すみません、取り乱しています。近くのディーラーにポルシェ 718スパイダー RSの新車同然の中古が入庫し、心乱れてしまいました。

現状購入を断念しましたが、未練を確実に断ち切るべくここに書いておくことにしました。とはいったものの。さて、どうなることやら。

ポルシェ 718スパイダー RS
ポルシェ 718スパイダー RS。入庫した車と同じような仕様をコンフィギュレーターで作ってみました。笑

GTS 4.0乗りから見たポルシェ 718スパイダー RSの魅力

そもそもなんで718スパイダー RSに惹かれたか、そこから書きたいと思います。

ポルシェ 718スパイダー RS

やっぱり9000rpmまで回るエンジンが魅力

やはり一番はこれです。これを、背中のすぐ後ろに搭載しているという幸福。そしてその音をオープンで聴けるという至福。もう、後にも先にもこんな組み合わせは出ないのでは?と思わせる、奇跡の一台と言ってもいいと思います。

ポルシェ 718スパイダー RSのエンジン
ポルシェ 718スパイダー RSに搭載される水平対向6気筒エンジン

GTSに比べてショートなギア比のPDKもいいなぁ

そのエンジンを、7速のPDKで味わうわけですが、このギア比がRS専用でショートになってます。後ほどどれくらいショートなのかは見てみますが、この組み合わせは夢想しただけでも魅力的。かなりの頻度でこのヒューンと回るエンジンの高回転サウンドを楽しむことができます。

ということで、今挙げたのは2つだけですが、ほかにも足回りの魅力など盛りだくさん。でも全部取り上げると収拾がつかなくなるので、今回はエンジンとトランスミッションだけ、しかもその一部気になったところだけ触れてみたいと思います。

ポルシェ 718スパイダー RS
ポルシェ 718スパイダー RSのトランスミッション
RSモデルはシフトノブがMTみたいな形状(写真は718ケイマン GT4 RS)

718スパイダー RSのエンジンの魅力を分解してみる

この水平対向6気筒自然吸気エンジン(911 GT3、911 GT3 RS、718ケイマンGT4 RSなどに搭載されるエンジンと同じ)は、ご存じの通りモジュラー設計エンジンで9A2Evoというネームのついたもの。すべてのポルシェの水平対向エンジンはこのファミリーです(4気筒ターボから6気筒ターボまで。正確には9A2も含む)。

ポルシェの水平対向6気筒エンジン(9A2)
ポルシェの水平対向6気筒エンジン(9A2)。モジュール設計を示す図

軸間距離が118㎜と広いのが特徴で、ボア(シリンダーのピストン内径)は91㎜または102㎜、ストローク(行程)が76.4㎜か81.5㎜。この4パターンのいずれかの組み合わせで、5つの異なる排気量クラスができています。

排気量だけでいえばRS用のエンジンは私が持っている718ボクスター GTS 4.0と同じ。ボアが大きいほうの102㎜、ストロークが長いほうの81.5㎜ということで、ポルシェの水平対向エンジン搭載車としては最大排気量(51㎜×51㎜×π×81.5㎜×6気筒=3,995cc)。

でも、中身は相当違っています。何が具体的に違うのか、見ていきましょう。

ちなみに私はエンジンのことは「全くわかりません」。専門的過ぎてわかりません。ですので、めちゃくちゃ表面的だと思います。ご容赦ください。

エンジンの具体的な変更箇所は?

各モデル(718スパイダー RS、718ケイマン GT4 RS、911 GT3、911 GT3 RS)のプレスキットや各メディアが部分的に出しているポルシェの技術情報をもとにまとめるとこんな感じ:

① 独立スロットル(ITB=Independent Throttle Body)

GT3/GT3 Cup などと同じ 気筒ごとに独立したスロットルボディ

  • 6 気筒それぞれに、独立したスロットルボディを持つ→各気筒の吸気量を精密に制御でき、空気供給および燃料噴射の精度が向上
  • スロットルボディが吸気バルブのすぐ近くに配置される→スロットルとバルブの間の空気容量がほとんど存在せず、アクセル操作に対してエンジンがほぼ遅れなく反応
  • Spyder RS 専用の上部吸気経路を持つ→すごい音がする!!

