メルセデス・ベンツ W126(300SE)、2022年3月に納車されてから早いもので2年3ヶ月経ちます(レビューはこちら)。乗ってみて想像通りだったのか違ったのか、そして現代の車と比べてどんなところが違うのか、そんなことを徒然書いてみたいと思います。
メルセデス・ベンツ W126との2年半
メルセデス・ベンツ W126は、私が小学校の時に、父の海外赴任で旧西ドイツに住んでいた時に乗って感激し、何時かは乗ってみたいと思っていた憧れの車です。そんな車をついに2022年3月に入手し今に至ります。
乗ってみてどうか、というと「想像以上」。語彙不足ですみません。
アクセルを踏んだ時に滑らかに回るM103エンジン、ゆったり深くストロークしながら決して路面を離さない粘る足、コイルスプリングの入った何とも懐かしい感触のあるシート、いつまでたっても見飽きない当時の最先端「空力ボディ」、カチッと金庫のように閉まるドアと、それを支えるドアキャッチャーなどなど。
そんな個別の魅力もさることながら、乗っていると「ああ、いい車だなぁ」と思わず声が漏れ出てしまうような、何とも言えない魔力があります。
これって温泉に入っていて思わずため息が漏れる感じに近いかもしれません。これを「成分が●●で体に良く、全面桧で作られた湯舟と相まって××」といくら説明したところで、なかなか魅力が伝わらないのと似ていてとてももどかしいです。
W126を外から見てみる。どんなところが現代の車と似ている?似ていない?
W126は1979年のフランクフルトモーターショーで発表され、1991年まで販売されていた車。1980年代は最初から最後までずっとこの車、売られていたんですね。
1980年代の車というと、何もかも四角くて、薄くて(背が低くて)、何もかも現代の車と違う感じがしますが、メルセデス・ベンツ W126はどうでしょうか?
ベンチマークになったプロポーション
まずはW126の先代モデルに当たるW116を見てみましょう。W116の発売は1972年ですから、日本でいうと4代目クラウンの頃ですね。著作権がクリアできているサイドビューの写真が見当たらなかったので、後ろからの写真で。

ああ、なんとなく安心できるプロポーションです。1970年代初頭にしては新しい感じではありますが。
これがW126になるとこんな感じ。

すぐわかるのはリアデッキ(トランク)周りの高さ。現代の車並みに、高くなっています。
真横から見るとこんな感じ。ウェストラインが後ろに行くほど持ち上がっていくというのは、当時のサルーンにはないものでした。リアウィンドウもかなり寝ていてリアデッキに侵食しています。

フロントも左右のヘッドライトが後退して、空気の流れをスムーズにしようとしていることがわかります。



徹底したフラッシュサーフェース化
さらに、ステンレス製のモール類も一見W116と同様ですが、突起がほぼなくなってフラッシュサーフェイス化しています。
この車が登場したのはオイルショックの後。風洞実験を繰り返し、当時量産車トップのCd値(0.36)をたたき出したボディは、現代の量産車の空力の基礎を作ったとも言われています。そういう意味では、現代の車と違うようでいて、意外に近いところもある、そんなデザインだと思います。当時出たときは相当斬新だったようです。
と、またこんなことを延々と話したくなってしまうのもW126だからこそ。


W126に乗り込んでみる。現代の車との違いは?
エクステリアデザインは当時の技術の集大成のようなものですが、乗り込むと「クラシック」な感覚。
Aピラーの細さに始まる前方視界の良さ。そして何といってもステアリングホイールの大きさ。非常にシンプルな計器類。ホールド感のないシート。(でも、座ってみると腰回りの作りが現代のメルセデス・ベンツのシートと似た部分があることに驚きます)


じつは「ユーザーが新型に乗り換えても操作に戸惑うことのないよう、この時代のメルセデスは敢えてデザインや機能に旧型との連続性をもたせていた」(「メルセデス・ベンツ 名車たちの系譜」)そうです。
もちろん、ナビをはじめとする大きなモニターはありません。
ということで、インテリアは現代の車とはだいぶ違う印象。




