最近の車において空力は、非常に重要になっているようです。F1やプロトタイプカー、GTカーなどの競技分野においても、特にエンジンのレギュレーションが厳しいカテゴリにおいては、空力のちょっとした違いが競争力を分けたりしています。一般車でも、おなじみの燃費改善だけでなく、高速での操縦安定性などなど、空力の果たす役割はとても大きいようです。
そこで、今回はポルシェ 718シリーズの、主に空力にかかわるところに着目して、グレードごとの違いを見ていきたいと思います。
あくまでも素人が好き勝手に調べただけのものですので、その点はご容赦を。
ポルシェ 718ボクスター / ケイマン、空気抵抗は少ない?多い?
ポルシェ 718シリーズの空気抵抗係数(Cd値)は?
まずは、ポルシェ 718シリーズの空気抵抗係数(Cd値)、前面投影面積を見ていきましょう。
| Drag Coefficient(Cd) | Cross-sectional area A | Cd×A | |
| ケイマン | 0.30 | 2.01 | 0.603 |
| ケイマンS | 0.31 | 2.01 | 0.623 |
| ケイマンGTS 4.0 | 0.31 | 1.99 | 0.617 |
| ケイマンGT4 | 0.34 | 2.00 | 0.686 |
| ケイマンGT4 RS | 0.33 | 2.033 | 0.671 |
| ボクスター | 0.31 | 1.99 | 0.620 |
| ボクスターS | 0.32 | 1.99 | 0.637 |
| ボクスターGTS 4.0 | 0.32 | 1.98 | 0.634 |
| スパイダー | 0.34 | 1.98 | 0.672 |
| スパイダーRS | 0.34 | 1.97 | 0.67 |
Cd値は一番左に書かれた数値。0.30から0.34と、どのモデルも現代の車にしてはそれほど良くありません。(執筆時点での市販車最高はメルセデス・ベンツ EQSのCd値 0.20。Cd値は0.01かわるだけで燃費が2.5%変わるとか。)
空気抵抗を減らす上でよく言われるのは、リアの造形。天井を通ってきた空気とサイドを通ってきた空気をぶつけないためには、真ん中にエッジを立ててあげるのが良いと言われています。つまりリアの断面は四角形に近い方がいいのですね。そうしないと両方の空気がぶつかって巨大な渦を作ってしまう。
(ちなみに、空力で理想的なのは飛行機の翼みたいな形で、リアの落とし方もできるだけなだらかな方が良いとされています。そこで、プリウスのような「カムテール(コーダトロンカ)」のような形が出てくるようです)

カムテール(Wiki)
Cd値を追求すると、ポルシェではなくなってしまう!?
ただ、ポルシェの場合は911にせよ718にせよ、リアが丸みを帯びてなだらかに落ちるデザインにしている。空力のためにこのデザインを変えるとポルシェではなくなってしまう。ということである程度空力には目をつぶって「ポルシェらしさ」を優先しているのだと思います。

ケイマンとボクスターのCd値を比べると、ケイマンの方が若干良いです。(GT4はリアウィングがあるため空気抵抗が大きめ)。ボクスターの方が幌の後端がスッと落ちていてそこで渦が発生するためと思われます。