こうした工夫によって、アクセルに対するレスポンスの遅れを極小化しているわけですね。高回転回るだけじゃない、というところがすごいところ。そして専用の吸入経路によってあの独特の吸気音がしてくるというわけです。

ちなみに、このエンジンには可変リフト機構(バリオカム・プラスのプラスの部分)が入っていません。可変リフト機構はバルブのリフト量を可変にすることで、高回転時の出力と低回転時のトルクを両立するために使うものですが、このエンジンはできるだけ機構をシンプルにして(低回転を捨ててでも)高回転時の安定性を取りに行っているようです。


② 鍛造チタン製コンロッド

  • 超軽量チタンロッドを採用→往復運動の慣性を低く抑えることでレスポンス、回転の伸び、耐久性のすべてを向上

これが9,000rpmを継続的に回すことを可能にする決定的な要因になっていそうです。ちなみにGTS 4.0 はスチール製。後ほど別途触れます。


③ 軽量鍛造アルミピストン(低摩擦コーティング)

  • シリンダー内での摩擦損失を極端に減らす
  • 高回転領域での熱変形・潤滑保持に強い
  • ピストンピンも軽量化されている

④ 高強度軽量鍛造クランクシャフト

  • 量産の9A2Evo比で明確に軽量化されている

後ほど詳しく。


⑤ リジッドロッカーアームによるバルブ駆動

  • 通常のハイドロリックリフター(バルブとカムの間の隙間(バルブクリアランス)を、油圧を利用して自動的にゼロに保つ機構)を使わない(代わりに手動調整式)→高回転や高Gで油圧が抜けることがない

高回転になるとバルブの開閉があまりに速くて、油圧による調整が追い付かなくなるそうです。そうなると油圧が上手くかからず抜けたりして不安定になるため(高Gによるオイル偏りでも起こる)、レーシングカーでは、こうした手動調整式にするそうです。

調整はだいたい2万㎞から4万㎞ごとだそう。24バルブすべてに対してシムを使って計測して調整するようです。大変なんですね!!


⑥ 高G、高回転環境に耐える専用設計の強化バルブスプリング

これも高回転・高負荷でもバルブサージング(カムにバルブが追従しなくなり、バルブが意図しないタイミングで振動してしまう現象)を起こさず安定して作動するように工夫してあるようです。


⑦ ドライサンプ・潤滑構造(別体タンク式)

  • 本物の別体オイルタンクを持つフル・ドライサンプ
  • 7つの吸引ステージで常に油圧を一定に保持
  • 2G近い横Gでも油膜が切れない

ここはGTS 4.0用の「(一時的にオイルパンを使う)セミ・ドライサンプ」とはだいぶ違う部分で、完全にレーシング仕様。


⑧ 鍛造クランクケース(アルミ合金)

クランクケース剛性を取るために専用設計。


⑨ 高流量の専用ウォーターポンプ/オイルポンプ

GT3/GT3 Cup 用の高流量ユニットと同じ。

  • オイルポンプは多段式+高吐出
  • ウォーターポンプも高冷却

⑩ 排気系

  • Spyder RS 用に長さ・容量を最適化した排気マニフォールド
  • ダウンパイプ/サイレンサーが専用の軽量チューン

こうしてみると、同じモジュールを使いながら、吸気から排気、オイル潤滑や水回りまで、必要な系をすべて高回転・高負荷に合わせて適合し直していることがわかります。

ポルシェは適当に手を入れると性能が落ちる、とよく言われますが、エンジン回りひとつにとってもしかりだなぁと素人ながらに思います。そりゃそうだ、こうして全体の系を見直して最適化しているわけだから、単純にECU書き換えて、みたいなことでは逆にいろんな逆効果が出てくるだろうなぁ、ということをぼやーんと考えてしまいました。(ちょっとECUチューンもやってみたいなと思ったこともありまして。)

コンロッド・ピストン・クランクシャフトの軽量化によって何が変わる?

そもそもどれくらい軽くなるんだろう?

スケベな私、やっぱり具体的な数字でイメージしたくなります。

コンロッドがチタン製に変わるとどれくらい重量が変わるのでしょうか?

