ポルシェ 718ボクスターと日産 フェアレディZ(RZ34)の比較、こちらも第2回はワインディングです。
第1回では、ワールドクラスの走りをする718と、伝統の味を追求するRZ34が、よく比較されるけど全然似てない、という話をしました。
いわばコンテスト酒と地酒。ワインディングでも興味深い違いがありました。
ちなみに、718とシビック タイプR(FL5)とのワインディングでの比較はこちらでしております。あわせてどうぞ。
【比較】ポルシェ 718ボクスター vs ホンダ シビック タイプR(第2回) ワインディング編:サラブレッドと下町ファイターが対決!
「比較実験」開始!
早速、比較実験に行きたいと思います。
718とシビック タイプR(FL5)の比較記事(第2回)にもあるとおり、比較自体はフェアレディZ(RZ34)を含めた3台で行っています。
ですので、比較メニューは前回の比較記事とまったく同じです。

「実験」概要
- 日時
- 2025年9月x日 11:00~16:00
- 場所
- 椿ライン(神奈川県道75号湯河原箱根仙石原線)上部
- 静岡県道20号熱海箱根峠線の箱根ターンパイク~箱根峠区間
- 天候
- くもり
- 気温
- 27度~29度の間
- 路面
- ハーフウェット
- 比較車
- ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0←今回の比較
- ホンダ シビック タイプR(FL5)
- 日産 フェアレディZ(RZ34)←今回の比較
- コンディション
- 比較実験区間に入る前に30分間、ほぼ同じ場所を走った後に乗り比べ(たんに駐車している場所から30分離れている、というだけの話です。笑)
- 空気圧は指定のとおり
- 荷物は積まない状態、残燃料はややばらつきあり(半分~3/4くらい)
- モードは718は「ノーマル」、RZ34は「Sモード(シンクロレブコントロールオン)」使用
- ESP(車両安定化装置)等はノーマル(フルに効かせる)
- 運転手一人(同一人物。体重70㎏)
- 普通の運動靴に素手といういで立ち
- 比較メニュー
- 1.直進路
- (1)時速50㎞/hでセンターから数度(~5度)のハンドル操作を行う
- 2.コーナリング
- (1)時速50㎞/hで長いコーナーを一定の舵角で走り抜ける
- (2)時速50㎞/hで長いコーナーを一定の舵角で走り抜ける際に不整路面を通過する
- (3)時速30㎞/h~50㎞/h(コーナーによって異なる)で様々な曲率のカーブを走り抜ける
- (4)コーナリング時に急ブレーキ→急アクセルで走り抜ける(シフトダウンも伴う)
- (5)コーナリング時に15度程度クイックな「切り増し」を行う
- (6)S字カーブを一定速で走り抜ける
- 1.直進路


718の身のこなしは?
内容はFL5との比較の中で詳しく述べているので、ここでは要約して掲載します。
- 1.直進路
- (1)時速50㎞/hでセンターから数度(~5度)のハンドル操作を行う
-
- センター付近のステアリングのアソビはほぼなく、ステアリングから反力がすくに立ち上がってくる。車も即座に反応するが、動き始めは穏やかに感じる。路面からのインフォメーション、セルフアライニングトルク(まっすぐに戻ろうとする力)はともに強め。
- 2.コーナリング
- (1)時速50㎞/hで長いコーナーを一定の舵角で走り抜ける
-
- ステアリングの操作フィールは重くもなく軽くもない。曲がり始めに合図のような手ごたえを感じる。ステアリングの操舵反力は一定。車のロールは少なく、内輪にも荷重が残る感覚が強い。
- (2)時速50㎞/hで長いコーナーを一定の舵角で走り抜ける際に不整路面を通過する
- 路面の荒れはステアリングを通して伝わってくるが、ステアリングの操舵反力に変化は見られない。舵角も一定で修正舵の必要はほぼない。サスペンションはさほど固めておらず乗り心地は比較的穏やか。
- (3)時速30㎞/h~50㎞/h(コーナーによって異なる)で様々な曲率のカーブを走り抜ける
-
- ステアリング操作~予知動作(ステアリングの手ごたえ等)~ヨーの立ち上がり~前輪のロールの立ち上がり~後輪のロールの立ち上がりの動きが常に一定のリズムで起こる。中速 vs 低速、上り坂 vs 下り坂、減速中 vs 惰性 vs 加速中どんな時でも回転の中心が常に一定の範囲に収まっているように感じられる。
- (4)コーナリング時に急ブレーキ→急アクセルで走り抜ける
-
- ブレーキングと同時に車全体が沈み込む感じ。ノーズダイブは極小。ブレーキは踏力でコントロールできるタイプ。エンジンの回転落ちが速く、ブレーキを一気に話しても姿勢変化が少ない。アクセルレスポンスも良い。アクセルを強めに踏んでもいきなり離しても姿勢変化が少ない。アクセルを徐々に踏み増すとフロントがイン側に入っていくような動きがみられる。
- (5)コーナリング時に15度程度クイックな「切り増し」を行う
-
- 瞬時にノーズがイン側に入り、揺り戻しがない。舵角は一定のまま。内輪に荷重に乗っている感覚が強い。
- (6)S字カーブを一定速で走り抜ける
-
- カーブから次のカーブに至るまで、車の動きがなめらか(いわゆる「一筆書き」のよう)。S字の切り返し(ゼロクロス)時点で車はきれいに静止しているよう
全体的に「動きが速いのになめらか」で、どのような入力(急ハンドル、急ブレーキとブレーキオフ、急アクセルとアクセルオフ)でも姿勢の変化が非常に小さい、という点が印象的です。

