるCAFE規制)(※1)
すでにこのころにはEURO6の概要(2015年実施)も発表されていたようですし、最近の各国での規制のベンチマークになっている2021年規制(CO2排出量95g/km。2015年比で27%削減)もすでに2013年には欧州議会で合意されているようです(※2)
ポルシェの燃費規制対応
この中で、ポルシェが省燃費化の切り札として打ち出したのがエンジンのダウンサイジング化による燃費の向上(CO2排出量の削減)。
具体的には、
・量販車であるマカンへの4気筒モデル追加(2014年)
・911のターボ化(2015年9月発表)
が目玉として実施されました。


718シリーズの4気筒ターボ化(2016年)もこの流れにあると言えます。
実際、ターボエンジン化によって、たとえば718のベースグレードの場合は従来のエンジンに比べて14%CO2排出量を削減するとメーカーは言っています。(EU基準のNEDCに基づく燃料消費量を元に算出)

2つ目の要因:中国の重要性の増加
2つ目の要因を見てみましょう。
それは、中国の重要性の増加。
ポルシェの中国での販売台数推移を見てみましょう。
中国における販売台数は2015年にアメリカ(米国)を抜いて、単一市場では最大になったことがわかります。全世界での販売台数に占める割合(構成比)も2016年には25%を超え(4台に1台が中国で売れている。ちなみに日本は2016年以降3%を割っているので、ざっと日本の10倍売れている)、非常に重要であることがわかります。

ここで重要なのが中国の自動車税制。
第1回でも述べた通り、中国の税制では排気量によって税率が大きく異なってくるようです。特に排気量2,000cc以下の優遇策がある模様。また、130万元を超える車には排気量によって大幅な税金が付加される(たとえば3L以上4L未満だと25%)ため、各社排気量をできるだけ抑えるようにしているようです(718シリーズではRSのみ対象)。
環境規制が、いわば「守り」の理由であれば、中国対応のためのダウンサイジングは「攻め」の理由でしょう。ダウンサイジングターボ化は、中国での拡販のためにも非常に重要な戦略だったと思われます。
3つ目の要因:市場の縮小
市場は縮小している
3つ目の要因は、市場の縮小です。718シリーズ誕生後の市場とライバルの動きは見てみましたが(詳細はこちら)、それ以前についても見てみましょう。
注目してほしいのは、718シリーズの開発がスタートするであろう2012年頃から開発終了の2015年くらいの数字ですが、モデルのライフサイクルの影響を避けるために少し長めの期間の数字を掲載しています。なお、長期間の数値は一部の車種以外米国の数字以外取るのが難しく、米国の数値に統一しています。
ボクスター / ケイマンの米国販売台数推移(2006-2015)
まずは、ボクスター / ケイマン。新型モデルのピークがわかるよう、987型(ボクスターは2004年、ケイマンは2005年)の数値も載せています。

2006年にボクスター / ケイマンは合計で12,000台弱を売っていますが、981型が発表された翌年の2013年は約8,000台。その後の落ちが緩やかではあるものの、ピークの山は小さくなっています。
マツダ ロードスター(MX-5 MIATA)の米国販売台数推移(2006-2015)

この時期のロードスター。ボクスター / ケイマンの合算値より少し大きいくらいですかね。
NDロードスターが最も売れた2017年でも年間11,000台強。NCロードスターの年間17,000台弱には及んでいません。
ミドルサイズスポーツカー(BMW Z4 、AUDI TT、日産Z、Jaguar F-Type)
こちらは、前回と同じ車種で別の期間の動向を見てみました。スープラはこの時期販売されていませんので除外しています。