いろんな資料を見て推測してみます。

・4.0Lのスチール製コンロッド:570g-630gくらいか?(6本で3.6㎏±0.2㎏)

・チタン製コンロッド:430g-440gくらいか?(6本で2.6㎏±0.1㎏)

(初代NSXなどでもチタン製コンロッドを採用していましたが、そもそも特殊鋼と比べ比重が約60%と言われています。一方、鉄の方がチタンよりヤング率(剛性)が高いため、鉄の方が肉厚を薄くできることから、スチール製とチタン製のコンロッドを比較するとおよそ70%くらいの重量になると推測しました。なお、Pankl(パンクル)社の4.0LのGT3エンジン用で430-440gという記事を見つけたのでだいたいあっているかと。GTS用については複数の生成AIに問い合わせたところほぼ同じ数値(推測値)が返ってきています。)

つまり6本合計で1㎏くらいも軽くなっていることになります。

ピストン類も6セット合計で150-200gだとは思いますが軽量化されているはず。

次にクランクシャフト。

クランクシャフトの重量は車の部品の中では極端に重く、重い車では20㎏くらいある車もあります(例えばLexus LFAのV型10気筒エンジンでは18.7㎏)。

水平対向エンジンは構造上クランクシャフトの長さが短いため、おそらく14-15㎏くらいなのかなと思います(ポルシェの古い2.0L4気筒のクランクシャフトが8.1㎏、3.2L6気筒(M96系エンジン:最後の空冷)モデルで18㎏、スバルの2.0L4気筒エンジン(型式不明ですがEJ/FAという表記あり)で9.2㎏という数値も参考にしてます)。

このエンジンでは極限まで肉抜きしたレーシング用のクランクシャフトを使用しているので、おそらく2㎏くらいは軽量化されているのではないでしょうか?

ということで、➁、③、④のエンジンの高回転をつかさどる回転系の基幹部品で3㎏くらいの軽量化が行われているのではないかと思います。

どんな違いが出てくるのか?

たぶん、これだけ高速に回転する物体の質量が3㎏も軽くなっていると、体感的にもかなり違うのではないかと思います。

・アクセルに対するツキが全然違ってくる(1.5倍くらい鋭くなる感じ?)

・アクセルを緩めた時の回転落ちも全然違って、RSはエンジンブレーキが一気にかかったような感じになる

・シフトダウン時のブリッピングが「バァーン」という感じではなく「ビンッ」という感じに短い破裂音のようになる

そんな感じで、回転慣性の違いがこんな風に現れてくるのではないかと思います。

9,000rpmの世界を覗いてみる

そもそも9,000rpmってどれくらいの速さでさっきの回転部品が回っているのかをイメージするために、ピストンスピードで比較してみました。

ポルシェ 718スパイダー RS、GTS 4.0ともにストロークは81.5㎜。

レブリミット(RSで9,000rpm、GTS 4.0で7,800rpm)でのピストンスピードを比較すると下記。

車種ストローク(㎜)レブリミット(rpm)平均ピストンスピード(m/s)
RS81.59,00024.45
GTS 4.081.57,80021.19
BRZ (ZD8)86.07,50021.50
タイプR (FL5)85.97,00020.04
S21086.06,00017.20
S40175.07,40018.50

RSは24.45 m/sと圧倒的。レーシングカーの領域ですね。

それに比べると、GTS 4.0は21.19 m/sとスポーツカーっぽいちょうどよさ。

そこから見ても、両車の性格の違いは明らかに感じられると思います。

ちなみに、じつはBRZ / GR86の方がGTS 4.0よりも平均ピストンスピードは高い。

さらにおまけで往年の名車(!)ホンダ S2000はなんと25.20 m/s。このエンジンのストロークは84.0㎜とホンダらしくロング。それにもかかわらず9,000rpmを許容していたわけですから、変態エンジンと言われたのも無理ありませんね。

718スパイダー RSのトランスミッションの魅力を分解してみる

ショートなギアレシオ

トランスミッションはPDKのみ。ギアレシオは専用です。GTS 4.0モデルとどれくらい違うのでしょうか?各車速での2速での回転数を比較してみました。

 GTS4.0RS
402,5373,075
503,1713,843
603,8054,612
704,4395,381
805,0736,149
905,7086,918
1006,3427,687
1106,9768,455

ご覧のように、時速100㎞/hで比べてみてもその差は歴然。

GTS 4.0が6,300rpmで「ここからあと一押し」というところでRSはすでに7,700rpm近く。GTS 4.0のレブリミット近くの回転数に達しています。

これは、気持ちいいだろうなー!!

その他にも変更が?