RZ34の身のこなしは?
718に対するRZ34の身のこなしはどうでしょうか?
こちらは、かなり違う、というのが率直な印象。
ただし、後に書くように、だから悪いとかそういうことではないので、その点ご注意ください。
- 1.直進路
-
- (1)時速50㎞/hでセンターから数度(~5度)のハンドル操作を行う
-
- センター付近のステアリングのアソビはやや大きめ。左右3度くらいはあるか?ただし車の反応も敏感ではないのでステアリングの手ごたえを感じ始める位置と車の動きはあっている。
- ステアリングは低速ではごく軽く、50㎞/hくらいで重みを増す。センター付近の保舵力も上がり、動かしにくくなる。少し動かすと、「壁」のような抵抗感が伝わってくる。
- 車はステアリング操作に対してそれほど鋭くない反応を見せるが際立った遅れは感じない。
- 路面インフォメーションの伝達は控えめ。一方低速ではEPS(電動パワーステアリング)が不整路を通過した際に保舵のアシストトルクを発生するためか、不連続なステアリング反力(手ごたえ)の変化を感じる。
- 2.コーナリング
-
- (1)時速50㎞/hで長いコーナーを一定の舵角で走り抜ける
-
- ステアリングの操作フィールは718よりは重め
- ステアリングを戻す力はEPSのアシストが強く、やや人工的に感じられる
- ロールはそれほど大きくないが、ベースグレードではかなり外輪が踏ん張って曲がる印象が強い
- (2)時速50㎞/hで長いコーナーを一定の舵角で走り抜ける際に不整路面を通過する
-
- 荒れた路面を通過するとEPSのアシストトルクがやや目まぐるしく変動する。路面のインフォメーションよりはEPSのアシストトルクの方が強く感じられる。
- 荒れた路面ではたまに舵角の変化がみられ、修正舵が必要になることもある
- 路面の荒れに対しては、ストローク量が大きめで比較的柔らかなサスペンションと特に伸び側の減衰力を抜いていると思われるダンパーセッティングによって、アタリは柔らかく感じる。ただし、そのため路面の荒れがひどい場合は上屋が「煽られる」ような動きを見せる時もある。
- 路面の荒れがひどいときはフロアが若干ブルブルと震えることがある。
- (3)時速30㎞/h~50㎞/h(コーナーによって異なる)で様々な曲率のカーブを走り抜ける
-
- ステアリング操作~ヨーの立ち上がり~前輪のロールの立ち上がり~後輪のロールの立ち上がりの動きはスムーズ。全体に穏やかだが立ち上がり方には統一感があり、リアが遅れてついてくるような感覚もない。
- 中速 vs 低速、上り坂 vs 下り坂、減速中 vs 惰性 vs 加速中などのバリエーションを試すと、その時々の運転条件によって回転の中心が前にあったり後ろにあったりといった違いを感じやすい
- (4)コーナリング時に急ブレーキ→急アクセルで走り抜ける
-
- 低速ではブレーキングと同時に車全体が沈み込む感じはある程度ある。一方下りでやや高く盛り上がった不整路面を越えた直後に強めのブレーキをする、などの悪条件ではリアサスペンションが伸びあがり、姿勢が不安定になることがある。
- ブレーキはストローク依存型。初期の効きが穏やかで、かなり奥に踏み込まないと効かない。
- エンジンの回転落ちは穏やかで、シフトダウンを伴うブレーキング中に回転が落ち切らないことがある
- ブレーキを一気に離した際に、回転が落ち切ってないと前に飛び出るような動きが出ることがある
- アクセルの踏み初めでスロットルが「ガバッ」と開き、その後ややレスポンスの悪い領域があり、3,000回転くらいからぐっと伸びてくる印象。
- アクセルを強めに踏んだ場合は、オーバーステアが出やすい。急に離した時の姿勢変化はそこまで大きくはない。
- (5)コーナリング時に15度程度クイックな「切り増し」を行う
-
- 一瞬車が外側の上方に微妙に動いた後に、少し遅れてぐっと内側に巻いてくる感覚がある。ややサスペンションストロークが大きく、全体に動きが大げさに感じる。曲がり始めるとと内側にやや巻きすぎる時があるため少し戻しの修正舵が必要な場合がある
- 外輪にかなりの負担がかかっているような感覚が強く、切り増してもその感覚は変わらない。
- (6)S字カーブを一定速で走り抜ける
-
- カーブから次のカーブに至るまで、急ハンドルだとやや外に振られてから内側に一気に引き戻されて反対側に倒れこむ感覚はある
- EPSの前述の「壁」があり、強い戻しトルクでステアリングがセンターに戻った後、反対側に切り込む際に引っかかりを感じやすい
- 舵角速度が一定以上だと気にならないが、緩やかなS字カーブのようなときにはEPSのトルク変動を感じることがある
こちらは全体にボディ、サスペンション、ダンパー、各種コンプライアンスブッシュなどがそれほど固められていないために動き始めが穏やかな印象。一方で、動き出すと少し大げさに動くので修正舵が必要になることがあった点も718やFL5と違うところ。とはいえ、穏やかな中にもリズム感はあり、気持ち良さを感じることができる点も印象的でした。
制御に関しては全般にEPSが積極的に介入してくる点が特筆すべき点として挙げられます。が、けっこうこうした介入の目立つ点が、制御を黒子に徹しさせて裏側で緻密に制御しているFL5との大きな違い。

718の「美味しさ」はどこから来るのか?(勝手な考察)
こちらについては前回のFL5との比較記事に詳細を書いてあります。
ここでは要約を載せておきます(内容は同じ)。
美味しさその1:素材の味が生きている!
ミッドシップらしさを生かしたコーナリングが特徴。
慣性モーメントの小ささを生かしたクイックなハンドリング
ハンドルをちょっと回すと車が即座に反応して曲がりだします。
重心移動の穏やかさを生かした「いつも同じ」コーナリング
ミッドシップレイアウトでは重量物が中心近くに寄っているため、フルブレーキングやフル加速での重心の移動が穏やかです。
フルブレーキングをして重心が前にある時のコーナリング、逆にアクセルをガンと踏んでからのコーナリング脱出、などいろいろ試してみても、いつも回転の中心が同じところにあるように感じられます。