W126の走行感覚
ステアリング・アクセル・ブレーキ
運転してみても、やはり現代の車とはだいぶ違います。
まず驚くのはゆったりと回る、リサーキュレーティングボールのステアリング機構。パワーステアリングはついているものの、それなりの操舵力を必要とします。そして今では乗用車にはほとんど見られなくなったこの機構、まさにバスのような感覚で大きくステアリングホイールを回し、舵を切る感じで車を曲げていきます。
そしてアクセル・ブレーキの重さ。アクセルはしっかり踏まないと加速していきません(ATの発進は2速がデフォルト)。ブレーキもかなり踏力をかけて止めていく感じ。どの入力動作にも力が必要なので、それなりにしっかりした姿勢で運転しないと危ない。

今の車と違って電子制御デバイスはほとんどありませんので、ドライバーが車からのインフォメーションを受け取り、繊細に車をコントロールしなくてはいけません。そのため入力は誰でも繊細なコントロールができるよう、ある程度ストローク(動作量)も力も必要としていたのかもしれません。

足回り
現代の車との違いを一番感じるのは足回り。
コーナーリングのロールもとても大きく、ぐわっと外側を沈み込ませながら曲がっていきます。タイヤの扁平率(65%)と相まって、本当に優しい乗り味。最近はセダンであってもこういう優しい乗り味の車は少なくなりました。


一方、サスペンションはまさに路面に「吸い付くよう」に動き、ボディを揺らすことなく車をフラットに保とうとします。
サスペンションはソフトかつかなりのロングストロークで、まさに路面をなぞるように動きつつ、ダンパー(ビルシュタイン製)がしっかりとバネを収束させています。

このサスペンションとボディの動きは、当時のメーカープロモーション動画でも公開されています(下の動画の1:24頃から)。けっこうおもしろいのでぜひご覧ください。
1978年プリプロダクションメルセデスSクラスw 126 – テストと証明(Old Mercedes TV)
下記、画面は横に伸びてしまっていますが、より長尺でW126の安全技術等が詳しく紹介されています(重複場面アリ)。
メルセデス W126開発(Old Mercedes TV)
意外な俊敏さ
先ほどのステアリングホイールといい、扁平率の高いタイヤ、ロングストロークのサスペンション、5mを超す巨体といい、これだけ聞くとさぞ後席に乗ると快適だけどドライバーは苦痛を強いられる退屈な車なのでは?と思われるかもしれません。
でも、比較的良好な前後重量バランス(54.7:45.3)と、おそらく各部のしっかりとした取り付け剛性も相まって、ハンドルやアクセル・ブレーキの動作量の大きさとは裏腹に正確なボディの動きをします。車から伝わってくる情報も過不足ないのでしょう(ロールなども穏やかに起こるため、次にどういう動きをするか予測しやすい)、ドライバーがきちんと対処すれば想定通りに車が動いてくれます。
その昔ニュルブルクリンク北コースをW126で走っている一般人の動画がありましたが、こうした車とのコミュニケーションがきちんとできる車は意外にも運転しやすいものなのだなあと感じます。(まさかこんな人がいるとは、という感じではありますが。。絶句)
Mercedes-Benz W126 300SE on the Nurburgring. BTG: 10:21

リアが不意に振り出す、みたいなじゃじゃ馬とは真逆の安全一点張りのセッティングですが、これはこれで安全への強い意思が感じられて頼もしく感じます。
直進安定性は?
キャスター角はかなりあるかんじ(海外のフォーラム記事を見ると10度とあります)。
下の写真のように、舵角を最大にした場合にタイヤが倒れ込んでいることからもそのことがわかります(ちなみにこのおかげでメルセデス・ベンツは伝統的に車の小回りが利く)。
それでも、リサーキュレーティングボールのステアリング機構のせいか、そこまでバシッと直進していくイメージはありません。