トランスミッションについてギアレシオ以外にはユーザインタフェースについてしか書かれていませんが、おそらくこの超絶レスポンスのエンジンのことを考えると、フライホイールの質量も違って当然。

GTSモデルでもPDKのスポーツ+モードの変速はめちゃくちゃ速い(ローンチコントロールを使うとシフトショックもガツンと来る)ので、PDKの機構自体はギア比以外の変更がないのかもしれませんが、フライホイールを軽量化することでさらに体感上、変速の「キレ」が感じられるのではないかと思います。

じゃあGTS 4.0ってどうなの?

ここまで調べてみてから、私の持っているGTS 4.0のエンジンを見ると、「なんかフツー」。

でも、じつは普通なことも大事なんです!

まずは、GTS 4.0のざっくりしたエンジン・トランスミッション周りの仕様を見てみましょう。

GTS 4.0のエンジンの特徴

乗り味にかかわりそうな部分を拾ってみました。(番号はRSの項で振ったものに対応しています)

ポルシェ 718 GTS 4.0の水平対向6気筒エンジン
ポルシェ 718 GTS 4.0の水平対向6気筒エンジン

① 個別スロットル(ITB=Independent Throttle Body)はない

個別スロットルにすることで、先ほど見たような超絶レスポンスを手に入れることができるわけですが、代償として、ちょっとした足の動きでもエンジンが即座に反応し、回転が上がったりスパッと落ちたりと忙しくなります。雑なアクセル操作をするともろに車から返ってきます。そうすると、雨だったり渋滞だったり、街中の走行だったりという時にはけっこう苦痛かも?

GTSは普通のスロットル機構を持っています。

そして、バリオカム・プラス。今の車には普通についている、吸気側は可変バルブタイミング+可変リフト、排気側は可変バルブタイミングの組み合わせです。

このオーソドックスな組み合わせで、低速での豊かなトルクを稼ぎつつ高回転にも対応する(ただしECUのセッティングもあり7,800rpmまで)、という狙いです。

➁コンロッドは高強度の鍛造スチール

こちらは普通の鍛造スチール。もちろん、コストダウンだけでなく、メンテナンス性も考慮したもの。チタンのコンロッドは表面の摩耗対策などのメンテナンス管理がよりシビアになるため、GTSのように普段使いをする車には採用しないようです。

それでも、耐久性と軽量化のバランスを取った肉厚設計など、ポルシェらしさは満載です。

④ 高強度軽量鍛造クランクシャフト

先ほどのGT3 / RSエンジン用とは違うものの、基本設計は高回転・高負荷用。クランクシャフトメインベアリングの径は67㎜とのこと(50-55㎜の車が多い)。これによって回転軸の「軸受剛性」が高まり、高回転でもクランクが揺れずに回りやすくなる。

⑤ バルブ駆動はハイドロリックリフター(油圧式バルブクリアランス調整機構)付きロッカーアームで行う

普通の車と同じ機構を使用。

バルブとカムの間の隙間を油圧を使って常にゼロにしているため、冷間時や低トルク時などでもぎくしゃくした動きや振動、メカニカルノイズが出にくい(逆にRSのエンジンはそうした「滑らかさ」を犠牲にしても高負荷時の回転の安定性を取りに行っている)。

このようにして、街乗りや車の走り始めでも車が滑らかに走るようにしているのですね(というかこれが今の車では普通で、RS用のエンジンはこういったことをすべて「割り切って」高回転での安定性に照準を合わせている)

GTS 4.0のトランスミッション周りを見てみる

MTはデュアルマス・フライホイール。やはりエンジンからの振動の伝達を嫌い、滑らかさを優先していそうなチョイスです。PDKはモードによってATみたいな感じから変態的な速さの変速まで制御で対応しているようですが、おそらくフライホイールはRSよりは慣性の大きいものを使っていると思います。

718 GTS 4.0モデルのPDK
(本文とはちょっと関係ありません)718 GTS 4.0モデルのPDK

狙いは扱いやすさと滑らかさ。GTSモデルはGTカー的な、普段使いでの疲れなさ、ということを大事にしているように思います。

GTSモデルは、「慣性」をうまく使って人の感覚になじませている

「慣性」によって得られるもの

こうしてみると、GTSモデルが、乗っていて自然、乗っていて疲れない、ちょうどいい感じの車の動き、と感じられるのは、「慣性」をうまく使っているからだと感じます。

慣性はある種、スムーサーのようなもの。変化を穏やかにする効果があります。

フライホイールの慣性を少し大きくすることで、アクセルのオンオフに対する動きを「滑らか」にする、スロットルも(RSの)アクセル操作に呼応して吸気バルブのすぐ近くでスロットルが開いて一気にリッチな空燃比にして、、、というのに対して、ちょっとの「間」を伴ってじわっと連続的に立ち上がる、コンロッドもスチール製で重く回転慣性が大きいため、回転上昇も回転落ちも人が心地よいと感じるくらいには穏やか―――。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0

慣性が適度にあると疲れが少ない?!