なお、前面投影面積(Cross-sectional Area)が大きいわけではないため、Cd×Aの値は0.7以内にとどまっています。
なお、ボクスター、ケイマンともに各モデル少しずつCd値が異なっているのは、リアスポイラーの形状はもとより、フロントのリップスポイラーの有無や開口部の形が異なるから、ということのようです。
ポルシェ 718シリーズの揚力係数は?
ポルシェは 718シリーズの具体的な揚力係数の数値を発表していないようです。ただ、先々代の987型ボクスターでは全体の揚力係数が0.16(フロント0.09、リア0.07)、981型は0.14(フロント0.08、リア0.06)と、少しずつ良くなっているよう。
リフトバランスについては「ポルシェ ボクスター ストーリー(ポール・フレール著)」によると、986型で、「リアの方がリフトが少ない(前32kg、後27kg)」、987型で「フロント側で25%、リア側で30%軽減」とあるように、代々リアのリフト量が若干少ない設計になっています。ちなみに、991型の911はRRのためリフトバランスを後寄りにしていて、リアはマイナスリフトにしているようです。
グレードごとの違い:まずはリアからみてみる
グレードごとの空力の一番の違いは、ダウンフォースの発生量からきていると考えてよさそうです。
サーキットで走ることをメインで考えると、超高速での安定性やコーナリング時の安定性を重視するため、リアのダウンフォースを強く発生させる必要があります。
それがケイマンシリーズにおけるリアウィングの形状の違いに現れています。また、当然床下の負圧を利用したダウンフォースも重要なので、リアディフューザーの形状も異なります。
一方で、空気抵抗は増す方向にあるので、燃費等には影響が出てきます。そこで各モデル、主要用途によって方向性を変えているということですね。
718ケイマン / ボクスター(S含む)のリア
718ケイマン / ボクスターのリアはベースグレード(スタイルエディション含む。以下同じ)からSまで同じ作りです。
下記は718ケイマン Sのリアです。どちらも一定速(120㎞/h程度)でリアスポイラーが立ち上がってくる形です。

下記は718ケイマン GTS 4.0のリアスポイラー周り。ベースグレードからGTS 4.0まで、共通です。

下記は718ボクスター Sのリア。通常はこのようにリアスポイラーは格納されていて目立ちません。ボディ下部はセンターにマフラーを出す形(ボクスターとボクスターSではマフラーの形状が違うだけ)。

718ケイマン / ボクスター GTS 4.0のリア
マフラー配置が換わる関係で、リアのバンパー下部はGTS 4.0になると形状が変わります。ディフューザーと呼べるほどのものではなく、ちょっと奥に行くと覆いはなくなります。ただ、垂直のフィン状のものもあり、若干は効果があるかもしれません。

718ケイマン GT4 / 718スパイダーのリア
718ケイマン GT4 / 718スパイダーはポルシェのGTプロジェクトが作った車で、よりサーキットに適するように、空力等が詰められています。718ケイマン GT4のリアはご覧の通り。大きなウィングが目立ちます。
プレスリリースによれば、この大きなウィングでリアのダウンフォースを先代比20%増加。

718スパイダーはこの通り。

閉じた状態でも、718ボクスターよりもリアスポイラーが上に反っているのがわかります。
リアディフューザーはこの通り。こちらは718ケイマン GT4、718スパイダー共通のようです(写真は718ケイマン GT4)。

プレスリリースによれば、「2本のサイレンサーがそれぞれアーチ状に独立したカバーを持つことで、リヤディフューザーのスペースが生まれ、その結果として718ケイマンGT4のリヤアクスル付近におけるダウンフォースは(先代モデル比)約30% 増加」とのこと。GT4はウィングとの組み合わせで200km/hでの走行時には先代比でダウンフォースが12kg増加するようです。
この718ケイマン GT4をはじめとするGTセクションのプロジェクト責任者であるアンドレアス・プロイニンガー氏のコメントが面白いです。
「リアに巨大なウィングを取り付けるだけなら誰でもできますが、Cd 値とダウンフォースのエアロダイナミック・バランス、さらにはエアロダイナミックによるグリップとメカニカルグリップのバランスを完璧に調和させるのは本当に難しいことなんですよ。100 kg のダウンフォースを得て、ニュルブルクリング北コースのスウェーデンクロイツで車輛がぴたりと路面に張り付き、かつ安定したレスポ ンスを示してくれるシーンを想像してみてください」
718ケイマン GT4 RS / 718スパイダー RSのリア
718ケイマン GT4 RSのリアはご覧の通り。
911GT3と同じように、スワンネックタイプのリアウィングになっています。ポルシェ911 RSR(WEC、IMSAで走っているGTカー)と同じ形のようです。


グレードごとの違い:フロントを見てみる
フロントセクションは、リアのダウンフォースの強さに合わせてバランスをとるために、各モデル少しずつ違ってきます。
718ケイマン / ボクスター(S含む)のフロント
こちらはシンプル。リップスポイラーはなく、一体成型のバンパーにリップスポイラーと同等の機能を持たせているようです。写真は718ボクスターです。