美味しさその2:打てば響く!
車から剛性感が伝わってきて、しかも入力にすぐに車から返ってくる感じ。しかもスムーズ。
オープンを感じさせない剛性感
ボクスターのようなオープンカーで一番の問題は屋根がないことにより剛性確保が難しいこと。

しかし、718はそこを、
「フロアで剛性を稼げなくても、タイヤからステアリングまでの剛性を、支持剛性含めて突き詰める」
ことで解決しているように思います。
- 稼げないフロア剛性を、ハブ~ステアリングなどの各部の剛性で補う
- タイヤからハブ~サブフレーム~ラック~ステアリングといった各部の剛性を高めている
- タイヤのトレッド剛性、ウォール剛性
- ホイール締結部の面剛性
- 大きい鍛造ハブキャリア(911と同じ)
- サスペンション支持部の剛性強化やメンバー追加
- ステアリングシャフト剛性
- ギアボックス取り付け剛性
- etc…
- タイヤからハブ~サブフレーム~ラック~ステアリングといった各部の剛性を高めている
タイヤからステアリングに至る部分の剛性を上げて「剛結感」を出すことで、ドライバーの入力操作に対して遅れのない車の動きを引き出しているようです。
ひいては、ドライバーに「がっちりした車だな」という印象を与えることにもなっていると思います。


アソビ・フリクションの少なさ
アソビが少ないことによる「遅れのなさ」と、初期フリクションが少ないことにより「スッ」と動き始める感覚が得られます。
ポルシェの場合、動かしたくないものは徹底的に動かさない、動かす部分も最小限に(特に乗り心地との両立が必要な場合は電子制御で妥協点を上げる)、そして動き出しに引っかかりがないように、という点を徹底しているように思います。
具体的には、
- リジッドに近くなるエンジンマウント(PADM=ポルシェ・アクティブ・ドライブトレイン・マウント)
- 硬めの方向性ブッシュ(ある方向だけ硬くして動かさない、みたいな弾性が入力方向によって異なるブッシュ)
- 初期フリクションの少ない電子制御ダンパー
- ・・・などなど

結果として、下記のような効果が表れているように思います。
- 微小な操舵でも車が遅れなく「スッ」動くため、「粘ってからドン」というような動きが出にくい
- 車がスッと動き出すため、すっきりした感じがする
- たわみによる遅れや雑味がないため、「ダイレクト感」があるように感じる。また、車からのフィードバックが鮮明になる
美味しさその3:速いのに安定!
車の反応はクイックですが、動き始めは意外に穏やかで怖くない。
それには3つくらい効いている要素がありそう。
センターのギア比が穏やかなステアリング
ステアリングは可変ギアレシオを採用。ステアリングセンター付近のギアレシオはクイックではありません(15.0:1)。
これにより、ステアリングの動きに対して車はすぐ動き始めるが、その動きが穏やかなので怖くない、ということを実現しているようです。
コーナリング時のリアの安定感とロールの少なさ
際立つのはリアの安定感とロールの少なさ。
- ロールセンター(ロールをするときの仮想の回転軸)と重心との距離(ロールモーメントアーム)などを緻密に設計し、リアを安定させ、かつ不快なロールが起きにくくする
718の場合は、リアのストラット式サスペンションの取り付け部の工夫と、水平対向エンジンの重心の低さを利用して、ロールモーメントアームを極力小さくしているのだろうと思います。


姿勢変化の最大活用(エラストキネマティック)
そもそものロールの少なさに加えて、ブレーキング時やコーナリング時には、サスペンションのジオメトリー変化を使った設計(エラストキネマティック)によって姿勢が安定しています。
実際に体感できるのは下記のような動きです。
- ブレーキング時に安定したような感じ
- 横Gがかかった時に穏やかに内側に向かっていくような感じ
ひとつずつ見ると、、、
- ブレーキング時に安定したような感じ
リアサスペンションにおいて、外力に対して自然にリアタイヤがトーイン方向になるようにして、車両の動きを安定化。

これに加えて、いわゆるある程度のアンチダイブジオメトリーによって「つんのめり」を防いでいると思われます(981、991型になって「強めている」ようです)。
- 横Gがかかった時に穏やかに内側に向かっていくような感じ
初期応答:フロントサスペンションが縮んだ時(バンプ時とブレーキング時)にサスペンションのジオメトリー変化によって若干トーアウトになるため(10㎜バンプすると10分程度)反作用によって車が中に入るような動きが出る。
旋回時:キャスター角を大きくとっていることで、コーナリング時にサスペンションのジオメトリー変化(ネガティブキャンバーが増大)によって外輪の内側と外側が均等に接地するようになる。
曲がり始めた後:先ほどのフロントのバンプ時トーアウトによって弱アンダーが続くため「曲がりすぎて怖い」感覚がない。
美味しさその4:ストーリーが完璧!
コーナリングをするとき、だいたい下記の順番で進みますが、その順番とテンポが完璧。
- ドライバーがハンドルを切りはじめる
- 車が「操舵反力」としてステアリングに手ごたえを返す(車から「合図」が返ってくる)
- 車が向きを変えだす(曲がりだす=ヨーモーメントが発生する)
- 車のフロントセクションが左右に傾きだす(フロントのロール)
- 車のリアセクションが左右に傾きだす(リアのロール)
その理由は、
- 車の動きの「位相合わせ」が完璧
- ステアリング操作の入力に対して、EPSの反力→ヨーの立ち上がり→フロントのロール立ち上がり、リアのロール立ち上がりの動きが短い時間に、かつどんな状況でも常に同じリズムで立ち上がる
実走テストを繰り返して、どの順番・タイミングで車が動くとドライバーが安心できるか、徹底的に煮詰めている感じがします。