車が電光石火&即物的に反応するのではなく、慣性によってちょっとした「間」が入る、そして変化が穏やかになる。そうするとどうして「疲れなくて」「ちょうどいい」という感じになるのでしょうか?

1つ目は、その方が脳の「予測モデル」に沿っているから。

脳は常に次に起こることを予測して操作をしている(フィードフォワード)ので、実際の車の動きが脳の予測モデルと一致していると「心地よい」とか「安心」とか「しっくりくる」と感じる。逆に、自分の入力操作に対して、車から返ってくる反応が予想外だと(たとえばアクセル操作に対して思ったよりも加速する、など)「予想が外れた」と困惑してしまう。

「予想が外れた」となると、脳はもう一度予測しなおして修正の操作(修正舵など)をする。この過程で脳を酷使するので「疲れる」というわけです。

GTSは、慣性を使って車の動きを穏やかにし、脳の「予測モデル」を逆なでしない(例:アクセルを踏んだらこれくらい加速するだろう、という予測通りに車が動く)=心地よさを生み出しているのではないかと思いました。

(それに対して、RSの場合は、慣性を極限まで減らそうとするので、「超絶なレスポンス」「超絶な回転落ち」「回転変動が大きい」など、普通のドライバーの脳の「予測モデル」を裏切るような動きが満載。そのたびに、脳は「僕の予測は間違ってたのか」と何度も予測をやり直すことで疲れてくる)

2つ目は、情報量が減るから。

ちょっとした操作に対して逐一車が反応すると、そのたびに脳はフィードバックを受け取り、予測モデルに反していると再計算して、みたいなことを繰り返します。脳は変化点を敏感に察知するので、ちょっとしたアイドリングの回転数変動とか、そういったものにも反応してしまいます。なのでこのGT3 / RS用のエンジンのようにいちいち操作に対して反応したり、低負荷時の回転数がラフに動いたり、メカニカルノイズが発生するような特性を持っていると、情報過多になって脳は疲れてきてしまうわけですね。逆にGTS用のエンジンだとそのあたりの変化が慣性によって「滑らかに均される」。そうすると脳は、まああんまり変わってないから何もしなくていいや、と怠けることができる。

GTSは、ここでも慣性をうまく使って滑らかさを作り出すことで、脳に与えるノイズ情報を減らし、結果として脳が「心地よさ」を感じるようにしているのではないかと思いました。

2台が見せる、異なる快楽の世界

こうしてみると、718ボクスター GTS 4.0の場合は、車造りが「車の反応が人間にとってどう感じるかどうか」というところを基準にしているように思います。

それに対して、RSはレーシングの世界。とことんまで慣性を減らし、入力に対して遅れなく物理的に正確に反応することを目指しているように思います。そして、鍛えられた人間が一生懸命神経を研ぎ澄ませてその情報を受け取り、速く正確に捌く。そういう世界なのではないかと。

GTSモデルは先ほどの慣性の大きさを利用して滑らかさを増すことで「予測可能な世界で情報量も適度=リラックスして心地よさを感じながら運転できる」。

逆にRSの場合は物理が正義→容赦なくメカニカルノイズ含め情報を発信してくるので、疲れるけど快感!みたいな感じ。

GTSとRSではそんな違いがあるように思えました。

(註:とはいえ、GTS 4.0も市販車の中で見れば「スポーツカーのど真ん中」というような車です。あくまでもRSという激辛モデルと比べると穏やか、という話なのでその点は誤解なきようお願いします。)

718スパイダー RSで得られるもの、718ボクスター GTS 4.0で得られるものを空想してみる

そろそろまとめに入ります。

こうしてみると、718スパイダー RSと、718ボクスター GTS 4.0で得られるものはずいぶん違っているように思います。

718スパイダー RSで得られるもの(夢想)

