ポルシェの2023年の世界販売台数が発表されました。毎年過去最高を更新するのはいつもの通りですが、2023年は異変も。少し内容を見ていきたいと思います。
ポルシェの2023年(1月-12月)の世界販売台数:過去最高も微増
世界販売台数:まずは数字を見てみる
ポルシェの2023年の世界販売台数は、320,221台(前年は309,884台。3.3%増)になったようです。
| 年度 | 世界販売台数 |
| 2016 | 237,778 |
| 2017 | 246,375 |
| 2018 | 256,255 |
| 2019 | 280,800 |
| 2020 | 272,162 |
| 2021 | 301,915 |
| 2022 | 309,884 |
| 2023 | 320,221 |
世界販売台数:他メーカー並み?
ここのところのSUV人気や中国市場の伸長でポルシェは毎年大きく前年を上回る状態が続いてきました。コロナや半導体不足の深刻だった2020年は若干販売台数を落としたものの、2022年のウクライナ問題の年も販売台数増を維持。
2023年も売上は伸ばしているものの、他社と比べてどうなのか、気になります。
| 2023年 | 前年比 | |
| VW | 9,239,500 | +11.8% |
| BMW | 2,555,341 | +6.5% |
| メルセデス・ベンツ | 2,491,600 | +1.4% |
| ポルシェ | 320,221 | +3.3% |
上の表が、ドイツの主要自動車メーカーの2023年の自動車販売台数(グループ全体での販売台数。商用車含む)です。地盤であるヨーロッパは、半導体不足やウクライナ問題によるサプライチェーンの混乱が落ち着いた関係で2023年は反動増。
上記メーカーの中では、2022年に減少だったのがフォルクスワーゲングループ(VW)(7%減。3年連続)とBMW(4.8%減)、増加だったのがメルセデス・ベンツ(5%増。ただし乗用車は1%減)とポルシェ(3%増)だったので、その反動が2023年に現れている感じです。つまり、2022年に販売台数が減少したメーカーは反動で2023年の増加幅が大きく、同年に増加したメーカーは2023年の成長(回復)も穏やかになっています。
地域別販売台数:中国が激減、欧米増加。日本も増加
ここまでは去年とあまり変わらないトレンドだったのですが、2023年は新しいトレンドが。それは中国市場向けの急減です。
地域別販売台数:まずは数値を見てみる
異変は2022年から始まっていましたが、好調だった中国が何と前年比15.0%減。
| 2022年 | 2023年 | 前年比 | |
| 中国 | 93,286 | 79,283 | -15.0% |
| 北米 | 79,260 | 86,059 | +8.6% |
| ドイツ | 29,512 | 32,430 | +9.9% |
| ドイツ除欧州 | 62,685 | 70,229 | +12.0% |
| その他・新興国 | 45,141 | 52,220 | +15.7% |
| 全世界 | 309,884 | 320,221 | +3.3% |

地域別販売台数:中国と米国(アメリカ)を比較
どれくらい中国が落ちているかを、2023年に最大市場に返り咲いたアメリカと比較してみましょう。
| 中国 | 中国の構成比 | 米国 | 米国の構成比 | |
| 2012年 | 31,205 | 22.1% | 29,023 | 20.6% |
| 2013年 | 37,425 | 23.1% | 42,323 | 26.1% |
| 2014年 | 46,931 | 24.7% | 47,007 | 24.8% |
| 2015年 | 58,009 | 25.8% | 51,756 | 23.0% |
| 2016年 | 65,246 | 27.4% | 54,280 | 22.8% |
| 2017年 | 71,508 | 29.0% | 55,420 | 22.5% |
| 2018年 | 80,108 | 31.3% | 57,202 | 22.3% |
| 2019年 | 86,752 | 30.9% | 61,568 | 21.9% |
| 2020年 | 88,968 | 32.7% | 57,294 | 21.1% |
| 2021年 | 95,671 | 31.7% | 79,166 | 26.2% |
| 2022年 | 93,286 | 30.1% | 79,260 | 25.6% |
| 2023年 | 79,283 | 24.8% | 86,059 | 26.9% |