美味しさその5:ライブ感がある!
具体的には、ステアリングホイールに伝わってくる感触が「生々しい」。

718が良いのは、EPS(電動パワーステアリング)でありながら、いい感じに素材を吟味して生の手ごたえ感を出していること。
- 「手ごたえ感」が素晴らしい
- キャスター角が大きく(9度くらい?)、キングピン軸の傾き、キングピンオフセットもそこそこある

キャスター角が大きいことにより、下記の効果が得られます。
- (戻ろうとする力が大きくなるため)路面からの反力が大きくなり、結果としてステアリングに戻る情報量が増える(手ごたえ感が増す)
さらに、先ほどのキングピン軸の傾き、キングピンオフセットを適度に持たせることで、下記のメリットも出てきます。
- ジャッキアップトルク(ステアリング操作に対して車が若干持ち上がる動作)も鮮明に出てきて特にハンドル切り始めの手ごたえ感UPにつながる
一言でいうと、「生々しい手ごたえがビンビンに伝わってくる」。
電子制御でフィードバックに手を加えることができる時代ですが、ポルシェはあくまでも、サスペンションのジオメトリーとかそういった構造設計の段階でこうした手ごたえを出しているように思います。
美味しさその6:黒子の制御がまた良い!
ポルシェの制御は「あくまでもドライバーの操作が主役、制御は黒子」という感じです。
アナログな操作感を損なわない程度に介入しています。
- EPS(電動パワーステアリング)
- 余計なことをしない。路面から伝わる情報をあまりフィルターせずに伝える
- アシストのしかたもシンプル。低速域でもアシスト量が不当に増えることがなく、基本的に「ナチュラル」志向
- 一方で反力(≒手ごたえ感)に大きなムラがでないように制御マッピングはかなり緻密。「崖」がないように配慮
- 路面からのキックバックのフィルタリングなども基本はなくてスルーする。そのためノイズも含めて路面の情報はステアリングに返ってくる
- スタビリティマネジメントなどの電子制御が介入した時にEPSなどとも協調してドライバーに確実に伝える
- LSDとトルクベクタリング(PTV)
- なにも入っていないような自然な制御感(ないグレードと比較すると違いが判る)
この辺りの制御も、介入はかなり緻密に、連続的に行われています。
ポルシェは制御で「崖」を作らないことをすごく丁寧にやっている感じで(逆に危ないと知らせるときにはわざと「崖」を作っている)、ドライバーによる一連の操作に水を差さないように仕事をしてくれている、そんな感覚があります。
美味しさその7:減速・加速も自由自在!
減速時のブレーキはフィーリングも制動力も素晴らしいです。

- ブレーキは踏力でコントロールできるタイプ
- ストロークは短くて済む
- 制動力の立ち上がりは初期の噛みはそこまで大きくなく、踏力に応じてリニアに増えていく感じ

シフトダウンを伴う減速中にエンジンの方もしっかり回転が落ちるため、ちょっとブレーキを踏んですぐに離す、ようなときにも姿勢が安定しています。
加速時は、下記のような印象です。
- 「ガバッ」とスイッチオンするような感覚がなく加速が非常にスムーズで、微小なアクセル操作に「ついてくる」感覚
- おそらくベースとして吸気・排気抵抗が少なく「つまり感」がない
美味しさその8:「乗り心地」もいい!
718はワインディングで乗っていても乗り心地が良く感じます。
- 素性を生かす
- エンジンが前にないため前輪の支持荷重が少なくて済む
- →フロントサスペンションを固めなくて済む
- いなしを生かす
- 電子制御ダンパーを使ってダンパーの動きを可変制御
- 若干縮み側を抜くチューニングで乗り心地を取りに行く
- 上記チューニングで上屋の上下動を減らす
- →目線の上下動が少なくなる
- 可変エンジンマウント(前述)で、エンジンマウントの硬さを可変制御
- 一般走行時はエンジンマウントを若干緩めにして乗り心地を担保
- 電子制御ダンパーを使ってダンパーの動きを可変制御
などなど。ある意味変態的なまでに乗り心地に対しても配慮されています。

まとめ
コーナリングひとつとっても、個人的に718はかなり「理想的」です。
車の動きが素直で予測可能なので、安心してコーナーに入り込め、脱出できる。多少乱暴な動作をしても車はまったく急な動きをしない。そして望外な乗り心地と相まってリラックスできる。
それもこれも、718がミッドシップレイアウトを取っていることがすべての出発点のような気がします。どんな味付けをしても肉体のつくりからして違う―――正統派のサラブレッドであることは隠しようもない事実なのでした。
RZ34の「美味しさ」はどこから来るのか?(勝手な考察)
718がパーフェクトに美味しかったので、「地酒」のようなRZ34はどうなんだろう、と見てみると、「全然違う魅力がある」と感じます。
米の旨味が残り、雑味も残しているような癖があるお酒を「美味しくない」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、RZ34はどちらかというとそちらの方。
なので、たぶん嫌いな人は全く受け付けないんじゃないかな、と思ったりもするのですが。。。
私としては、この「癖強」なRZ34の魅力を言葉にできれば、と思ってこれから書いていきます。
※ちなみに、日産は他のメーカーと違ってメディア向けの技術紹介などの資料がウェブサイトに掲載されておらず、ウェブサイトの情報量も少ないのでほとんど手探りで書いています。こんなところも日産らしいなぁと思うところです。
美味しさその1:クラシックなFRの味が詰まっている!
718がミッドシップという素材の美味しさにあふれているとするならば、RZ34は、FR(フロントエンジンリアドライブ)という素材の美味しさにあふれている気がします。それも、短所をあえて消さずに「味」として残す形で。
これはまさに「地酒」的なアプローチに似ている気がします(Zの7割以上がアメリカで売れている、としてもです)。
フロントヘビーで豪快なFRスポーツカー
この車、ご存じの通りFRにしてはかなりフロントヘビーです。
私の車(ベースグレードのMT、BOSEサウンドシステム搭載)の車検証では前前軸重900㎏、後後軸重680㎏で、前後重量配分は57.0:43.0です。
この車が使っているプラットフォームはFR-Lというもの。フェアレディZでは2世代前(Z33)から使っています。その時の前後重量配分は53:47。当時の日産ではこの配分が加速時の姿勢が最も安定するということで、狙って作りこんできました。
Z34ではフロントヘビーになり、さらにこのモデル(RZ34)でエンジンの高出力化・ターボ化とそれに伴うボディ強化で重量配分がさらにフロント寄りになりました。