ポルシェ 718スパイダー RS

・超絶レスポンスの高回転エンジンの刺激

入力に対する車の反応が超絶速い。アクセルを踏めば、針がどんどん上に跳ね上がる。ツキの感覚はGTSの1.5倍くらいか?速すぎて人間が気持ち良いと思える速度を超えることもあるかも。アクセルを緩めれば鋭い回転落ちでエンジンブレーキで体が前に投げ出される感じか?(オンボード映像を見ても面白いくらいにタコグラフが動いています)

・常に高回転で咆哮するエンジン

ギア比がショート(低い)ので常にエンジンが高回転をキープして気持ちが昂る。吸気音もすぐ近くでするのでスリリング。ちょっと難聴になっちゃうかも!PDKのダウンシフトもカミソリみたい。こりゃすげー!(快感に溺れる)

ちょっとした粗い運転がすぐに車の動きに跳ね返ってくる。ちゃんときれいに走らせるよう、集中しないと!うん、うまく運転できた。でも疲れたー!!

そんな感じで、RSを走らせている時は空気が張り詰めた感じがするんじゃないでしょうか?短期決戦のスポーツ(体操とか、100m走とか)をやっている時のような緊張感がありそう、と夢想するのでした。

718ボクスター GTS 4.0で得られるもの

・万能ぶりを発揮する相棒

行きは渋滞、しかも雨。でも楽ちん(「滑らか」な運転感覚)。

あ、雨が止んだ。オープンにするぞ!(走りながら9秒で完了)。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0

峠道、ハーフウェット。少し濡れてたって行っちゃうもんね。ミッドシップの俊敏な身のこなし、いい!(走ればスポーツカーとしても一級品。ノーマルタイヤなのもいい)

林道?ちょっと入ってみよう。(最低地上高もそこまで低くない)

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0

長い高速の帰り道。運転して帰るのちょっとかったるい。でも、意外に疲れない(適度な「慣性」で脳が怠けられる。GTカーとしての本領発揮)。

そして往復600㎞、いつもの通り無給油で帰れた(燃費がいい。タンク容量も大きい)

今日は会社。車小さいからこの車で行こうっと(日常扱うのにちょうどいいサイズ感)。

ポルシェ 718ボクスター GTS 4.0

ということで、何か突出したものがないけど、逆にいつもそばにいて出すぎない相棒のよう。これが「日常楽しめるスポーツカー」であるポルシェのもう一つの顔だと思うのでした。

まとめ:718スパイダー RSはボクスター GTS 4.0の上位互換ではない!

ポルシェには「モータースポーツ」の山と「日常を豊かにしてしてくれるGTカー的スポーツカー」の山があるように思います。RSは前者、GTSは後者。

登る山が違うので、装備も違う。RSにはレーシングカーのように回る高回転型エンジンがある。代わりに、600㎞無給油で帰ってこられるような燃費も、9秒で開閉するルーフも、雨や渋滞みたいなところでも静かにゆったり走れるフレキシビリティもない。

「速さ」のために、多くのものを潔く捨て去っているわけですね。

RSはGTSに+100PSの全部盛り、とりあえずこれ買っておけば間違いないよ!(金があればね)みたいな世界ではありません。

そこがポルシェのすごいところ。GTカー的な扱いやすさをもったモデルでひとつの頂点をつくりつつ、覗きたい人には公道でもモータースポーツの世界を覗かせてくれる。その代わりそちらは激辛。

そう考えると、やっぱり両方持ちたくなっちゃうでしょ!?片方を手放してもう片方の世界に入るなんて私にはできないのでした。(あれ、なんか話が違う方向に行ってる?)

おまけ:718スパイダー RSを断念した個人的な理由

個人的に躊躇したのは、幌問題(RSの幌は開け閉めが面倒)と給油問題でした。

ポルシェ 718スパイダー RSの幌(ソフトトップ)

ちなみに日本向けのWLTC燃費は発表されてませんが、EU向けで、718スパイダーRSは13.0L / 100㎞。だいたい7.6㎞ / Lです。718ボクスター GTS 4.0は9.6L / 100㎞。だいたい10.4㎞ / Lです。日帰り500-600㎞のロングツーリングをする私にとってはこの差はけっこうデカい。うちのGTSは無給油で帰ってこられるのに、それがRSはほぼ無理だろう、となるとやっぱり同じ役割は厳しい。