718ケイマン / ボクスター GTS 4.0のフロント
GTS 4.0は小さなリップスポイラーが付いています。これは4気筒のGTSの時から同じです。空気の吸入効率の変更のためフロントエアインテークの開口部に違いがあるので、諸々バランスをとるためかもしれません。

あと、フロントタイヤ前にあるフラップのようなものもベースグレードのものより大きめです。

718ケイマン GT4 / 718スパイダーのフロント
リアのダウンフォースが増すため、718ケイマン GT4 / 718スパイダーはベースモデルとはかなり異なっています。
まずフロントエアインテーク周り。フロントリップスポイラーがかなり前にせり出しています。
718ケイマンGT4。

718スパイダー。同じものですかね?

さらにフロントサイドは、通称「エアカーテン」が設置され、フロントからリアの流れを整流しています。写真は718スパイダー。718ケイマンGT4と共通だと思います。

フロントのエアアウトレット。フロントエアインテークから入った空気がここから出てきてダウンフォースを発生させているようです。
ちなみに、全グレードフロント下側にはエアアウトレットがあり、そこからも床下に空気が流れるようになっています。

最後にフロント床下。ゴルフボール大のディンプルが施されていて、小さな空気の渦を発生させて整流させているようです。
その他、さきほどのGTS4.0で見たフラップのようなパーツもさらに大きく凝ったものになっているようです。
718ケイマン GT4 RS / 718スパイダー RSのフロント
リアに比べると、一見718ケイマンGT4 / 718スパイダーとの違いは少ないようにみえます。

しかし、RSにはマルチ調節式のフロントディフューザーが付き、アンダーボディパネルも空力を最適化するよう変更、ボンネットにブレーキ熱を放出するベント、フロントサイド部にはフローアラウンドサイドブレード付フロントスポイラーリップが付き、と見えないところも含めてかなり変更が加えられているよう。ホイールハウスの後ろ側も、911GT3RSほどではないにせよ、内側に絞り込まれているのがわかります。ちなみに、「サーキット専用のパフォーマンスモードを使用すると、GT4よりも約25%大きなダウンフォースを発生」するとあります。



718スパイダー RSも、フロントセクションは718ケイマン GT4 RSと同じみたいです。
グレードごとの違い:サイドセクションを見てみる
サイドセクションは、各グレードでそこまでの差がないようです。後ほど見るサイドエアインテークにグレードごとの違いが見て取れます。
ドアミラーは空力に優れた形で、風切り音が小さいタイプ。写真は718スパイダーのもの。

グレードごとの違い:エアインテーク類をみてみる
サイドエアインテーク
サイドのエアインテークは、主にエンジン、トランスミッションの冷却用の空気を取り込むためについていますが、これはグレードによってちょっとずつ違います。
写真は718ケイマンのサイドエアインテーク。

こちらは718ボクスター GTS 4.0のもの(718スパイダーもこの部分はどうも同じに見える)。なぜ水平のフィン状のものが2枚から1枚になっているのでしょうか。

こちらは718ケイマンGT4のサイドエアインテーク。これは空気の流入量を増やそうとしていることが見て取れます。

718ケイマン GT4 RS。形は718ケイマン GT4と同じように見えますが、リアルカーボンに。ちなみに、インテークマニフォールドを通じてエンジンに直接空気を供給するプロセスエアインテークが追加されています。

フロントエアインテーク
フロントセクションのエアインテークは、主にブレーキ、ラジエーター、コンデンサー(エアコンの冷却用パーツ)の冷却に使われているようです。ラジエーターで冷やされた冷却水は、エンジンやエンジンオイルクーラー、PDKオイルクーラー(PDK車のみ)などに流れていきます。エアインテークから取り込んだ空気は大部分がそのままホイールハウス内に流れフロントブレーキを冷却する形になっています(今度写真を撮って掲載します。)。
ベースグレードとSは、エンジンが4気筒のため発熱量が少なく、開口部はちょっとだけ小さめです。