フロントの重さは、特に上り坂での加速時に現れます。少しでもハンドルを左右に切った状態でアクセルを少し深めに踏むと、簡単にリアが破綻しそうになり、VSC(車両安定化装置)が作動します。最近は怖いのでやってませんが。。。
そう、この感じ、クラシックなFR車のイメージに近い!「FR車はコーナリング脱出でオーバーステアが出やすい」という言葉通りの動きです。(重量物が前にあってそれを後ろから「押す」わけですから当然ですよね)
最高出力405PSのターボエンジンを載せたFR。そりゃ豪快です。VSCを切ったら簡単にお尻を振りそう。
―――ということで、乗り味は豪快なクラシックFRみたいな感じに近い。

古いFRスポーツカーはもっと前後重量配分が整っている?
でも、ちょっと待って!
古いFRスポーツカーで、前後重量配分が57:53の車なんてあったかな?(特に大パワーの車で)
というのも、昔からFRスポーツカーって重量配分命!みたいなところがあるからです。
昔:コーナー入口でアンダーステアが出てコーナー脱出で急激なオーバーステアが出るのはいやだ!→なので前後重量バランスを改善する!
これが王道でした。70年代にポルシェがトランスミッションをリア側に搭載して、エンジンからの動力をトルクチューブで伝える「トランスアクスル」というレイアウトを採用した例を見ても、重量物(エンジンとトランスミッション)をどこに載せるか?というのは車の運動性能を考える上で最重要テーマと言っても良いと思います。

その後高張力鋼板やアルミ合金が使えるようになったことで、素材を前後バランス改善に使う、などいろんな手法が出てきたようですが、とにもかくにも前後重量バランスは運動性能に直結するのでスポーツカーにとっては一丁目一番地!という点は変わりありませんでした。
そういう背景もあり、歴史上名前を残しているFRスポーツカーの前後重量配分をみると、「かなりいいバランス」の車が多いのでした。
技術の力でフロントヘビーなFR車を成立させている?
一方のRZ34は前後重量バランス57:53。歴史を紐解いてみてもFR車としては「かなり前寄り」だと思います。
だけど乗ってみると、そこまで前寄りの前後重量バランスとは思えない(というかちゃんと車として成立している)。普通のクラシックなFR車みたい。
前後重量バランスからすると本当はもっと派手に「コーナーインでアンダーステア、コーナーダッシュでオーバーステア(それ以前にトラクションがかからなくて車が前に進まなそう)」が出そうなのに、それをサスペンションジオメトリー設計の進化やダンパー、電子制御(トラクションコントロール等)で抑え込んでいる感じでしょうか?
結果的にはクラシックなFR車みたいなテイストは出ているのですが、じつは現代の技術があるから逆にこんなにフロントヘビーでもFRスポーツカーとして成立しているんなぁ、と考えるとなんだか不思議な車なのでした。
―――とにもかくにも、じつは現代の技術も活用しながら、クラシックで豪快なFR車っぽいテイストを獲得できているのだから、これはなかなかの魅力です。
美味しさその2:運転の上手下手を教えてくれる!
2つ目の美味しさは、運転のしかたで車の挙動が変わる、言い方を変えれば運転の上手下手がそのまま返ってくる、ところにあると思います。
718、FL5、RZ34。三者三様の車の動かし方
例えば718は、ミッドシップレイアウトの重心移動が穏やかな特性を生かして、どんな状態でコーナーに入っていっても、コーナリング中に何をやっても(加速vs減速、上りvs下り、切り増し、急アクセル・ブレーキなど)車が穏やかにしか動かないので安心感があります。
対するFL5は、電子制御ダンパーをはじめとする制御によって、重心移動をコントロールし、運転の補正すらしてくれる感じ。誰もが「運転が上手くなった」と感じられると思います。
それに対するRZ34は「そのまんま返します」。
自分の運転に合わせて車の動きが如実に変わる
先ほど書いたようにRZ34の前後重量バランスは57:43で、重いエンジンがフロントアクスルの上に乗っています。搭載位置に工夫はあるものの、絶対的に重いものが重心から遠いところにあるのは事実。
ただでさえブレーキングや旋回時の重心移動が大きいことに加え、この車は柔らかい脚(ベースグレードの場合)がその動きを増幅しています(下手な運転をすれば重心移動が「急」に起こる)。FL5が電子制御ダンパーを中心とした制御を駆使し、重心移動を穏やかにしようとしているのとは対照的です。
急ブレーキをしてコーナーに入ってそのままコーナリングに入ると、回転の中心が前にあり、そこを中心にドライバーを含めた「後ろ半分」は振り回される、ブレーキを離してアクセルをラフに踏んでコーナーを脱出しようとすると、回転の中心が後ろに行き、そこより「前半分」がつっかえ棒を失ったように頼りなく内側にグラッと入る、極端に言うとそんな感じです。
自分の運転(進入速度・アクセル開度・ブレーキ圧・舵角・舵角速度等)によって車の動きがこんなにも変わるということを教えてくれる車は、最近ではむしろ少ないと思います。
そして、ベースグレードにはLSDもトルクベクタリングもありません。ロールは大きくはないものの、ブレーキの抜き方とステアリングの切り方が雑だと外輪にほとんどの荷重がかかって、外輪の踏ん張りで車を曲げる傾向が強くなりますし、うまくやれば車が勝手に内側に入ってくる力を利用することができます。
車が「何もしない」新鮮さ
田村ブランド・アンバサダーが、今回のZでは新しい顧客を取り込むための新機軸を打ち出すことをあえてしなかった、というようなことをおっしゃっていましたが、まさにこの車はZファンに向けた車なんだろうと思います。
私見で何の根拠もないのですが、私より上の世代(還暦~70歳超えるくらい)の車好きは、私たちの世代より圧倒的に車の運転が上手い人が多いように思います(クラシックカーを走らせるイベントに行っても痛感しました。60年前のクラシックカーのリアを滑らせながらコーナーを駆け抜ける人たちが大勢います)
こういう熟練ドライバーが望んでいるのは「運転が上手くなる車」ではなくて、「うまい運転をするとそれを実感できる車」なのではないかな、と思ったりします。
だから、裏で電子制御がいろいろやってくれなくて結構。ブレーキが急なら車もぎくしゃくするし、滑らかに運転すれば車も滑らかに動く。
日産が「ダンスパートナー」と言っているのは、パートナーがすべて裏でうまいことお膳立てしてくれて、「一緒に踊っている自分がダンスが上手くなった」と感じられるような相棒ではなく、自分のリードに対する相手の反応を楽しみながら呼吸を合わせて一緒に踊る、「キャッチボールの相手」みたいな相棒なんだろうなぁと思います。
ちなみに、フェアレディZ(RZ34)のサスペンションに関する情報はこちら。私は解説できる能力を持ってませんが、さすがに20年間同じプラットフォームで車を作っているだけあってこの車の足回りは知り尽くしているんだろうなぁと思います。その人たちが、「あえて」この路線で車をまとめてきているんだろうと思います。
日産フェアレディZのサスペンションを眺めてみる(MotorFan)