この走り味、どんな人に勧められる?勧められない?
現代の車の「クイック」で「アクセルを踏むとレスポンス良く」「太いトルクが瞬時に立ち上がりブワッと加速」して、「ロールもせずにすっと向きを変えていく」感覚が好きな方には正直勧められないかな、と思います。(某中古車屋さんのレビューでも、この車「遅い」とか「煽られそう」とか散々言われていましたが、そういう車です)
でも、車がしっかりと状況を伝えてきて、それに対して次の操舵情報を丁寧にインプットしていく、その作業がひとつひとつ順を追って行えるのはとても魅力的だと私は思います。そういう、車とのアナログな対話が好きな人には、きっと気に入ってもらえるのでは?と思います。
W126から現代まで続く、メルセデス・ベンツの安全思想
メルセデス・ベンツといえば、やはり安全への取り組み。古くから実車を使ったクラッシュテストを実施しており、その取り組みをカタログにも掲載してきました(当時は、安全への取り組みがなかなか販売には結びつかなかったようですが)。
クラッシャブルゾーンを設けて乗員を守る、という取り組みを始めたのもメルセデス・ベンツだと言われています。

そのあたりについては別の記事に書いていますが、この2代目Sクラスでも世界初のオフセットクラッシュ対策、SRSエアバッグの量産化などが行われています。ABSの本格的普及が始まったのもこのモデルから。私の車にもABSはついています。

実際に車の作りを見ても、フロントエンジン後方のバルクヘッドは二重構造になっていてエンジンと電装系の部品が隔離されていたりと、様々な工夫が施されています。

そういったところだけでなく、ユーザーインターフェースに人間工学の知見を取り入れて、非常に合理的に操作系や情報出力インターフェースを整理しているところもすごい。このあたりの考え方は今のメルセデス・ベンツにもちゃんと反映されています。

W126にみられる素材と仕立ての良さ
我が家のW126、登録から35年経っていますが、内装は本当にきれいです。樹脂パーツの劣化も最小限です。
この頃のメルセデス・ベンツはこうした樹脂素材の調達先も日本をはじめ数社に絞っており、耐久性等の厳しい要件をクリアしたところからしか調達していなかったそう。W126の中古車はおおむねきれいな状態のものが多いですが、大切に乗られていたことはもちろんのこと、こうしたメルセデス・ベンツの厳格な品質基準による部分も大きいと思います。
ちなみに、電装品(アンテナ、カセットデッキあたり)はナショナル(現パナソニック)のものが目立ちます。
ステアリングホイールの革は1枚ものを使っているようで、合わせ目は1か所だけ。今こんなことをしたら怒られてしまいそうですね。。

木目調ではなく、本木目。反りやすくて割れが入ることが多いのが難点ですが、我が家のは今のところ大丈夫です。

この時代のモール類はステンレス製のようです。現代のメルセデス・ベンツのモールはアルミニウムにアルマイト処理をしているもので、日本の環境下では白サビが出やすいですが、W126はそういう煩わしさはあまりないようです(もちろん、ステンレスも錆びますが)。
ウィンドウの内側までモールが入っていて、贅沢なつくりであることがわかります。

加工精度も高く、内装の合わせ目からのビビり音もほとんどしません。ディーラーの方もおっしゃっていましたが、今は世界中のどこの工場でも作れるように、部品の許容誤差もある程度大きく、どうしても異音が発生しやすいとのこと。
一方、この時代のメルセデス・ベンツはドイツの熟練工による組み立てを前提として、部品の許容誤差も今よりも少ないようです。古き良きメルセデス・ベンツを感じるポイントはこんなところにもあるのですね。
W126の維持について
そんなW126ですが、維持は今のところ超楽です。
昨年の定期点検でも交換したのはヘッドカバーガスケットのみ。その前の年の車検での交換部品も下記のみ。
- ブレーキ・フルード・タンクのブリーダキャップひび割れ→交換 12,001円
- フューエル・タンク・キャップのシールひび割れ→交換 3,740円
- 発煙筒交換(期限切れ) 2,475円
今のところ走っていて気になるところは特になし。走り始めのみステアリングホイールを回した時に少し音がした時があったくらい。
今回の車検ももうすぐなので、その結果は別途レポートしたいと思いますが、とにかく今のところほとんど修理箇所なしです。
まとめ:次の世代までバトンを渡していきたいステキな車
乗ると、毎回この車はいいなぁと思います。丁寧に乗って、次の世代の方に渡していきたい車だなとつくづく思います。
・・・とか言って林道みたいなところにも行ってしまうのですけどね。
そんなことをしてしまうのも、この車がスーパー実用車だからこそ。ドイツ車の鏡みたいな車、やっぱり使い倒さなきゃ損!ということで、今後も末永く、過保護にせずに乗っていきたいと思います。











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