そんなことを左脳で考えつつ、お店で実車を見せてもらって、やっぱりこんな唯一無二の組み合わせ(あのエンジンとオープンエアとミッドシップ)は絶対に味わいたい、と心動かされながら家に帰ってきて718ボクスター GTS 4.0を走らせようとしたその時。

マンションの駐車場には、同じ区画に止めたい車がやってきて私が出庫するのを待っていました。ん、ちょっと右後輪危ないかな、いや行っちゃえ、と出庫したところ、「ガリッ」(いや、普通前進でそりゃないだろうとお思いでしょうが、じつはうちの駐車場はですね、、、←話が長くなるので省略)。帰ってきてホイールを見たら、この前取り換えた新品のホイールにガリ傷をつけてました。

718ボクスター GTS 4.0のホイール交換の顛末はこちら

これじゃ左ハンドル+マグネシウムホイールの718スパイダー RSは無理!!と潔く諦めたのでした。(お店で見させていただいた車の仕様がそれだったんです)。

なんで中古は左ハンドルばっかりなのか、などの話をしだすと長くなってしまうのでこの辺でやめておきますが、とにかく、この一件はわが相棒の718ボクスター GTS 4.0が私の浮気心を察知して、身をもって諫めてくれたとしか思えません。

わかったわかった、君を手放すなんてしないから(でも将来的に増車はしたい)、とガリ傷にしょげつつもちょっと吹っ切れた気持ちで家に帰ったのでした。

しばらく、718スパイダー RSはお預けです。

おまけその2:718ケイマン GT4 RSに同乗体験させてもらった!

先日、友人の718ケイマン GT4 RSに同乗させていただきました。納車直後のシェイクダウンです。

(※718ケイマン GT4 RSはクローズドボディ、718スパイダー RSはオープンなので違う車ですが、搭載するエンジンは同じで足回り等もセッティング以外は基本同じ。そのため、ここで掲載させていただきました)

最初の衝撃は、やっぱり「」。

その印象は、「YouTubeの走行動画などで聴いていた音そのまんま!」というもの。肩の後ろから、ものすごい吸気音がしてきます。室内のこもり音がほとんどない、つんざくような鋭い音。そりゃそうだ、エンジンの上に張り巡らされた吸気管と室内の間には、隔てるものがありません。すなわち、取り込まれる空気の音は、ほぼダイレクトに聞こえていることになります。

今回は6,000rpmまで体験させていただきましたが、5,000rpmを超えると音は一気に大きくなり、会話するのもやや困難。

が、ほんとのことを言うと、難聴になるくらいなのかと思っていたのでその期待値からすると「普通に耐えられる!」

ま、私が持っている1959年製のカニ目の方が絶対的な音量(大部分風切り音ですが)は大きいかもしれないくらいなんで、「ちゃんとコントロールされた騒々しさ」というのが当たっていそう。

音質にいやなところがないのも、上記の感想が出てくる要因。低回転域の音も思ったほどざらついていないので、どう走っても気持ち良い。

音に関しては上記の通りですが、驚きだったのは「エンジンの振動がほとんど伝わってこない」こと。エンジンの存在感は確かに大きいのですが、振動はなくキュイーンっときれいにエンジンが回っているようで、排気の脈動などもほとんど感じられません。まぁとにかく滑らか。

それと、私の感覚がおかしいだけなのかもしれませんが、助手席での乗り心地の良さも特筆ものでした。ダンパーセッティングは最初ソフト、後半はハードで走ってくれたのですが、ハードで走っても車の跳ねる感じが全くありません。路面の細かい凹凸はしっかりわかるものの、ちゃんとサスペンションが「いなしている」のがわかります。それでいて路面にはマグネットのように張り付いている。

やっぱり現代のハイパフォーマンスカーってすごいんだなぁ、と感心しました。

そして、助手席に乗っている限り「ぎくしゃく」とした動きは全く感じませんでした。もっと急にエンジンブレーキがかかったり回転変動があって扱いにくいのかと思ったら、少なくとも助手席ではそんなことは感じられず。こりゃドライバーが上手なのかな?

と思って運転席をちらっと見ると、ドライバーはなんだかうれしそう。

この車、何歳まで乗れるか自分の健康寿命との戦いになりそう、でも意外といけるかもな、なんて変なことを考えてしまいました。

同乗体験させてくれて、ありがとうございました!

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