美味しさその3:ヘタウマっぽい独特のグルーヴがある!
褒めてるのかけなしてるのかわからない!
でも、とにかくこの車には独特のグルーヴがあります!
タメの多いねっとりビート、その後はオーバーリアクション
先ほどのテストにおいて、急な切り増しをした時などに顕著ですが、この車はステアリングの動きに対する車の反応が穏やかで、良く言えば、タメがある。悪く言えば、ちょっと眠たげ。かつ動きはやや複雑で雑味が多いです。

具体的には、
- ハンドルを急に切り増すと、一瞬上屋が外かつ上方に振れてから大きく内側に切り込む
ステアリング入力からタイヤの操舵を変えた時に、上屋はまだまっすぐ行こうとして、ワンテンポしてから急に内側に入り込むような動きになります。
おそらく、サスペンション→サブフレーム→上屋と力が伝わる経路にアソビが大きいことと、ダンパーの伸び側の減衰力が低めなことなどがありそうです。
こんなところにも日常の乗り心地にかなり配慮しているところが垣間見られます。
一瞬上方に動くように感じられるのは、ジャッキアップトルク(ステアリングをちょっとだけ切った時に車が持ち上がる現象。キャスター角等が大きめだと出やすい)の影響もあるかもしれません。
同時に複数の動きが起こるため、目線がふわっと不規則にずれやすく、ちょっとだけ混乱します。(ここの書き方がやや曖昧なのも、ちゃんと現象を捉えられていないからだったりします)
フロア剛性も若干弱さが感じられるため、全体に入力に対する反応にシャープさはなく、おっとりした感じ。

そしてサスペンションが柔らかなこともあり、そのあとはオーバーリアクションしてきます。少し思った以上に車が動いてしまう感じ。「あれ、外に行く?→あれ、中に入りすぎる!」と修正舵。
右にステップ踏むよ、というと一瞬左に向かってフェイントをかました後にグイっと右に大きくステップを踏んで戻ってくる、極端に言うとそんな癖を持っていらっしゃいます。
一言でいうと、フロントの収まりはちょっと良くありません。
- ブレーキ、アクセルも独特のグルーヴ
ブレーキもちょっとコツがいります。ベースグレードは片押しタイプなのでなおさらかもしれません。

あまり踏力では効いてくれない感じで、しっかりブレーキを奥まで踏み込む必要があります。さらに初期の噛みもかなり穏やか。奥まで踏むとやっと「お、効いている」となります。
ここまでで通常に比べて余計に時間がかかっています。
なので、ブレーキは少し早めに!