718ボクスター GTS 4.0。開口部が大きくなっています。コンデンサーむき出し。。

718スパイダー。

718ケイマン GT4 RS / 718スパイダー RSにはNACAダクトが付いています。

718ボクスター GTS 4.0:実際に走ってみた感じは?
私が乗っている718ボクスター GTS 4.0は、空力で見るとほぼベースグレードと同じです。
実際走ってみて思うのは、下記のようなことです。
・超高速(サーキットでは雨の日にECUからの値で230㎞/h以上)で走っていても、路面にピタッと張り付いていて全くビクともしない
・その時の音も、風を切っているビュービューという音は少なく、ゴーっという超高速時に目立っている音が中心で、それほど不快ではない
・高速コーナーで車が曲がる時などに風向きの変化によるヨーモーメントの変化を感じたことはない
特に、911と同様エンジンとトランスミッションを縦置きに配置している関係上ホイールベースが短く(2475㎜。ちなみにコンパクトなGRヤリスのホイールベースは2560㎜)、直進安定性には不利だと思いますが、メカニカルグリップ側のセッティングも含めて直進安定性に全く不安はありません。
超高速でハンドルがあいまいになってきたりということもなく、終始安定しきっている感じです。スポーツバージョンほどでないにしても、ほぼリフトが消されているためだと思います。燃費を犠牲にしない程度に、空気を操縦安定性のためにうまく使っているのだなぁと思います。
アウトバーンで安心して飛ばせることを主眼に置きながらも、そのままサーキットに行っても大丈夫なくらい、というところを狙っているようで、まさに万能選手といったところ。
今度ドライ路面で富士スピードウェイを走ってきますので、またレポートしたいと思います。
追記:富士スピードウェイで走ってみた結果→怖かった!
さっき書いたことは何だったのでしょう?
以前、ウェットの富士スピードウェイのストレートではメーター読み241㎞/h、ECUのデータで233㎞/hが最高。その時は「安定している」という印象でした。
ところが、今回ドライの富士スピードウェイで走ってみたところ、意外に怖かったことを白状しておきます。今回の最高速はメーター読み257㎞/h(オンボードコンピュータで記録された数値)、ECUのデータは録れませんでしたが恐らく248-9㎞/hくらいと思われます。
まずはストレート走行時の様子をご覧ください。
超高速(200km/h以上)ではもうちょっとダウンフォースがほしいかも
ちょっとわかりにくいかもしれませんが、(メーター読み:以下同)230㎞/hあたりから少しずつステアリングの修正舵が増えてきています。
そして254㎞/hからのブレーキング時にも200㎞/h前後に落ちたところで、やや左にふらっと揺れるような動きが。
実際の感じは下記のようでした。
・タイヤが飛び石やゴムのカスを噛んでいて、ストレートに入るとボコボコと跳ねるような感じがあって少し怖い(この日は速い車に道を譲るためかなり際(きわ)を走ることが多かったです)。
・230㎞/hくらいから上(スタートラインを超えるあたり)は、路面に張り付くような安定感が少し減ってくる。また、少し車が上下左右に振られるような動きがみられ始めた(動画だとわかりにくいが車はけっこう揺れている。ヘルメットの揺れも大きくなっている)。この日は少し風があったことも影響しているかもしれない。
・メーター読み255㎞/hくらいからブレーキを踏むが、その時少しだけ車が左右に揺れるため(ブレーキでサスペンションのジオメトリーが変わる)、フルブレーキングは怖い。200㎞/h以下になってくると車が安定感を取り戻してくるので、どんなブレーキをしても怖くなくなる。
やはり、200㎞/hを超える領域では、もう少しダウンフォースがあったほうが安心感が高そう、というのが正直なところです。
そこらへんはやっぱり、ポルシェらしく車をグレードごと、主要用途に合わせて細かく作り込んでいる感じでした(だからサーキットに行くと718ケイマン GT4 RSが欲しくなる。笑)。
この日の走りについては別途記事を書きたいと思います。










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