中国は2015年にアメリカを抜いて、単一国としては最大の市場になりました。その後もシェアは増え続け、ポルシェの3台に1台は中国で売れる状況になっていました。が、2022年にトレンドが変わり、中国が減速します。そして2023年、一気に風景が激変、8年ぶりにアメリカに最大市場の座を明け渡しました。
地域別販売台数:他のメーカーはどうか?
ポルシェは、中国の景気減速のため出荷が大幅減になった、と言っていますがどうでしょうか?
JETROは、中国での自動車販売台数は3,009万4,000台で前年比12%増になったと発表しています。(※)
先ほどのドイツのメーカーはどうでしょうか?
| 2023年 | 前年比 | 構成比 | |
| VW | 3,236,100 | +1.6% | 35.0% |
| BMW | 824,932 | +4.2% | 32.3% |
| メルセデス・ベンツ | 727,200 | -3.5% | 29.2% |
| ポルシェ | 79,283 | -15.0% | 24.8% |
どのメーカーも、全世界での伸びに比べると中国は弱い感じです。その中でもポルシェは特に弱い。
JETROの資料を見ると、中国での自動車販売台数は全体としては伸びているものの、(新エネ車についての記載しかありませんが)低い価格帯の車に伸びが集中しており、高価格帯の車は伸びていません。
これは
1.景気減速で購入価格帯が下がり、高額な輸入車から安価な国産車に需要がシフトしていること、
2.大規模におこなわれている新エネ車減税(取得税にあたる税金の減免)などにより、政策的にEVシフトが助長されていること
が考えられます。
高価格帯の車が多いポルシェ(VWグループではほかにランボルギーニやベントレーも)は、中国の景気減速のあおりをまともに受けている、ということがいえるかもしれません。
実際製造装置に部品を納入しているメーカーのお手伝いをしていると、中国での投資がパタッと止まった、という話を聞きます。製造装置への投資は景気の先行指標になるので、「これはけっこうただ事じゃないのかも」と思っています。
地域別販売台数:日本も増加
ここのところ世界の中でも存在感の薄れていた日本市場ですが、販売は大幅増加。
| 販売台数 | 構成比 |
| 6,887 | 2.9% |
| 6,923 | 2.8% |
| 7,166 | 2.8% |
| 7,192 | 2.6% |
| 7,284 | 2.7% |
| 7,009 | 2.3% |
| 7,193 | 2.3% |
| 8,002 | 2.5% |

これは、突然需要が増えた、というよりはサプライチェーンの正常化の影響が大きいかも。あとは中国の減速により、日本への割り当てが増えたか(笑)
モデル別販売台数:ここ10年以上のトレンドに変化が!
モデル別販売台数:まずは数字を見てみる
モデル別にみると、下記の通りになっています。
| モデル | 販売台数 | 前年比 |
| カイエン | 87,553 | -8.4% |
| マカン | 87,355 | +0.7% |
| 911 | 50,146 | +24.1% |
| 718 | 20,518 | +12.7% |
| タイカン | 40,629 | +16.7% |
| パナメーラ | 34,020 | -0.4% |
モデル別販売台数:SUVが減少、スポーツモデルが大幅増加
ここ数年成長をけん引してきたSUVが減少、逆に911が24.1%も増加。
まず、SUV、特にカイエンの減少(8.1%減少)については、ポルシェから公式に、「カイエンのマイナーチェンジモデルの導入時期が地域により異なったことと、EVのソフトウェアのアップデートのため(に発売延期?)」との説明がありました。よくわからないところもありますが、要は国によってはモデルの端境期にあったということだと思います。
マカン(0.7%増加)については説明がありませんでしたが、2024年にはフルEVになるのと、それに先立つ2024年春にマカンのエンジンモデル(ICE)は欧州で終売にする(サイバーセキュリティ規制をクリアできないため)との話もあり、生産を絞ってきていたのかもしれません。ちなみにアメリカでは前年比13.8%増加しているので、全世界的にプレミアムSUVが不調というわけではなさそうです。
パナメーラ(0.4%減少)はモデル最終年であるための減少。
驚きの増加幅は911。24.1%も増加して過去最高を更新。一時はタイカンに抜かれたりする月もありましたが、ふたを開けてみれば圧勝。718も増加に転じています(12.7%増加)。
このあたりはやや不思議なところはありますが、アメリカでも引き続きスポーツカーの販売は比較的好調らしいので、こうした市場の追い風はあるかもしれません。
また、ポルシェはここ数年、本社工場であるツッフェンハウゼンでエンジンの工場を建設したり、タイカンの販売開始に合わせて工場の増床を進めています。(EV混流生産ができるようになっている模様)
もしかすると本社工場の生産力増強により、本社工場で生産をしている911、718、タイカンの生産余力ができてきたのかもしれません。
また、718については一部(?)フォルクスワーゲンのオスナブリュック工場に生産委託していることもあり、余力がありそうです。
ま、部品の調達が正常化しているのにSUVが売れないのでお鉢が回ってきただけかもしれませんが。
下記に、911と718の世界販売台数の推移(グラフ)を掲載しておきます。
数字入りの詳細は下記にて掲載してあります。
【資料】ポルシェ ボクスター / ケイマン / 718シリーズの販売台数推移


ポルシェ、2024年は「Challenging」な年に
ポルシェでは、2024年は「Challengingな年」になると言っています。6つのうちの4つのモデルで新型に移行(しかも地域別に導入時期が異なる)するし、中国も引き続き厳しそうだから、ということ。
4つのモデルは、おそらくパナメーラ(23年11月発表済)とマカン(24年1月25日発表)、タイカンのビッグマイナーチェンジ(時期未発表)、911の後期型(時期未発表)のことだと思います。
パナメーラはシャシー回りの新機構(ポルシェ・アクティブ・ライド)搭載、マカンはBEVに、タイカンも改良型バッテリーの搭載と機構面でも気合が入っているので、生産の安定化、品質問題リスクなどを考えると数よりもしっかりと問題をつぶしながら市場に導入していく、ということなのだと思います。
いずれにしても、ポルシェにとっても激動の2024年になりそうですね。

(※)2023年の自動車販売台数は3,000万台超、15年連続で世界一(JETRO)
関連記事:【資料】ポルシェの販売台数推移










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