そしてアクセルを踏むと、「ドカン!」。一気に燃料噴射!そしてターボが噴き出します。
この車、スカイライン400Rと同じエンジンなのですがセッティングは別物らしいです。
アクセルを踏むとコンパクトカーみたいに「ドカン」とアクセル開度が上がります。すっと前に出すのがとても苦手。
そして3000rpmまで「あれ、鈍い?」という領域があってから一気にドカンとターボチャージャーが噴き出してトップエンドまで回ります。
これがなかなかの暴れ馬で、豪快で面白いところはあるのですが、丁寧に乗るのが難しい。
独特のグルーヴはある
そんな感じでいたるところに「癖」があるのですが、これがめちゃくちゃで支離滅裂な動きかというと全くそんなことはありません。
ちゃんと、ステアリングの入力~車の動き出し(ヨーモーメント立ち上がり)~フロントのロール~リアのロールの流れはスムーズで破綻がありません。
よっぽど下手な運転をしない限り、「あれ、ほんとにこの車フロントヘビーなの?」と思わされることはありません。
ただ、ちょっとだけタメてくる、その上でオーバーにやりすぎる、そんな感じなだけです。
これが狙ったかのようで憎い。ほぼ、プロのヘタウマセッションバンドみたいです。
ビートがちょっとタメ気味で、なんかノッてない?と一瞬思うものの、そこに絡み合うベースがまた輪をかけてタメてくる。そこになんだか「あってるんだかあってないんだか」わからないようなキーボードが盛大に入ってくるんだけど、全体聴いてみるとあら不思議、なんかすごい独特のグルーヴがあって面白くない!?みたいな、そんな感じです(え~、何かわかりにくい??)。
いずれにしても、この車はかなり「乗り心地」重視(しつこいようですが、ベースグレードの場合です)。電子制御ダンパーのような、シチュエーションによって最適化するようなデバイスを入れていないため、乗り心地と走行安定性の妥協点を上げることができない中でのこの選択。
当然、遅れや揺り戻しというものは一定程度出てきます。でもその出方には統一感があるので(一部ない部分もありますが)、その癖はちゃんと予測できるし、こちら側がそれに合った動きをすれば気持ち良く「踊れます」。
要は、少しスローな応答に合わせて、少し早めに予備動作(ちょっとハンドルを切る)を入れつつじわっと(「急」は厳禁!)動かすとあら不思議、めちゃくちゃ呼吸が合っている気がする!というわけです。
ブレーキもややスローに奥の方で効くので、早めに、かつ強めにかける、そしてブレーキをスーッと抜きつつ穏やかなハンドリングを心掛け、スーッとアクセルを踏み込む(これが超難しいのですが)、ということをすればピタッと呼吸があってくると思います。
美味しさその4:乗り味が優しい!
全体に漂うのは、「乗り味の優しさ」。
まずは室内空間が静か。RZ34ではタイヤの静音対策も含めて音対策はやっているようです。

フロントフェンダー後部への遮音壁の追加、ピラー内への発泡式の遮音材追加(空洞を伝わって届くロードノイズを低減するのに効くそう)などなど。
若干こもり音のような感じはあるものの、絶対的な音量が少なく、平和です。

そして柔らかめのサスペンションとダンパー。モノチューブダンパーにしたのもピストンの微速領域から減衰力を立ち上がらせることができる(要は応答が速い)ことでピーク減衰力を上げなくて済み(機械式ダンパーの場合どうしてもピストンスピードに対する減衰特性が線形的にしか変化しないため、ピストンスピードが遅い領域の減衰力を上げようとするとピークも上げなくてはならない)、その分を乗り心地や路面追従性の向上に振っているようです。
なので、アタリは柔らか。

もちろんひどい悪路などでは上屋の動きが若干遅れて出てきたり、サスペンションとダンパーが路面の凹凸を吸収しきれずに上屋が煽られたりする動きが出ますし、フロアがぶるっと震えたりして必ずしも快適ではないのですが、それでも普通に乗っていれば「けっこう快適で安楽」。
この「肩肘張って頑張る」のとは関係ないようなリラックスムードも、この車の魅力の一つだと思います。
まとめ
走ってみると、718やFL5とは全く違った魅力を持った車だということに気づきます。
現代の技術を駆使しながら、クラシックなハイパワーFR車みたいにダイナミックな動きをするところ、そして車の素性を、短所も一緒に残して料理して個性を際立たせているところ。しかも電子制御や制御デバイスを使った「補正」を極力しないため、ドライバーの入力に対する応答が素直(下手な運転をすればそのまま返ってくるし、上手な運転をすれば応えてくれる)。
乗り心地重視のため動きにシャープさはなく、反応もやや鈍く感じるものの、そこには独特のグルーヴがあるので、うまく合わせられれば無上の喜びを得られる。

そして静かでリラックスして運転できる。
こんな感じで、「誰でも速く安心して走れる」車とは全く別の、「個性あふれる素材の味を楽しみながら、独特のテンポと戯れる」、まさに地酒のような(!)車だと感じました(お酒を飲まない方には何のことかわからないですよね。すみません)。
RZ34を楽しく走らせるには?
今見てきたように、RZ34は、その個性を無視した運転をするとなんだか引っかかるところが多く、楽しくありません。
では、どんな運転をすると特に楽しく感じられるのでしょうか。
私なりに走って感じたことを書いておきます。(と言ってもまだ2,000㎞弱です)
この車は重心の移動が大きくてしかも急に動くので、ドライバーとしては「Gメーターで真円を描くような運転を心がける」のが一番気持ち良いと思います。
具体的にはブレーキも少しだけフルブーストにするのではなくコントロールしつつ、舵を入れながらスーッとブレーキを抜いていく、車の動きが落ち着いて慣性だけで曲がるようなところまで一瞬待ってからじわっとアクセルを入れていく(このタイミング合わせが重要!)、舵角は一定で、徐々に戻しながら加速。
―――まさに教科書通りなわけですが、そうしてやるとホントに素直に車が動いてくれることがわかります。今回の比較実験でやったような走り方はNG(知っててやったんですけどね)。
そんなこんなで、制御などの小細工なしに、車の素性―――レイアウトや重量配分が持つ短所も―――そのまま生かしている車なので、自分の運転に対して素直に返ってくる、上手な運転をすればちゃんと返してくれる、そんな車だと実感します。
そんな点がむしろ現代には新鮮で、夢中にさせるところがあるのではないかな、と思います。

とはいえ、RZ34には気になるところもある
RZ34、本格的なスポーツカーを期待していた人から見ると「ちょっとがっかり」な車みたいです。私は、一応コンセプトは理解した上で買ったつもりなので、大方予想通りでした。
全体的におっとりした応答性やフロア剛性の若干の弱さ、切り増しした時のフロントの収まりの悪さなど、確かにスポーツカーから見ると物足りない部分もあるのでしょうが、これはこれで味があっていいんじゃないの?と思います。もちろん穏やかさの中に変に位相があってない急いた動きがあると気になるものですが、波長がそろっていれば気持ち良く感じるためです。
エンジンについては、「やっぱいいなぁ!」と思いますし、一番惹かれたデザインについても、見るたびに「よしよし」とにんまりします。

