ダイハツ工業によるダイハツ ロッキーの品質不正問題は、ついにOEM車のトヨタ ライズを含む受注停止にまで発展してしまいました。特に衝突安全試験についての不正は、車の根幹にかかわることなので、とても深刻だと思います(ダイハツはその2週間前にも海外向け4車種において側面衝突安全試験の不正を発表しています)。
(2023年12月20日追記:ダイハツは今回の品質不正を受けて、再発防止策が構築できるまで全車種の出荷を一時停止するとの報道がありました。調査委員会による調査で、排ガス試験等これまでに174件の不正が見つかったとのこと。
ダイハツ、全車種の出荷を一時停止 品質不正問題が拡大(日経新聞))
私は集団の先頭に立って不正を糾弾せよ、とかそういうことには全く興味がないのですが、今日記事を書いたのは、ちょっと興味深い記事を見たからです。
自動車のボディー強度や剛性はもともと左右で異なっている
これが一番興味を引いたことです。
下記の記事のままなのですが、考えてみれば当たり前なのに忘れていました。
「自動車のボディーの強度や剛性は最終的には左右対称に仕上げるが、そもそもは左右で異なっている。」(日経XTECH2023年10月27日「ダイハツ品質不正、ポール側面衝突試験のデータ偽装はなぜ起きたのか」)
そこで引用している画像は日経で加工している画像なので、Weblio辞書で引用している、トヨタ自動車が提供している資料を下記に載せています。

左右の強度や剛性が異なる最大の理由はステアリングコラムを通す穴(写真は右ハンドル車なので、右側の下部に大きな穴が開いている)。
これによって、運転席の方が強度・剛性が落ちてしまうわけです。
それを補正するために溶接やダッシュパネルの断面形状の工夫、補強材の使用などで様々なことをするようなのですが、私が取材したわけではないのでこれ以上の引用は控えておきます。先ほどの記事をご覧ください。
そもそもポール側面衝突試験て何?
ポール側面衝突試験(UN-R135)は、正式名称を「ポール側面衝突時の乗員保護試験(協定規則第 135 号)」というようです。
概要を見てみましょう。
ポール側面衝突試験(UN-R135)は、電柱などを模擬したポールに台車に乗せた車両を75度の角度で衝突させる試験。この試験では、乗員を模したダミー人形の頭や肩、胸、腹などへの衝撃の入力が一定値以下であること、ドアが外れないこと、衝突後の燃料漏れが一定以下の量であることなどを確認します。
(Googleの生成AIを元に作成)
試験の実施要領が下記に記されています。
5-1.ポール側面衝突基準 (UN-R135 関係)(国土交通省)
この実験、電柱やポールのように細いものを側面から衝突させるため、大きな力が局所的にかかることから車や乗員へのダメージは相当大きそうです。
登録車と軽自動車でポール側面衝突試験の実施条件に違いはあるのか?
不思議に思ったのは、もし登録車(ここでは軽自動車以外の乗用車を指します)と軽自動車でポール側面衝突試験の実施条件が同じであれば、登録車のロッキー(OEM名トヨタ ライズ)で基準をクリアするのはそんな難しくないのでは?ということです(つまり、不正をするほどクリアが厳しい状況ではなかったのでは?と思った)。