こちらは、オープンモデルよりも比較的頑張っている市場かもしれません(2000年代前半は日産350Zが売れまくっていたので、その頃に比べると元気はない)。2011年以降は微増になっています。といってもジャガー F-Typeが2013年から発売になっているので、その効果とみることもできますが。。
ざっと見ると、オープンカーの市場は縮小気味、ミドルサイズのスポーツカーは維持、そんな感じかなと思います。
縮小する市場での戦い方
縮小していく市場でのリーダーの競争戦略の定石は、「残存者利益を取る」ということです。(ボクスター / ケイマンがこの市場のリーダーだった、という前提のもとに話を進めます)。市場の下位で戦っているプレーヤーは、製品が売れなくなることで利益が圧迫され、我慢できずに退場する。そうすると、上位のプレーヤーは競合がいなくなった市場で総取りをするわけですね。その時に重要なのは、絶対的な数ではなくて一台当たりの利益。市場が縮小して数が伸びないのだから当然です。
そうすると、第1回で見た、718シリーズ誕生の際の「コンセプトの変化」の意味が見えてくると思います。
下記が私の予想です。実際に経営会議で侃々諤々(かんかんがくがく)議論している様子を思い浮かべながら書いています。それでは、どうぞ。
社長:君、ボクスター / ケイマンは売れてないんだろう。もうおとりつぶしだよ。カイエンも売れているし、マカンの発売も控えている(2013年発表)。よっぽどのことがない限り、モデルの存続は認めんよ。ん?策があるって?じゃあちょっと君の考えを聞こうか。手短にな。
商品企画担当取締役:(市場調査や実績報告の後で)まず、ボクスター / ケイマンを、これまでの911の弟分である「優雅に乗れるプロムナードカー / 気軽に乗れるスポーツカー」という位置づけから「ちょうどいいサイズのミッドシップ・ピュアスポーツカー」という位置づけに変更します。これによってある意味911との性能・価格面でのヒエラルキーを気にしなくてよくなります。ピュアスポーツにしておけば、価格帯が上のクラスにも入っていきやすくなると考えます。
コンセプトの変更と同時に、モデル名称の変更を提案いたします。名前は、718(伝説の4気筒ミッドシップ・レーシングカーの名前。)をボクスター / ケイマンの前につける形を提案します。これにより、ピュアスポーツカーのイメージ強化とともに、4気筒に対するネガティブなイメージも払しょくできて一石二鳥です。(註:実際は718より一つ前のレーシングカー、550にする案もあったようです)
製品マイルストーンをご覧ください。今述べた下準備の上で、順次高額なモデルを投入いたします。今まで通り911の資産をうまく流用してコストを抑えることは可能ですから、単価を上げることで、すでに縮小してニッチ化したマーケットで、確実に残存者利益を取りに行く戦略を提案いたします。つまりニッチ層を確実に取り込んで1台当たりの利益を取りに行くのです。
まぁ、実際どんなやり取りがあったかはわかりませんが、なんとなくそれっぽい気もしませんか?(プレゼンとしては、もっと結論から先に話さないとあかんですね)
さて、本当にそのようになっていくのでしょうか?
(と、予想するふりをしてますが、ずるいのは、私たちがその後のことを知っていることですよね。すべては後講釈です。)
まとめ
2016年、ポルシェ 718シリーズ誕生。その誕生の背景には、
1.環境規制(特に燃費規制)のため、エンジンのダウンサイジングにより燃費を改善する必要があった
2.重点戦略国である中国での販売を拡販させるためにも、エンジンのダウンサイジングが必要だった(税制的に排気量が小さい車ほど税率が低くなるため)
3.そもそも市場が縮小してきたので、残存者利益を取るために製品コンセプトを微妙に変える必要があった(高額な製品を投入するためには、911の弟分という立ち位置では都合が悪かった)
という3つの要因があったのではないか。
まぁ、適当な解釈かもしれませんが、企業の競争戦略の立場から、そんな風に見てみるのも面白いかなと思いました。トンでもだったらすみません。個人ブログなのでご容赦くださいませ。
次は、ほんとにそうなったのか、718シリーズのモデル展開を追ってみたいと思います。
ポルシェ 718シリーズのモデル展開と電動化への道(ポルシェ 718シリーズはどこへ?(4))

参考文献:
(※1)世界の自動車燃費規制の進展と電動化の展望(三井物産戦略研究所 P.11)
(※2)欧州議会、2020年CO2排出規制で合意、「95g/km」へ(2013年6月27日)
各種規制については、なるべく包括的な理解をしようと務めたつもりですが、なかなか統一的な文献がなく、もしかすると根本的に間違えていることもありそうです。
もしお気づきの点がございましたら、お知らせください。










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