とはいえ、気になるところもあります。2点、ヘタウマなグルーヴに「ちょっとあっていない」と思うところを書いておきます。
アクセル踏み始めにガバッと出すぎる
一つ目は、先ほども書いたアクセルを踏むと「ガバッ」と出すぎる現象。
ちょっと昔のコンパクトカーのような味付に感じます。コンパクトカーでは出だしのきびきび感の演出上の理由と、それ以上にアクセルをしっかり踏めないドライバーを想定して、最初の出足を「アシスト」する目的で、アクセルを踏む量に対してわざと踏み始め初期のアクセス開度を上げていました。
でも、RZ34のようなハイパワーの車には不要な演出では?と思います。全体に穏やかな車の動きに対してアクセル開度だけがバリバリ頑張ってしまう感じもあり、この車のキャラクターをちょっとスポイルしていると思います。
全体にゆったり動かして、踏むと3,000rpmくらいから目覚める、みたいな味付けだったらもっと品が良くて二面性も感じられて魅力的なのに、と思いました。
EPSの制御がおせっかいすぎる
いまだに捉えどころのないのがEPSのセッティング。気になるのは低速域だけです。
(ちなみにRZ34から電動式になっています。「リニアな操舵特性を得られるようにセッティング」と謳ってはいます。)
- センター付近の不感帯とその両脇の「壁」
- センター付近にルーズな領域(不感帯)を設けていて、ステアリングをぶらぶら動かしても車が動かない領域がある(高速域になるとEPSが保舵をしてしっかり感が増す)
- 左右3度くらい(?)切ると、突然反力が強くなる「壁」が立ちはだかる
- 「過干渉」
- 不整路でステアリングがとられそうになるとEPSが断続的に保舵トルクを変えているような感覚がある
- 高速走行時の「直進アシスト」?
- 高速走行になるとかなりセンターの保舵を強める傾向がある

まず、センター付近の不感帯と壁について。特に緩やかなS字カーブを抜けるときに、一つ目のコーナーからステアリングを戻そうとするときにセンター付近で「ふっ」と手ごたえがなくなります。そしてその「ぐにゃっ」とした領域を数度反対側に回すと、突然手ごたえが重くなり、跳ね返されるような動きになります。
連続するS字カーブなどではこの動きが速いので全く気にならないのですが、遅くて緩やかなS字カーブでは、この反力の不連続な感じがけっこう気になります。
次に、不整路を通過する際のアシストトルクの変動。前述のような長いS字カーブで路面が荒れている場合。ずっと同じ舵角にステアリングを保持していても、急にステアリングが重くなったり軽くなったりするのを感じます。まるで車線逸脱規制のアシストが入ったような感覚。
いまだにどういうロジックで動いているのかわからないのですが、いずれにしても「過干渉」のような気がします。
718の場合は路面の荒れがあればそれをそのまま伝えてきますし、FL5は「軸力フィードバック」という特殊な制御で、違和感のないようにステアリング反力を「補正」しているようです。RZ34はどちらとも違います。まるで路面からの入力をドライバーの入力と「勘違い」してアシストしているのでは?と思うような微妙な制御をしてきます(センサーの数が少ないのかも。バネ下にセンサーを入れてない?)。
最後に、高速時の直進アシスト(?)について。この車は車速が上がるとEPSの保舵力が増し、どっしりしてきます(切る際の抵抗も増す)。ミニバンのような背の高い車に対して施す味付けに近いと感じられ、個人的にはスポーツカーには不自然だなぁと思います。
全体的にEPSは制御マップが粗く(速度に対する感応度が高く、急激にアシスト特性が変化するため「崖」を感じる)、味付けも街乗りの乗用車みたいでかつ過干渉に感じます。
ステアリングはドライバーと車との最重要インタフェースと言ってもよく、この出来不出来は車の印象をガラッと変えてしまいます。車とのコンセプト合わせもしっかり合わせた上でしっかり作りこみしてほしかったなぁと感じました。
まとめ
気になる点はどちらも制御に係る部分。日産の中ではハードウェアの担当が力を持っているからなのか、制御の部門に「走りながら鍛える」文化がないのか、部門間の連携がなくて、車を作るときにもソフトウェア領域のものは「出てきたものを使う」みたいになってしまっているのか。
ハードウェアは一つの方向にまとまっているので、制御の部分もきっちりと作りこんでもらえたら全体の魅力はもっと高まるだろうに、ちょっと惜しいなぁという気持ちになるのでした。
第2回のまとめ:RZ34は地酒らしい魅力に溢れていた
日産 フェアレディZ(RZ34)、ワインディングで走らせてみても個性的でした。
一言でまとめると「長所も短所もひっくるめて心にグッッッッッっとくる車(だけど万能スポーツカーらしさを期待したらダメよ)」という感じです。
実際はそれほど圧迫感のないシートに包まれて、グイっと加速したら気持ちいい。コーナリングも上手に運転できれば楽しい。
ここら辺がちょっと難しいところで、話題になったクラシックなデザインと、誰でも楽しめる「ドカーン」というパワフルなエンジンがある一方で、走りに関してはわりとプレーンな車で車が何もしてくれないので、上手な運転をすると楽しいのに下手な運転をすると楽しくない。
そういう意味では(今時珍しく)乗り手に技量を要求する車なんだろうと思います。
(「意のままのハンドリング」とか「切ったら切っただけ正確に曲がる」「足裏に吸い付くようなレスポンス」みたいな常套句で片付けるとミスリードしてしまう車だと思います。)
そのあたり、ジャーナリストを含めてちゃんと魅力を伝えられている人が少ないのかも、と思いました(私も甚だ自信がないですが。)
個人的には、伊豆スカイラインみたいな景色の良い、カーブがそんなにきつくない道をリラックスして走るのが一番楽しいかな、と思いました。


第3回は、街乗りやユーティリティなど、日常使いでの比較をしてみようかなと思います。










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