ダイハツ ロッキー / トヨタ ライズの全幅は1,695㎜。軽自動車規格の上限幅1,480㎜より200㎜以上幅があります。その幅のうちいくばくかは側面衝突対応のために使えるはず(最近の車の幅が広くなっているのは厳しくなる側面衝突の要件を満たすためでもあります)。それにSUVの方が車高が高く、側面衝突の際の乗員保護には有利に働くからです。
それで調べてみたら、下記に軽自動車規格についての衝突試験速度についての記載がありました。
「5-1.ポール側面衝突基準 (UN-R135 関係)」 ● 適用範囲 …」
車幅1.5m以下の自動車の衝突試験速度を26km/hか ら32km/hに引き上げます。
平成27年度 第2回車両安全対策検討会資料より
適用時期:
新型車:平成35年(註:2023年)1月20日以降認可取得車(予定)
平成35年(2023年)1月20日以降認可取得車から、車幅1.5m以下の自動車(実質軽自動車)の衝突試験速度を26㎞/hから32㎞/hに引き上げる、とあります。
つまり、今年の初めまでの軽自動車は、登録車(正確には車幅1.5m以上の自動車)よりもポール側面衝突の衝突試験速度が低かったのですね。なるほど。。
つまり、つい最近までは、ダイハツにとっては軽自動車用のポール側面衝突試験と登録車用のポール側面衝突試験のダブルスタンダードだったわけですね。
(ただし、この改正が施行されたかどうかは確認が取れませんでした)
なぜ不正をしてしまうのだろう?
これに関しては、私は組織の中の人間ではないのでわかりません。ただ、2023年5月26日には社内試験の結果を公表し「問題なかった」といっているのにもかかわらず、10月27日時点で過去の受注のキャンセルまで追い込まれたということは、第三者委員会の調査の経過でかなり根深い問題(一担当者の暴走などでは片づけられない問題)が発見されたに違いありません。

少なくとも、上記の試験方法を見ると最近まで軽自動車のポール衝突安全基準は登録車よりも緩かった、つまりダイハツとしては大部分の車はその緩い基準で作っていればよかった時代に(異なる衝突安全基準が適用される)ロッキーを作っているので、ロッキーのために特別な衝突安全対応の設計を入れなければならなかったのかもしれません。それによるコストアップを嫌ったのかも?(一応基準はクリアしていて手続きだけ不正したようにも見えますが、実際の強度は合否の微妙なライン上だったことが予想されます)
こうしてみると、衝突安全にコストをどこまでかけるかは、実のところそのブランドのお客様が決めているところがあると思います。
メルセデス・ベンツ、ボルボ、スバルなどは安全にお金を払う人たちが買うブランドになってきているので、そこに資本を投入できるわけですが(※)、軽自動車に乗る人がどれだけ安全性能に追加コストを払ってくれるか?
結局安全性など、目に見えないところに価値を見出してくれるお客様がいてくれなければ、他社よりも高い安全性能にお金をかけるよりはダッシュボードのパッドなど見栄えのするところにお金をかけた方がよっぽど商品性が高くなる、、、どうしてもそうなりそうです。
そうなると、社内での品質保証のセクションも(金食い虫と白い目で見られて)どんどん肩身が狭くなり、、、という悪循環になりそうです。
(追記:ダイハツは品質保証のセクション(品質保証部)が開発部門の中に置かれていたそうです。品質保証は作る側と独立させる、というのは組織づくりの半ば「常識」だと思っていましたが、そうではなかったのですね。ダイハツは今回の品質不正を受けて「品質統括本部」を作っていますが、それまでの体制をみると、半ば確信犯的な気がします。100%親会社のトヨタ側がこれを問題視していなかったというのもガバナンスの観点からするとずいぶんな話ではあります。)
不正をしてまで安全をないがしろにするのは決して許される事でありませんが、こうした不正には、背景に「コストをかけて基準をクリアする」ことが「売上が上がる」ことにつながらないばかりか、むしろ反比例の関係にある(高くなって売れない、重くなって燃費も悪くなる)、という資本主義の原則に反するような(?)実態があることは見逃せないことだと思います。
なかなか根深い問題ですね。。。
(※)メルセデス・ベンツが世界初の衝撃吸収ボディを採用したW120をリリースした1950年代前半は、自動車の安全設計は顧客の関心事ではなかったようです。
「後に『ミスター・セーフティ』と呼ばれるメルセデスの安全設計部門の最高責任者ベラ・バレニーは、180(W120)の発売当時を振り返ってこのように語っています。
『安全性はセールスポイントにはなりませんでした。自動車のオーナーになろうとする人々は、高価な自動車が壊れる話など聞きたくなかったのです』」
(メルセデス・ベンツ 名車たちの系譜)










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